「ゼレンスキーはニュータイプの芽」ガンダム原作 富野由悠季×高橋杉雄 終戦の日対談[2023/08/14 14:00]

まもなく「終戦の日」を迎えますが、78年が経過した今も戦争は繰り返されています。戦争を描いたアニメ・機動戦士ガンダムの原作者と第一線にいる安全保障の専門家が考える“戦争と平和のかたち”とは?

■ガンダム原作者と考える“現代の戦争”

機動戦士ガンダムの原作者・総監督 富野由悠季氏(81)(以下、「富野氏」)「政府とか軍のトップに届くことは人類史で一度もなかった。」

防衛研 防衛政策研究室長 高橋杉雄氏(50)(以下、「高橋氏」)「戦争についてアニメから知ることが多かった。」

高橋氏「ちょっと深すぎて…。」

富野氏「カットしてくださいねここは。ゼレンスキーは“ニュータイプの芽”かも知れない。」

機動戦士ガンダムの“生みの親”富野由悠季監督。安全保障のスペシャリスト・高橋杉雄氏。2人が「戦争と平和」について、語り合いました。

■富野氏、父が風船爆弾の開発に

高橋氏「私は1972年生まれですから戦争と関わりのない人生を送っている。監督ご自身は戦争の時期にかぶっていると思うんですが。」

富野氏「かぶっているとは言っても防空壕に逃げ込んだ記憶が2、3度あるだけで被害者として深刻じゃない。そういう意味での戦争の記憶があるのかというと父親から聞かされた話は『だけどなあ』って『コンニャク爆弾作らせられちゃったんだよね』『コンニャク爆弾ってなあに』だから『風船爆弾』で。」

太平洋戦争末期、追い詰められた日本軍はアメリカ本土攻撃のため、「風船爆弾」を開発。無謀とも思える作戦に出ました。

富野氏「(父親が)コンニャク爆弾の気球の被覆を作る試験の段階の仕事をさせられて、コンニャクのりが有効だから生産できる手法を開発することを会社的にやらされた。化学専攻の父が戦後になっても言っている嫌な話がある。『太平洋戦争の時シンガポールまで行ったところでやめとけばよかったのに』という意見をもっている。」

勝ち目のない戦争を否定しなかった父親。大人への疑問が沸き起こった瞬間でした。

富野氏「(父親には)もうちょっとモノを考えてほしかったと中学から高校時代の印象でもあった。そういうことが僕にとって戦争を考える上でかなり大きかった。」

■「ゼレンスキーはニュータイプの芽」

1979年に放送が開始された「機動戦士ガンダム」。ロボットアニメに政治や、戦争のリアルな描写を持ち込み、これまでになかったアプローチでアニメ界に革命をもたらした作品です。続編も次々と制作され、シリーズは60以上。世界中にファンを獲得し、ガンダム関連の売り上げは去年、初めて年間1000億円を突破しました。

高橋氏「去年の2月にロシアとウクライナの戦争が始まってこの戦争は色々な特徴があるが、(富野監督は)これまで色々な作品の中で戦争を描いてきているが、描かれている戦争と映像として出てくる戦争とで見ているときにどのようなことを感じているのでしょうか」

富野氏「ロシア軍のトップの人たちの自信のない目つきを見ると、こういう人たちが指揮をとっていると思えない。だからワグネルが出てきてしまったのではないか、民間軍事会社に頼らざるを得なくなってしまったという構造がわかってきたときに、これは当然旧来の戦争とは根本的に違ってきているので、戦争とは違うような気がしている。今回の戦争を仕掛けたプーチン大統領はSNSを使っていないという証言がある。トランプ大統領と全然違うところでリアルタイムで指揮するセンスを持っていない。この1年を見て分かるのは、軍事というものを基本的に理解した上で統治していると思えない。」

高橋氏「プーチン大統領は人の認知空間、認識の中で戦争は恐らく起こっている。実際彼は簡単に勝てると思ったからこの戦争を始めた。戦争始める前に1年半かかっても泥沼の消耗戦と知ってたら戦争をやらなかった可能性がある。」

富野氏「ゼレンスキーの(喜劇役者時代の)フィルムを見て『こいつが大統領になっているならそりゃ潰せるよねって』。人を考える上で大きなヒントになっていて旧来の政治家とか旧来の軍人とか軍閥に頼っている人たち、専門家が正しいかと言った時全く違う目線を持った人がガバナンス(統治)をする 軍をコントロールすることができたら新しい芽が出るんじゃないか。ゼレンスキーは“ニュータイプの芽”かもしれない。」

「ニュータイプ」とはガンダムシリーズに登場する架空の概念で、超人的な直感力と洞察力を備えた次世代の人類のこと。ガンダムの主人公アムロ・レイは「ニュータイプ」として覚醒し、戦争終結へとつながる活躍を見せました。

■「絶望論は子どもたちに言ってはいけない」

戦後78年。今も繰り返される戦争を2人はどう見ているのでしょうか?

高橋氏「私はこの戦争(ウクライナ侵攻)がおこったとき、戦争に向き合って考えていた時に『人類は変わらないんだ』という絶望的な思いを持った。人類は核戦争に至らずに人類は滅びることなく冷戦を乗り切ることが出来た。安定していた時代が約30年間。日本では平成と重なる時代にあった、平成が終わるぐらいから世界の対立が深まって大戦争がおこってしまった。人類は戦争を捨てることは出来ない。」

富野氏「近未来を絶望論で締めくくるのは簡単なことです。アニメサイドから物を考えて来た時『絶望論は絶対に子どもたちに言ってはいけない』と思うようになってきた。『人類が戦争を忘れられない種なんだ』というのはいい加減やめなさいよ」

富野氏「地球に暮させて貰ってるっていうのは、どういうものかっていうことをきちんと考えられるバランスを持ち得なくちゃいけないが、政治家といわれる人たちがそういうふうにものを考えるか? 票田のことしか考えないんじゃないか?」

富野氏「反戦反戦という言葉とか、私は被害者だから、ということで被害者が声高に言います。政府とか軍のトップに届くことは人類史、一度もなかった。我々民百姓は思い知らないといけない。」

戦争を経験し、学び、描いてきた富野由悠季監督。「未来の子供たちには、戦争の無い世界を作ってほしい」そう、希望を託したいと話します。

富野氏「今回の事例(ウクライナ侵攻)で持っている深刻さを理解してくれる世代が生まれて具体的に決定権がもてるようになった20年後か30年後ぐらいに新しい形で人類のガバナンス(統治)がありうるんじゃないのかな。今日までの人類の延長線上でものを考えることを一切やめる。次の英知が生まれてくるんじゃないか。そういうことが出来たときにガンダムの“ニュータイプ”につながる。」


8月13日『サンデーステーション』より

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