「謝罪会」で加害者側が被害者糾弾 認定された“二次被害” 埼玉・生徒いじめ自殺[2023/08/14 18:00]

 「教育委員会は大ウソつき。いじめた人を守ってウソばかりつかせる」
2019年9月、埼玉県立高校の1年生だった小松田辰乃輔くん(当時15歳)が遺書を残して川口市のマンションから飛び降りた。小学6年生から始まったいじめに加え、学校の対応による「二次被害」が自殺を引き起こした。
その最たるものが、加害者による「謝罪」の場となるはずだった「謝罪会」だった。加害者側から浴びせられる「人のせいにするな」「お前のせいだ」などの言葉。
学校の不十分な対応により「謝罪会」は逆に被害者を糾弾する場になってしまった。
(テレビ朝日社会部 秋本大輔)

■「学校に行くのがこわい」届かなかった辰乃輔くんの訴え

 辰乃輔くんは小学6年生の時に所属していた地元の野球チームや、中学1年生で所属していたサッカー部などで仲間外れにされる、物を壊されるなどのいじめを受け、少なくとも4回自殺未遂を繰り返した。

 軽度の知的障害があった辰乃輔くんは、いじめの被害を主にノートに記して教師などに繰り返し訴えた。
「学校に行くのがこわい。このきもちは、だれにも分からない。ぼくの生きている意味はあるのかな?」
「くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい」
ノートには、学校には行きたいがいじめられるのが怖い、という辰乃輔くんの複雑な思いが書かれていた。しかし、ノートを受け取った教師らはノートそのものの信ぴょう性を疑い、十分な対応をすることはなかったという。

 「学校の先生たちは障害という部分を疑って、『辰乃輔がそんなものを書けるわけないだろう』とか、『親が書いたんだろう』と言いました。本人の苦しさを学校側は受け止めてくれなかった。そのことがすごく遺憾でしかないです」
辰乃輔くんの母親は当時の学校側の対応をこのように話す。
辰乃輔くんが残したノートは10冊以上にも上った。しかし、このメッセージを学校側が真剣に受け止めることはなかった。

■調査委員会 学校による二次被害を認定

 辰乃輔くんが死亡してから4年。第三者の調査委員会による報告書がまとめられた。自殺の主な原因とされたのが「いじめといじめ申告後の二次被害」だった。
「いじめを訴えたがゆえに、さらに中傷にさらされたり、孤立を深めるという二次被害を深刻化させた」
報告書は、学校側が十分な対応をしなかったために辰乃輔くんが非常に大きな精神的苦痛を受け、それが数年間にわたって継続したと指摘した。いじめ問題に詳しい弁護士によれば、いじめだけでなく、学校の対応による「二次被害」までもが認定されるのは異例だという。

■「人のせいにするんじゃない」 「謝罪会」が被害者の糾弾の場に

 報告書で「二次被害」として認定されたものの一つが、学校が設定した「謝罪会」だった。
中学3年の6月、加害者側の父親と祖母、辰乃輔くんと母親が学校に集まった。本来であれば、そこでは加害者側が謝るはずだった。
辰之輔くんはこの前の年の始業式の日、飛び降り自殺を図り、一時意識不明の状態になった。この4回目の自殺未遂以降、辰乃輔くんは車いすでの生活が続き、また、精神的にも追い詰められた状態が続いていた。しかし学校の『謝罪会』では逆に、加害者側がその自殺未遂を糾弾する場となってしまった。
その時の音声が残されていた。

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加害者祖母:「何を希望してるのよ」
辰乃輔くん:「謝ってほしくて」
加害者祖母:「ふざけるんじゃないよ。あんた」
加害者父親:「はっきり言おうか。その足になったのは君が飛び降りたからだ」
加害者祖母:「それを人のせいにするんじゃないよ」
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 辰乃輔くんは約1時間にわたり、加害者側に責められた。母親によれば、そこには担任、教頭、別の教師の3人がいたが、誰一人として制止しようとしなかったという。耐えられなくなった辰乃輔くんは大声を上げた。そして、先生に連れられ、教室を後にした。

 謝罪会以降、辰乃輔くんはその時の光景がフラッシュバックするようになり、夜も眠れなくなった。夜中に突然、家を飛び出そうとすることも多く、母親は辰乃輔くんと自分の足をひもで結んで寝た。

 「また、いやな夢を見た。人のせいにするなと言われた夢を何度も何度もたくさん同じ夢を見る」
「くるしいくるしいくるしい」
辰乃輔くんは最後まで、謝罪会で味わった苦痛をノートで訴えそして、飛び降りた。
当事者の仲裁のために学校で設定された「謝罪会」が逆に辰乃輔くんを死に追いやる結果となった。

■母親「加害者でなく被害者に寄り添ってほしかった」

「加害者に寄り添うのでなく、被害者に寄り添った対応をしていれば、二次被害もなかっただろうし、『いじめの芽』というものを早く摘めたんじゃないかと思います」
辰乃輔くんの母親は学校の対応についてこのように振り返る。

 第三者委員会による調査結果を受けて、川口市の教育長は「報告書に記載された内容を真摯に受け止めますとともに、再発防止に努め、二度とこのような痛ましいことが起こらないよう、対応していく」としている。

 取材の中で私は、一時間以上に及ぶ「謝罪会」の音声を聞いた。途中から加害者側は周囲のものをたたいて大きな音を鳴らし辰乃輔くんを委縮させるなど、想像以上に辰乃輔くんを責め立てていた。なぜだれも止めないのか、聞いていてこちらも苦しくなった。
音声記録の加害者側の発言をよく話を聞くと、彼らは学校から会の趣旨についてきちんと説明を受けておらず、また自分の子どもがいじめの加害者であるということも納得せずに来ていたようだ。
 そのような中で学校側は謝罪の場を作って当事者を引っ張り出すだけで、「中立的な態度」を理由に辰乃輔くんが一方的に責められている状況を放置した。これは学校としての責任を放棄して、当事者だけに解決を任せる、無責任な態度であったと思う。いじめについて加害者に納得してもらう努力もせずに、「解決」の形を作りだすために形式的な「謝罪会」を開いたことが悲劇につながったのではないか。

 辰乃輔くんの母親は私の目を真っすぐに見て、「同じようにいじめに苦しんでいる生徒やその保護者が多くいる。辰乃輔のようなことが二度と起きないためにも、この問題を風化させないためにも報道してほしい」と話した。

 残念ながら、いじめはどこでも起こりうることで今も多くの生徒らが苦しんでいる。学校や教育委員会には辰乃輔くんのいじめにおける教訓を活かし、いじめを訴えた側がそれによりさらに責められるようなことが起きないよう、被害生徒に寄り添った対応をしてほしい。


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