タクシー業界に異変 外国人ドライバー増加のワケ…筆記試験合格まで“83回”挑戦も[2023/09/16 11:00]

 実は今、外国人のタクシードライバーが増加しています。増加する外国人タクシードライバーが求められるワケを追跡しました。

■二種免許の筆記試験合格まで…83回挑戦

 アフリカ・ガーナ出身のカリム・ハッサンさん(48)。とにかく陽気で明るいハッサンさんは去年10月、タクシードライバーになりました。

 ハッサンさん:「83回、試験を受けました」

 なんと二種免許の筆記試験に合格するまで、83回もかかったといいます。

 ハッサンさん:「(客に)もしかしたら、83回でハッサンって名前を付けているんじゃないですか?って聞かれる」

 デビューするまで、およそ1年かかったそうです。

 ハッサンさん:「(日本は)ルールも多い。ガーナはそんなに標識とかない」

 17年前に来日したハッサンさん。前職は携帯電話ショップの店員でしたが、コロナ禍で仕事が激減し、転職しました。

 客:「すごい、83回も挑戦したんですね」
 ハッサンさん:「はい」

 お約束の83(ハッサン)トークです。

 ハッサンさん:「今(気温)36℃なんだけど、ガーナ行ったら36℃も(日本より)涼しい。なぜかというと、結構、風が強いので」
 客:「そうなんだ」

 この日、浅草から乗ってきたのは、福岡県から来た家族です。

 客:「わたし、今回初めて。初めての東京」
 ハッサンさん:「東京初めて?」
 客:「初めて」
 ハッサンさん:「おおーヤバイ」

 目的地の上野へ向かいます。

 ハッサンさん:「ここね、アメ横。色々売っている」

 合格するまで、83回も受験したことが嘘のよう。お客さんを楽しませる余裕があります。

 客:「頑張ってください」
 ハッサンさん:「ありがとうございます」

■人手不足の解消へ…外国人の力が必要

 東京・文京区に本社を置くタクシー会社「日の丸交通」。創業して73年ですが、異例の事態に直面しています。

 25カ国・80人以上もの海外出身ドライバーが在籍するようになっているのです。

 日の丸交通採用部 古舘博幸部長:「高齢化の問題、タクシードライバーのなり手も減っている状況ですので、日本人に限らず外国人の力を借りたい」

 タクシー業界は、ドライバーの数が年々減っています。人手不足の解消のためにも、外国人の力が必要だといいます。

 さらに、インバウンドの急速な回復で、外国人観光客への対応が重要になっているのです。

 ドライバー歴1年、日系ブラジル人のサントス中崎吉五郎さん(48)は、オーストラリアから来た親子と話が弾みます。

 サントスさん:「私は、アマゾンのジャングル出身です」
 オーストラリアから来た観光客:「行ったことがあるわ」
 サントスさん:「本当に?いいですね。私はね、自然が大好きなんですよ」
 オーストラリアから来た観光客:「大都会の東京とは違うわよね」

 サントスさん:「私は8言語話せます」
 オーストラリアから来た観光客:「ワーオ、8言語!?」
 
 8言語を操るサントスさんの前職は、ファンドマネージャーです。様々な国のお客さんと接して言語を覚えたといいます。

 サントスさん:「(スペイン語で)私もスペイン語が好きです」
 オーストラリアから来た観光客:「私と同じくらい、スペイン語うまいわ」
 
 オーストラリアから来た観光客:「ありがとう」
 サントスさん:「楽しかったです」
 オーストラリアから来た観光客:「とても楽しかったわ」
 サントスさん:「ありがとうございました」

 続いて、芝公園から乗ってきたのは、オランダから来た家族。「豊洲の施設に行きたい」と言いますが、何やら問題があったようです。

 サントスさん:「ナビが違う施設を指している気がします。一度、確認してもいいですか?」「教えてもらった住所だと、ナビが行きたい施設と違う場所を指しています。多分、これじゃないと思うんですよね」「一度、メーターを止めておきますね」

 オランダから来た観光客:「ありがとう」

 語学が堪能なうえ、接客もそつがない。実に頼もしいサントスさんです。

 サントスさん:「ありがとうございました。楽しんでね」
 オランダから来た観光客:「ありがとう」

■外国人ドライバー 教官との路上研修
 
 この春、タクシードライバーになるために入社した外国人がいます。

 レナード・ジャスティンさん(43):「最初は半蔵門って言っていましたよね」

 アメリカ出身のレナードさんです。来日しておよそ20年、これまで茨城県で英会話教室を経営してきました。

 レナードさん:「コロナ禍で激しい波があって、生徒が入ったりやめたりとか、それでちょっと苦しくなって。違う仕事をやってみた方が安定する」

 3カ月間、様々な試験を受けてきたレナードさん。この日は、教官がお客さん役を務める路上研修の日です。教官は様々なシチュエーションを演じます。

 タクシードライバーになるためのポイントは、お客さんが希望する道順で走れるかです。

 教官:「ちょっと急いでもらっていい?」

 どうやら、お客さんが急いでいる設定のようです。急かされても、冷静さを失ってはいけません。

 教官:「どうしたの?運転手さん、急いでよ」
 レナードさん:「ちょっと待ってください。車、結構来ていますので、安全のために出発します」
 教官:「半蔵門右に曲がったら麹町警察署の信号があるから、それを左に曲がってもらっていいですか?」

 レナードさんは道順が分からなくなったのか、カーナビを確認しています。焦っている様子ですが、その時…。

 教官:「行かない、行かない」
 レナードさん:「はい、分かりました。すみませんでした」

 この先は右に曲がらなければならないにもかかわらず、左に車線変更しようとしてしまいました。

■「七転び八起き」外国人ドライバー誕生

 さらに、料金でも痛恨のミスがありました。

 レナードさん:「500円になります」
 教官:「ずいぶん安いね、運転手さんコレ」
 レナードさん:「はい。実車、押し忘れました」
 
 目的地に到着する5分前にメーターを押していました。

 教官:「うーん。まだレナードさん出せない」
 レナードさん:「分かりました。はい」

 新人の場合、お客さんとのコミュニケーションが特に大切だといいます。

 教官:「地理の知識が新人は少ないので、全部自力で解決しようとすると余計に迷惑をかける。(道順を)教えてくれるお客様だった場合は、繰り返し聞いてください」
 レナードさん:「はい」
 教官:「細かく」
 レナードさん:「分かりました」

 休日には、都内を自転車で走るレナードさんの姿がありました。

 レナードさん:「十二社通りを走りましょう」「(Q.『じゅうにしゃ』通りでは?)じゅうに『しゃ』ではなく、じゅうに『そう』」「(Q.申し訳ありません)大丈夫です」

 レナードさんは、こうして道を覚える努力を積み重ねています。

 レナードさん:「失敗しても、七転び八起きですね、何回も何回も転んでも起きて、頑張っていつか成長すると思います」

 その後、努力が実り、社内試験を無事クリアしました。

 またひとり、タクシー業界を担う外国人ドライバーが誕生しました。新たな人生を歩み始めたレナードさんは、「七転び八起き」の精神できょうも頑張っています。

 客:「タクシードライバーいいですよね」
 レナードさん:「おもしろい仕事ですよ。毎日が楽しいです。色んな人に会えますしね」

こちらも読まれています