“消える路線バス”首都圏でも減便相次ぐ背景を現役運転手が告白「負の連鎖が…」[2023/10/01 23:30]

首都圏の“あるバス停”の時刻表です。きょう1日から、大幅に減便となりました。
全国で相次ぐ路線バスの廃止や減便。番組は現役ドライバーに実情を聞きました

■消える「路線バス」首都圏でも“減便ラッシュ”

(佐々木一真アナウンサー)「早朝5時、まだ辺りが薄暗い中、千葉市内にありますこちらのバス停では、時刻表を張り替える作業が行われています。新しい時刻表を見てみると、かなり便数が減っている様子が伺えます」
長年、地域の重要な交通手段として使われてきた路線バス。1日、行われたダイヤ改正に伴い、2つの路線で、60便から7便へと大幅な減便が行われました。
(減便を行ったバス会社)「収支的にも非常に厳しい路線ですし、限りある乗務員で運行本数も限られてしまって、このような対応にさせていただきました」
いま、こうした“バスの運転手不足”による路線の廃止や運休、減便が相次いでいます。
(路線バスの利用者)「(親の)病院の付き添いとかあるので、運賃を倍額にしても良いからこのままの状態を保ってほしい」
「よく使っていたのですごく不便になります。見たら朝1本だけちょっとびっくりしました」
影響は、東京都内にも…
(佐々木一真アナウンサー)「住宅街の中にありますこちらのバス停。ブルーシートがかけられています。2年前から運行を休止しているということなんです。さらに、隣には別のバス会社のバス停があるんですけれども、時刻表を見てみると、平日が1日4本、そして土日祝日に至っては、一本も運行されていないという状況になっています」
この付近には、3年前まで2路線が運行しており、歩けば30分かかる最寄り駅まで、10分ほどで行くことができました。しかし今では1路線の運行となり、平日4本を残すのみ。
(バス停近くに30年以上住む櫻澤さん(85))「ぜんそくに緑内障に(心臓)弁膜症ですか、あと潰瘍性大腸炎とか」
Q.病院に行く回数は?
「平均すれば月に3〜4回くらい」
バス停の近くに30年以上住む櫻澤さん、85歳。バスの本数が少ないため、タクシーや自転車などの移動手段に頼らざるを得ない状況です。しかし…
(櫻澤さん)「(タクシーは)片道1600円くらいですかね。ですから往復で3000円ちょっと。ちょっとしたケーキ1個くらい買いに行くんだったら、タクシー代の方が高くつく」
問題は、お金だけではありません。
(櫻澤さん)「自転車乗っていましたけど、今はもう目を悪くして(家族から)危険だから乗るなって言われている」
櫻澤さんは、目が不自由なため、ひとりで外出するには危険が伴います。
(櫻澤さん)「身体障害のある人にはやっぱり不便だと思います。近所の方も、足腰が弱っている人がいますから公共の乗り物があれば便利」
市民生活を直撃する運転手の減少。離職や高齢化などにより、年々人数が減り、2030年に今の路線を維持するためには、36000人が不足するという試算もあります。

■「負の連鎖が…」現役バス運転手語る実情

(現役の路線バス運転手Aさん)「やはり運転手がいない理由は長時間労働と低賃金、あとは高リスクという3つのことが原因かなと思います」
首都圏で路線バスの運転手として10年間働く現役ドライバーのAさん。バス業界の実情をこう語ります。
(Aさん)「人がいないので5日行って2日休みというのは、有って無いようなもので休日出勤して6日働いて1日休む。一日休んだ次の週は7日行って1日休んでまた5日行って、ようやく2日休めるみたいな感じです」
Aさんが働く会社の運転手の多くは40代後半。新入社員は入って来るものの、大半は2年程で辞めてしまうといいます。
(Aさん)「15時間働いて15時間分の給料が出るかというとそうではなくて、バス会社の勤務は朝のラッシュ時、夕方のラッシュ時が本数が多いので、昼間の5〜6時間の休憩もカットされてしまう。15時間ほど拘束されても8時間の給料しか出ない。どこの会社でもそういう現状だと思う」
国交省のデータによると、バス運転手の年間所得額は399万円。全産業の年間平均所得額497万円と比べると100万円近く低い金額となっています。
(Aさん)「今の基本給が低い現状なのでなかなか生活も難しい。長時間勤務をしなくてはいけないという負の連鎖が生まれている気はします。子どもの学費のために勤務時間の長い勤務を自らやりたいといって生活している人が結構多いと思います。私は独身ですが今の給料で結婚して子どもを育てるとなると厳しいものがあると正直今感じています」
交通事故以外に、車内の事故などの高いリスクも、人手不足の要因だと言います。現役運転手がいま、求めることとは…
(Aさん)「勤務時間をもっと短くしてさらに給料を上げて人間らしい生活を送れる状況にならないと、今後はバスの運転手は増えないと思いますね」

■路線バス“運転手確保”へ体験会で採用活動

こうしたなかバス会社も、あの手この手で、人材確保に乗り出しています。
(小原千晶ディレクター)「黄色いとても派手なバスがやってきましたね。バスには、『瀬戸ぎわの公共交通を救え!』とあります」
“宇宙一マジ”と銘打って人材を募集しているこの会社が、この日行ったのは「大人の運転体験会」。路線バスの運転手をはじめ、1年間で200人のドライバーの採用を目指しています。
(両備ホールディングス執行役員大上真司さん)「いまギリギリの状態で運営している。車両の数に対して大体1.3倍くらいの乗務員を確保できるというところを目指して活動している」
普通免許を持っている人なら誰でも路線バスを運転できるため、家族連れなど34組が参加しました。
(参加した鈴木さん(仮名))「自分のセカンドキャリアに向けて、ちょっとでも早く準備をしようかと思って参加しました」
就職を視野に入れ、大阪から来た鈴木さんは、大型二種免許を持っておらず、もちろん、バスの運転も初めて。いざ、運転を始めると…
(参加した鈴木さん(仮名))「おぉ!なかなか曲がる時が難しいですね」
(バス会社の指導員)「そうですね、ちょっと大きめに、気持ち大きく(ハンドルを)切ってやるかなーぐらいで」
およそ10分間の運転を終え…
Q.どうでした?
(参加した鈴木さん(仮名))「怖かったです!」
「でも、お上手でした」
「ありがとうございます!」
体験を終えた鈴木さんを、採用担当者が待ち構えます。採用に必死の会社側は…
(両備ホールディングス執行役員大上真司さん)「もし、興味いただければ、ぜひ応募頂ければ大変ありがたいと思っています」
(参加した鈴木さん(仮名))「自分の人生設計をするきょうはいい機会になったと考えています」

労働時間の上限が課せられる、いわゆる「2024年問題」を半年後に控える今が、正念場だと言います。
(大上真司さん)「今、この正念場に頑張りきれるかどうかっていうのは、5年先10年先のその会社の運命を決めてしまうくらい、大事な時期だと思っている」

この問題に対し、専門家は…
(近畿大学経営学部地域交通論高橋愛典教授)「政府、自治体が補助金を出すことによって、その費用がまかなえていない部分、賃金が上がらない部分を負担していくと。ただドライバーの育成には5年10年場合によっては時間がかかるわけですから、単純に賃金を上げたからと言ってドライバーさんがすぐに増えるというわけではない」
今、対策の一つとして、自動運転の実証実験が進んでいます。しかし高橋教授は、これが今の状況を打開できるか疑問が残ると言います。
(高橋愛典教授)「技術の進歩が進んでいるのは事実です。ただ、バスのような場合は本当に無人運転ができるようになるというのは、やはり10年単位の時間がかかるのではないかと(利用者も)少しずつ不便になるということを受け入れないといけない部分が出てきていると思います」


10月1『サンデーステーション』より

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