東京でもクマ 専門家“遭遇時とるべき行動”…知られざる生態「熊カメラ」[2023/10/23 20:05]

 市街地での出没が相次いでいるクマ。今年度は17の道府県で死傷者が出ていて、被害者数は過去最多を上回るペースとなっています。さらに、東京都内でもクマが目撃されていたことが新たに分かりました。私たちはどのようにクマと向き合えばいいのでしょうか。首に付けたカメラで野生のクマの生活を撮影した貴重な映像など、こうした記録や専門家への取材からクマの生態に迫ります。

■東京でもクマ目撃 近隣も驚き

 東京・町田市では18日午前8時ごろ、境川源流付近でツキノワグマとみられる野生のクマが登山者によって目撃されました。この辺りはハイキングコースにもなっています。目撃されたのは中型犬よりも少し大きいくらいのクマ1頭。

 登山者はラジオを流していて、その音にびっくりしたのか、クマは山を駆け上がって行ったといいます。けが人はいませんでした。

 東京都のクマの目撃情報は今年度、これまでで111件。都内にはツキノワグマが100頭ほど生息していて、生息域は東側に拡大しているといいます。今月に入ってからもクマの目撃情報が6件、クマの痕跡が2件。

 これから紅葉やキャンプなど行楽シーズンを迎えるなか、町田市のアウトドア施設ではクマの出没に警戒を強めています。

 ネイチャーファクトリー東京町田 笠倉秀貴所長:「この時期のクマは冬眠のため、餌(えさ)をたくさん食べる。それで歩き回り、人間と会い、また逃げて餌を探し歩いていたのでは。春から警戒はしていた」

■「もう死ぬんだな」被害者語る

 19日、北秋田市中心部で通学中の高校生など5人が相次いでクマに襲われました。当時、被害に遭った男性がその恐怖の一部始終を語りました。

 クマに襲われた湊屋啓二さん(66):「自宅兼工場がある方の(車庫の)シャッターを開けた途端、目の前にクマがいた。向かって来たんで、私も無我夢中で走った。反射的にもう、やられると思ったんで。10メートル近くは走ったと思うんだけど。どうやって倒されたかも分からない。後ろから多分、背中すごい傷になっているんで、後ろから爪でやられて転ばされて、頭を横に半身になりながら右の方を上にしてたんで、右の方がとにかくひどくやられている。あっち(クマ)も興奮してて、かじられているのか、爪でやられているのか分からないけど『もう死ぬんだな』と思ってましたから」

 男性はかみ付かれるなどの被害を受けましたが、隙を見て逃げ出し、九死に一生を得たといいます。

■東京でもクマ 被害“過去最悪”

 日本各地で相次いで報告されているクマによる被害。

 環境省によりますと、今年4月から先月までにクマと遭遇して被害に遭った人は合わせて109人に上っています。2006年以降、被害が最も多かった3年前は9月末の時点で被害者が86人。今年はすでに23人上回り、過去最多のペースとなっています。

 市街地の周辺に出没するクマは「アーバン・ベア(都市型クマ)」と呼ばれ、クマの専門家も警鐘を鳴らしています。

 酪農学園大学 佐藤喜和教授:「アーバンベアとは人の生活圏、市街地の近くに定着して繁殖するようになったクマ。特に今年のように森の中で餌が不足して、クマが冬眠前に餌を求めて動き回る季節になると、人の生活圏に入ってしまうことが起きている。人の生活圏の近くにクマがいる状況、ウィズベアーズ」

 佐藤喜和教授はクマとの共存に向けた新たな対応が必要だと指摘します。

 酪農学園大学 佐藤喜和教授:「クマがいる状況で暮らしていかないといけないことを踏まえて、まちづくり、地域づくりを国レベル、都道府県レベル、地域の市町村レベルでも実現していかないといけない時期にきている」

■“熊カメラ”食事風景とらえた!

 私たちはどのような備えが必要なのでしょうか。鍵を握るのは、いまだ謎が多い野生のクマの生態を解き明かすことです。

 東京農工大学大学院 小池伸介教授:「クマという動物は野外で直接、観察することができない。生態に不明な部分が多い。それを逆手にとって、クマの方にクマの行動を記録してもらう研究を行った」

 東京農工大学大学院の小池教授。ツキノワグマの生態を調査するため、小池教授らの研究チームは野生のクマの首にGPS(全地球測位システム)装置を設置。そこにカメラを内蔵し、クマ目線での映像を記録することに成功しました。

 普段、なかなか見ることができないツキノワグマの食事の様子。カスミザクラの果実などを食べています。

 東京農工大学大学院 小池伸介教授:「今回は4頭分のデータ。同じ場所、同じ時期に生活する4頭のクマでも個体によって食生活が違う。ある個体はカスミザクラという桜の木の実をすごく食べる。ある個体は木の葉っぱをすごく食べる。食生活を見ても全然食べ物が違うことが分かってきたのが1つの発見。クマがやぶの濃い所を通っていることが分かると、人里の周りや畑の周りのやぶの濃い所は刈り払って見通しを良くしようと。クマが好きな景色、嫌いな景色が分かると(クマが侵入しにくい)環境づくりに役立つ可能性がある」

 実際にクマに遭遇してしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。

 辺りを警戒しながらカメラに近付いて来るツキノワグマ。映像を撮影したのは生涯を通してツキノワグマを研究している米田一彦さんです。これまで、クマに遭遇した回数は…。

 日本ツキノワグマ研究所 米田一彦理事長:「50年やってきたから3000回ともいっている。危険な局面は普通の人よりも10倍も20倍も多かった。それでもきちんと生き残ったので、今こうして提案している」

 3000回クマと遭遇したという専門家が対策を提案。野生のクマと出くわした時に取るべき行動とは…。

■クマと3000回遭遇 どう対処

 日本各地の市街地に出没するアーバン・ベア。

 野生のクマと遭遇してしまった場合、どんな対策が有効なのでしょうか。

 ロケット花火を鳴らすとツキノワグマは逃げていきました。こうした映像をクマ対策の研究のため撮影しているのは日本ツキノワグマ研究所の米田理事長です。

 日本ツキノワグマ研究所 米田一彦理事長:「クマは鼻の動物。嗅覚は犬並みに強い。鼻を上げているのは警戒情報なので、こちらも気を付けないといけない」

■専門家警鐘 クマの目線に注意!

 この時、すぐ目の前で撮影している米田さんの存在には、まだ気が付いていないといいます。

 日本ツキノワグマ研究所 米田一彦理事長:「こちらに気付いていない。クマは非常に目線が低いから、自分の足元だけを見ている。急に驚いて、180度くるんと返って逃げていった。気付かれないのが本当は一番良い」

 事前の鈴などを鳴らす対策を行っていてもクマに遭遇してしまった場合は木の陰や市街地の電柱などに隠れながら動かずに、クマの行動を監視するのが良いといいます。

 日本ツキノワグマ研究所 米田一彦理事長:「背中を見せる動物は弱い動物と認識するので、走るというのはとにかく目標が逃げているから、クマとしては追跡しやすい」

 クマに襲われるのが避けられない場合には…。

 日本ツキノワグマ研究所 米田一彦理事長:「ヒグマ研究者や北米の研究者が提案しているのは、足をたたんで首を両手でガードして体を丸くすると形が一番固いガード法だと言われている」

 致命傷を受けるリスクを減らすことが大切だといいます。

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