千年の歴史に幕「蘇民祭」舞台裏に寺と檀家の伝統儀式“お精進”し撮影の貴重映像も[2024/02/18 23:30]

黒石寺の蘇民祭が惜しまれながら1000年以上の歴史に幕を閉じました。
その舞台裏を取材すると、祭りの存続よりも大切にしたいものが見えてきました。

■“1000年の奇祭”終了の波紋 人気行事なぜ

(山本将司ディレクター)「ものすごい熱気です。100人ほどいますでしょうか、男性たちがジャッソー、ジャッソー、ともみくちゃになっています」
国の無形文化財にも指定されている岩手県奥州市の黒石寺 蘇民祭。1000年以上の歴史を持つと言われる祭りがきのう17日、幕を閉じました…
「五穀豊穣!無病息災!蘇民将来!」
この蘇民祭が一躍、全国に知れ渡ったのは2008年、このPRポスターを巡り「不快感を与えるおそれがある」として、JRが駅での掲示を断ったことで取材が殺到、ピーク時はおよそ1万人が詰めかけた祭りとして注目されました。しかし―。
(黒石寺 藤波大吾 住職)「令和7年以降の黒石寺蘇民祭についてなんですれども、まず祭り自体を行わないという方向でいきたいと思っております」
住職は「祭りの中心を担う関係者の高齢化と担い手不足により、祭りを維持していくことが困難な状況になった」ためと説明。地元は大きな衝撃を受けました。
(奥州市 倉成淳 市長)「観光の経済効果というのは やはりあると思いますし、そういう意味では非常に残念なんですけれども…」
蘇民祭の運営関係者も戸惑いを隠せません。
Q.お寺や檀家は青年部では助けられない?
(黒石寺蘇民祭保存協力会 青年部 菊地敏明 部長)「うちらではやっぱり入れないところなので。先祖代々からやっているというしきたりもあり厳しいところが…」
(黒石寺蘇民祭 世話人 佐々木光仁さん(61))「今年で終わっちゃったらみんな中途半端になる。本心は終わらせたくありません」
“日本三大奇祭”と呼ばれ、多くの注目をあびてきた祭りは何故、幕を閉じたのでしょうか―。
蘇民祭は主に寺と檀家を中心に準備や伝承儀式が行われます。そして50人ほどの「祭り保存協力会員」が境内の準備などを担当。その他、市の観光協会など大きな組織となっています。

■貴重映像 祭りの陰で守り通した“信仰”

表向き、荒々しい祭りだけが注目される蘇民祭。しかしその裏で、お寺と檀家は伝統に基づき非公開の儀式などを行い祭りに臨んできました。
この映像は1999年、蘇民祭の準備をする檀家を収めた映像…祭りの儀式に使用する木や松明を作る様子が。
「鬼子の面だ、怖い面だよ。でもこの様に強くなる」
黒石寺は来年以降、祈祷などの行事だけは残し、荒々しい祭りの終了を決めました。
(黒石寺 藤波大吾 住職)「お祭りの内側の重要な核になる部分はいろいろな儀式がある、その部分は代々この家(檀家)がやるということが決まっておりまして、その方が高齢化して、その家が将来の担い手がいないという…」
現在、黒石寺を支える檀家は10軒。ほとんどが高齢者だといいます。檀家にとって蘇民祭の準備は厳格な“しきたり”の中で行われます。
「蘇民祭(一週間)前だったら、おたく(精進していない人)は、ここにあがることさえできないです」
蘇民祭を行うため“お精進”という身を浄める厳しいルールの存在。
(檀家(60代))「食事は肉、魚、卵、野菜でいえばネギ、ニラ、それらをまず1週間断つ。食べかけで余っているものとかは、うちでは廃棄する」
祭りが一週間に迫ると口にできるのは、動物性ではない豆腐やコンニャク、そして匂いと刺激が少ない野菜類。出汁もカツオ節ではとれないと言います。
さらに蘇民祭は“火の祭り”でもあるため、こんなしきたりもありました。
(檀家(60代))「精進してない人の家で火を使って食べたり飲んだり。一緒に温まることさえもダメですよ。こたつに入ってとか、結局遊びにはいけない」
こうした取り決めは、祭りに参加する子どもたちにも…
(檀家総代)「家族全員“お精進”しますから。(子どもは)今、学校給食あるんですけども給食食べられないんですよ。何いま時そんなことって世間ではいうかもしれないけど、ずっとそういうふうにして来ているから」
さらにこんな事情も…
(檀家総代)「鬼子登り(おにごのぼり)っていうのも行事の中にあるんだけれど、子どもがいないんですよね。あれは男の子しか出られないので今年は1人です」
厳しいしきたり…そして少子高齢化の流れが歴史ある祭りの存続に大きな影響を与えていました。外部からの援助も容易ではないといいます。
(檀家総代)「お守りとかそういうものを、“ご精進”しながらやっているからそこに(外の人を)入れるかどうかということは問題だと思う」

■様々な思いが交錯“最後の蘇民祭”

蘇民祭当日、会場にはあのポスターのモデルとなった男性の姿がありました。
(2008年のポスターモデル 佐藤真治さん(53))「歴史にいくらかでも名前を残せたのがうれしかった。蘇る民の祭りが蘇民祭ですから俺は必ず復活すると思っているから」

それぞれの思いが交差する中最後の祭りが始まりました。
「いま、ジャッソーというかけ声とともに裸の男たちがおりてきました、ああ、すごい、大きなかけ声で水をかぶっています」
この日、およそ7000人が訪れた黒石寺蘇民祭。最後の祭りに対して檀家は…
(檀家総代)「けがなく終わってもらえばそれでいいです。残念だけども、しょうがないですね」
午後10時。
「ものすごい熱気です。男性たちがもみくちゃになっています」
最大の見せ場、蘇民袋争奪戦です。参加人数は例年の2倍以上の269人。小間木の詰まった麻袋を奪い合う行事で最後まで袋の結び口を握っていた人が取主となります。
5時間に渡る祭りが終わり1000年を超える歴史に幕が下りました。
(黒石寺蘇民祭 世話人 佐々木光仁さん(61))「やっぱり終わらせたくない。 檀家さんとお寺さんと相談しながら長い歴史の祭りは守りたい」
惜しむ声が多い中、住職は…
(黒石寺 藤波大吾 住職)「いま言えるのは黒石寺蘇民祭は今年今日をもって終了となりますということだけですね」


2月18日『サンデーステーション』より

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