“希少肉”育てるモンゴル人羊飼いに密着!“万能の生物”衣食住すべてを支える羊[2024/06/09 23:30]

そこには、待ちわびた新緑の季節を謳歌する、羊たちがいました。そこには、残雪を頂く、美しい山がありました。モンゴルから来た羊飼いが、雄大な自然を活かし、羊という“万能な生き物”の可能性を広めようとしていました。

■羊の飼育が盛んな岩手でモンゴル人羊飼いが農場経営

(イベントに参加した子ども)「おぉ!メェ〜だって、お姉ちゃん!!」
(イベントに参加した女性)「かわいいねぇ、別れられないよぉ」
羊の飼育頭数が北海道に次いで全国2位の岩手県―。6月2日に生産者と羊毛作家らが集まったイベントが盛岡市で開かれました。そこに1人の“モンゴル人羊飼い”の姿が…。ラオグジャブ・ムンフバットさんです。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「羊を飼育してる他の人たちとも初めて会えたし、いろんな人に見てもらって、もっともっと頑張りたいと思いました」
日本百名山のひとつ、岩手山の麓―。留学生として来日し20年になるムンフバットさんは、現在、約150頭の羊を飼育しています。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「元々遊牧民で、モンゴルから日本に来ると遊牧民の知恵ですとか、生き物と一緒に生活すというのはすごく大事な文化なんだなと気づいたりして、日本で羊の牧場やれたらすごく良いなと思った」
古より遊牧の民として、家畜とともに水や草を求めて移動しながら暮らしてきた、モンゴルの人々―。羊は、生活に無くてはならないものとされてきました。

■衣食住のすべてを支える羊は“万能の生き物”

この時期、欠かせないのが羊たちの毛刈りです。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「こうすると、だいたい(羊は)動かないんですよ」
羊を座らせるように膝で挟みながら、バリカンで刈っていきます。
夏の暑さ対策や、健康管理のために不可欠な『毛刈り』―。1頭につき5分ほどで作業は完了します。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「羊はモンゴルでは“息以外すべて使える家畜”。毛もそうですし、糞も堆肥になりますから」
放牧することで土が肥え、草木も育っていく…“持続可能な暮らし”を支える羊は、衣食住を担う“万能な生き物”とも言われています。

■国産の羊肉は1%未満…中でも希少な「ホゲット」

モンゴルでは、羊の肉や内臓は余すことなく使われます。
焼けた石で、羊の肉と野菜を蒸し焼きにする、遊牧民の伝統料理『ホルホック』です。日本で流通している羊の肉のうち、国産は1%未満―。ムンフバットさんが取り扱っているのは、その中でも、希少な羊の肉です。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「ホゲットですね。ホゲットで出すため、あまり数がないので今年の分はあと3頭くらいしか残ってないんです」
羊の肉といえばラムやマトンが知られていますが、ムンフバットさんは、生後1年から2年未満の『ホゲット』にこだわります。
盛岡市のフレンチレストランでは、ムンフバットさんの羊を使って、季節限定のメニューが提供されています。ホゲット肉と野菜を煮込み、豚足を合わせたオードブル。旨味とさわやかさを感じさせる一皿です。
(ホテルメトロポリタン盛岡 狩野美紀雄総料理長)「ラム肉は羊らしさがちょっと少ないという感じがあるんですよ。(ホゲットは)その分草を食べている期間が長いので、羊らしい香りが感じられます。ラムの柔らかさと、マトンの羊の味がしっかりとする感じですね」

■羊の放牧は荒廃農地の対策としても注目される

ムンフバットさんは、6年前に8頭の羊を譲り受け、繁殖を始めました。羊の放牧は、後継者不足などで農地が荒れる問題の解決策としても注目されています。使われなくなった牧場を再利用しているムンフバットさんは、それを肌で感じていました。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「使っていかないとどんどん荒れてしまって森になってしまうということで(持ち主は)使ってくれてありがとうという感じもありますし、逆に僕らも使わせていただいてすごく嬉しいですね」

■遊牧民の知恵…羊毛を固めて住居の断熱材に

遊牧民の移動式住居、『ゲル』。その骨組みを覆う材料に、羊の毛が使われているといいます。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「ゲルの断熱材には羊のウールを使います。密になっているけど中には空気も含まれるので断熱の効果が増すんです」
羊毛を固めたフェルトは、冬には二重三重に重ねられ、厳しい寒さから遊牧民たちを守ってくれるのです。

■遊牧民の知恵…羊毛を固めて住居の断熱材に

ムンフバットさんの羊は、100年続く岩手伝統の毛織物にも活かされています。
(ホームスパン作家・森由美子さん)「岩手には、ホームスパンの技術がずっと伝わっている」
加減を調整しながら糸を紡ぐ、森由美子さん。手作業にこだわる毛織物『ホームスパン』の作家です。暖かく軽い、岩手の『ホームスパン』は、海外の高級ブランドなどでも重宝されています。使用される羊毛の多くは輸入品ですが、森さんは2年前からムンフバットさんの羊毛を使い始めました。
(ホームスパン作家・森由美子さん)「これが昨年のムンフさんの羊毛です。かなりムクムクした感じ。弾力に富んで暖かいものができるので」
ムンフバットさんの羊毛を織り上げたブランケットは、『ふるさと納税』の返礼品にも使われています。
(ラオグジャブ・ムンフバットさん)「「モンゴルの自然に対する思いとか、自然に沿った形の生き方みたいな、そういう文化を日本の人たちにも伝えたらいいなと思いますし、それが地域ですとかコミュニティにいい影響になれば一番嬉しいですね」


6月9日『サンデーステーション』より

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