おさまる気配をみせないクマによる被害。「冬眠する季節までの辛抱」と思いがちですが、何とこの先、“冬眠しないクマ”が増える可能性も。知られざる生態を取材しました。(10月25日OA「サタデーステーション」)
■各地で広がるクマ被害 取材中にも…
番組が入手したドライブレコーダーの映像。秋田市内を走っていると、左の歩道から1頭の子グマが出てきました。
動画提供者
「秋田大学付近の歩道でクマが走っているんだけど…怖い」
映像を少し遡ると、同じ歩道には自転車が走っていました。このクマはツキノワグマとみられ、県によると同じ時刻、大学付近で何度も目撃されていました。
さらに、取材中も…
地元の消防団
「クマが中学校のグランドの方に出て、体長は1m弱の子グマ」
子グマの他に、もう1頭クマが目撃されました。親グマとみられます。秋田市内では、人身被害も発生。
報告・富樫知之ディレクター(25日・秋田市)
「被害があった現場付近です。近くには川が流れていて住宅も多くあります」
この場所で25日早朝、50代の男性がランニング中にクマに襲われ顔面などをケガしました。クマの体長は50cmほどとみられています。近くに住む女性は、24日現場付近で別の個体とみられるクマと遭遇。持っていたホイッスルを何度も吹いたといいます。
前日に別の個体のクマと遭遇した近隣住民
「クマの大きさは1m50cmくらい、このホイッスルでピーって鳴らしたんですよ10回くらい、それで逃げていったんですよ」
そこからおよそ17キロ離れた別の場所でも。
報告・富樫知之ディレクター(25日・秋田市)
「男性が散歩中にクマに襲われたということです」
散歩中の60代男性がクマに襲われケガをしました。クマの体長は1mほどだったといいます。秋田市では、連日クマが目撃されていて住宅のすぐ裏手にも2日連続で出没するなど警戒が続いています。
■「痩せたクマ」4人死傷 死因は顔面損傷による低酸素脳症
秋田県内で取材をしていたサタデーステーションが急きょ向かったのは4人が相次いでクマに襲われたとの一報が入った、東成瀬村。
報告・富樫知之ディレクター
「いまクマを捕まえたみたいで、猟師の方が引っ張っていますね」
見つかったのは、長1メートル20センチのメス。通報があってからおよそ2時間後、クマは駆除されました。このクマに襲われたとみられる、佐々木喜行さん(38)が死亡。死因は顔面損傷による低酸素脳症でした。他の3人も重傷です。
駆除にあたった猟師
「俺が来た時はまだ搬送していなくて、2人が担架にやっと乗せられた状態。あのクマも本当にあんなにサイレン鳴らして、人が多くいる所で(こちらの)様子を見ているのは、ちょっと考えられない」
人間が大勢集まっても現場近くに居座っていたことは、経験上「考えられない」といいます。
駆除にあたった猟師
「見つけた時は、杉の木の根っこに座っていた。たまに顔を上げたり、また引っ込んだり。結構痩せて、太ってはいなかった。食い物が無いから降りて来たんだろうな」
通報の数分前まで、現場近くで農業資材の配達をしていたという人は…
直前まで現場付近にいた人
「畑には各農家さんがいらっしゃって作業しているのは遠目に見えていたので、いつも通りの日常だった。通報があった時間のちょっと前、ちょうどここにいたが、物音がしたわけでも気配があったわけでも全くなくて」
■居座り6日目で捕獲“異例の対策”も
報告・畑中彩里ディレクター
「20日からこちらの住宅に居座っていたクマですが、今朝搬出され、規制線も解除されました」
秋田県湯沢市では、住民を襲ってクマが居座り、6日目を迎えていましたが、25日未明、クマが罠にかかり、捕獲されました。
現場近くの飲食店
「どうクマと向き合っていくか、一人一人が考えていかなきゃいけない」
このクマは、居座る直前、消防本部の自動ドアから侵入するなどしていたクマとみられています。異例の事態が続いていることで、異例のクマ対策もとられていました。湯沢市内のうどん専門店では、入り口の自動ドアを手動に切り替えて営業を続けています。
稲庭うどんの小川 阿部智江さん
「毎日、1頭3頭4頭5頭6頭という感じで、目撃情報が実際に出ていますので、正直いつ来られても不思議じゃないという恐怖心がありますので」
店内を案内してくれた阿部さん。実はこの日…
稲庭うどんの小川 阿部智江さん
「今日の朝6時半ぐらいなんですけど、クマがうちの前に出て、見たのも初めて。柿、順番に食べている感じだった」
クマ被害がおさまるまでは、自動ドアを手動にする対策を続けるといいます。一方で、倉庫のドアを器用に開けるクマもいるため、手動のドアでも油断は禁物です。湯沢市内ではイベントの中止も相次いでいました。自然や歴史をめぐるツアーなどを企画している奥田さん。山に近付くようなツアーは中止となり、キャンセルの連絡に追われていました。
ゆざわジオパークガイドの会 奥田公子さん
「きのうは一日中50人ちょっとのお客さまに連絡した」
Q今までこういうことはあった?
「コロナの時以来ですね」
■「クマが柴犬をくわえて…」飼い主通報
宮城県大衡村の住宅でも25日朝、60代女性が玄関から外に出たところ突然クマに襲われ、病院に搬送されました。
襲われたのは人だけではありません。大崎市の住宅で「クマが柴犬をくわえて逃げて行った」と飼い主から通報。現場には、飼い犬のものとみられる血痕や首輪が残っていました。
■今後も“冬眠しないクマ”の懸念
懸念されているのが、“冬眠しないクマ”です。クマは11月下旬から12月ごろに冬眠に入るとされていますが、福島県では去年12月末、住宅にクマが侵入。コタツに頭を入れていたといいます。秋田市内の動物園で飼育している冬眠中のクマの映像をみると、全く動かないわけではなく、物音に反応することもあるといいます。
須坂市動物園 ツキノワグマ飼育員 笹井恵さん
「今は一年の中で一番ガツガツしているおやつタイム」
長野県須坂市の動物園で飼育しているクマは冬眠しないといいます。
須坂市動物園 ツキノワグマ飼育員 笹井恵さん
「1日のエネルギーに必要な分を与えることができていれば、冬眠する必要性がないので、起きていることは可能になります。今の時期は通常あげているエサの1.5〜2倍の量を与えていますね」
春から夏にかけては、葉っぱやキュウリのような糖質の少ないエサをよく食べますが、秋はドングリやかぼちゃなど、脂質や糖質が多いエサを好んで食べるといい、この動物園では、現在、成人男性が必要なカロリーの2倍ほどのエサを与えているといいます。一方で、今週も各地で起きている農作物や家畜を食い荒らすクマ被害。こうした被害が来月以降も続いた場合は、冬眠しない野生のクマも出てきてしまうのでしょうか?
須坂市動物園 ツキノワグマ飼育員 笹井恵さん
「ずっとエサを食べ続けていることで、冬眠という形にならず、動物園の飼育しているクマのように起きていることも考えられるかもしれない」
■世界遺産・白川郷 クマの目撃情報が去年の約3倍に
クマへの警戒感が高まっているのが世界文化遺産に登録されている岐阜県白川郷。
報告・小山颯(25日 岐阜・白川郷)
「白川郷の中には、このように規制線が張られている場所もあり、観光客が入れないようになっています」
今月5日、スペイン人の男性が背後からクマに襲われてから外国人への呼びかけなど対策を強化。周辺ではクマの目撃情報が今年に入り100件を超え、去年のおよそ3倍にのぼっています。
ドイツからの観光客
「人がたくさんいるところにクマがおりてくるなんて考えられない、僕たちも気を付けないといけないね」
クマの目撃情報が相次いでいることから25日から予定されていた紅葉のライトアップは中止になりました。
◇
高島彩キャスター:
市街地でのクマの目撃情報が増えています。なぜ多くの人が行き交うような場所にまでクマが現れるのでしょうか?
板倉朋希アナウンサー:
クマの生態に詳しい、石川県立大学・特任教授の大井徹さんによると、「山の中にエサが少なくなるとクマは人里に出てくるが、その多くは森林から100m以内のことが多い。しかし、エサを求めてたどった先が市街地に通じる河川だった場合、河川敷にある木の実などを食べながら移動するうちに、いつのまにか街の中心部まで来てしまうことがある。さらに、河川敷は茂みも多く警戒心が強いクマでも移動しやすい」ということです。
高島彩キャスター:
実際にクマはどれくらの距離を移動するものなんですか?
板倉朋希アナウンサー:
大井さんによりますと、ツキノワグマの場合10キロ以上移動することもあるそうで、八王子の周辺などでも目撃情報があることを考えると、今後クマが多摩川などをたどって都心方向に行動範囲を広げる可能性も否定できない。とのことでした。
ジャーナリスト柳澤秀夫氏:
私が生まれ育った福島県では昔から「クマは山から河川敷にそって街に下りてくる」と言われていて、意外と知られてはいるんですよね。とはいえクマのことについては知っているようで知らないこともたくさんありますよね。それを考えると、クマの生態、特にクマの行動パターン、習性などを我々が知る事から始めて、その中から問題解決のヒントが見えてくる、そんな気がするんですよね。
高島彩キャスター:
クマと人間の生活圏というのが重なっていますから、そういった知識もアップデートしていかなければいけないということで、引き続き警戒を続けたいと思います。
“冬眠しないクマ” 各地で出現の懸念「食べ続ければ…」知られざる生態を観察
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