現在、認知症の高齢者はおよそ8人に1人と推定され、非常に身近な問題となっています。そんななか、ある要素を加えたバーチャル・リアリティーのゲームが、認知機能に変化をもたらすかもしれないという研究が進んでいます。
■世界初 香り×VRゲーム
VR=バーチャル・リアリティーは、「仮想現実」とも呼ばれ、コンピューターによってつくり出された仮想的な世界を、まるで現実であるかのように疑似体験できる技術のことです。
こちらのVRゲームの特徴は、なんと「香り」。このゴーグルを着けることで、仮想空間にいながら、実際の「香り」を嗅ぐことができます。
東京科学大学 中本高道教授
「カートリッジは8個ありまして、3種類の匂いをこの中にセットして、出しているという状態です」
この香りを用いたVRゲームを開発・研究しているのは、東京科学大学の中本教授をはじめとする4人の研究チームです。
中本教授
「嗅覚が認知機能に影響を与えるという論文は今までもあるが、VRゲームを使ってというのは初めてだと思います」
中本教授は、VRを用いると、仮想世界に没入した状態で嗅覚を刺激できるため、より大きい認知機能の変化を期待しているといいます。
VR空間に入った体験者は、まずはじめに、3種類のうち、ランダムに選ばれた1種類の香りを嗅ぎます。
今回は、ラベンダー、スペアミント、オレンジの香りがセットされていました。
その後、ゲームに出てくる3色の雲の香りを嗅ぎ分けて、スタート地点で嗅いだ香りと同じものを当てるというゲームになっています。
スタート地点で嗅いだ香りは「スペアミント」、同じ香りの雲を発見し、ゲームクリアとなりました。
■高齢者の認知機能に変化
これまでにも、嗅覚刺激が認知機能に変化を与えるという報告はありました。
今回、このVRゲームを用いることで、高齢者の認知機能にはどのような変化があるのか、研究チームは実験を行いました。
VRゲームを用いた実験を担っているのは研究チームの1人、文京学院大学の小林教授です。
文京学院大学 小林剛史教授
「私は嗅覚VRゲームを高齢者の方が体験することで、認知機能が向上するんじゃないかという仮説に基づいて研究を行っています」
参加した女性(77)
「顔は分かるんですけど、お名前が出てこない。買い物も最近はもうメモしていきます」
参加した男性(74)
「2つやると、1個は忘れる。何だっけなって。明日から認知症になるかもしれないし、そこは心配あります」
63歳から90歳の健康な男女30人に、日をあけて2度、VRゲームを体験してもらいました。
体験した女性は…。
参加した女性(77)
「(香りが)すごい残ってたみたいで、ちょっと分からなくて間違えちゃった」
小林教授
「印象的だったんだと思う、最初の香りが。そうすると、その香りが脳の中でずっと残ってしまって、次の香りが出てきても、前の香りのような気がしちゃう。それで全然結構です。これこうかな、ああかなって言って嗅いでいただいて、選んでいただくこと自体が、とても頭にいいと思っていますので、不正解になるということが悪いことではないです」
参加者は、VRゲームを体験する前と後で、回転した文字の正誤判定など、様々な認知テストに挑戦します。
その結果、VRゲームを体験することで、「空間的な記憶」の課題では、30人中28人のスコアが改善したといいます。
小林教授
「(Q.どうしてこの香りを使ったゲームをすることで、認知機能に影響がある?)香りはもちろん、におい分子は、嗅覚、ここの鼻から入ってくるわけで、ここからの嗅覚の経路って、記憶とかですね、感情に関わる脳の部位にダイレクトに投射しているんですね。なので、香りVRゲームによって、そういった脳の部位がかなり直接的に刺激を受けて、特に認知機能の改善に役立っているんじゃないかと想定しています」
現在は研究段階ですが、小林教授は、今後、嗅覚VRゲームが気軽に体験できる環境を整えていきたいと話します。
小林教授
「VR 香りゲームといったものが医療機関や福祉施設などに簡単に体験できるような形で実装されているという社会を目指したい」
世界初 香り×VRゲームで高齢者の認知機能に変化
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