社会

2025年3月13日 17:00

「デブリ取り出しだけではない」 福島第一原発の廃炉に立ちはだかる複数の課題

2025年3月13日 17:00

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去年11月、東京電力は事故後初めておよそ0.7グラムの核燃料デブリの取り出しに成功した。「廃炉の本丸」と言われるデブリの取り出しだが、取材を進めると、デブリの取り出しだけではない、廃炉に立ちはだかる複数の課題が見えてきた。
(テレビ朝日社会部原発担当 林田奈々)

事故当時からそのまま…プールに残った約1000体の燃料

 核燃料デブリは、事故当時に原子炉に入っていた核燃料が溶けて周りの構造物などと混ざり合い固まったものだが、原子炉の建屋内にある「核燃料」はデブリだけではない。

 先月、福島第一原発に取材に入ると、1号機の脇に白い壁のようなものが作られている最中だった。

デブリの取り出しに成功した2号機でも、原子炉建屋側面に箱のようなものができていた。

福島第一原発2号機の側面
2号機の側面 箱のようなものができていた

 福島第一原発のそれぞれの原子炉建屋の最上階には、原子炉で使用された後の燃料を保管しておく「使用済み燃料プール」がある。3号機と4号機は、すでに取り出しが済んでいるが、1号機と2号機は、事故当時のまま合わせて約1000体の燃料が原子炉建屋のプールに残ったまま。それを取り出すための準備作業を進めているという。使用済み燃料にはウランやプルトニウムといった放射性物質が含まれている。

原子力損害賠償・廃炉等支援機構 更田豊志・廃炉総括監
原子力損害賠償・廃炉等支援機構 更田豊志・廃炉総括監
更田豊志廃炉総括監
「地震にしても、津波にしても、いつまた襲うかわからない。今、福島第一原発で、最もリスクの元になっている」

 東京電力に廃炉の技術的な助言をする機関、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の更田豊志廃炉総括監は使用済み燃料の取り出しが「最優先」と話す。

 1号機の大型カバーは予定では2023年度ごろに設置完了とされていたが、後ろ倒しになっている。東日本大震災時は点検のため停止していた5号機と6号機の使用済み燃料プールにも燃料は残っていて、東京電力は2031年内に1〜6号機全ての使用済み燃料プールからの取り出しを完了するとしている。

「デブリ取出し」をする前に… 建屋周辺も高線量の汚染

2号機の脇にあった線量計
2号機脇の線量計

 原発の敷地内で放射線量が高いのは建屋の中だけではない。2号機のそばの線量計で、特に高い空間線量を示しているものがあった。

東京電力廃炉コミュニケーションセンター 木元崇宏副所長
東京電力廃炉コミュニケーションセンター 木元崇宏副所長

 東京電力廃炉コミュニケーションセンターの木元崇宏副所長によると、2号機のデブリに触れた汚染水の通り道などで線量の高い箇所があるという。東京電力は、おととしから汚染水を浄化処理した処理水の海洋放出を始め、それによって空になった処理水タンクの解体を先月から始めた。これまでに約8万トンの処理水が海洋に放出されたが、雨水や地下水が敷地内の放射性物質に触れることで1日80トンほど(昨年度平均)の汚染水が発生し続けているのだ。

福島第一原発3号機周辺
3号機周辺
更田豊志廃炉総括監
「デブリを取り出すための期間よりも、準備期間の方がむしろずっと長いのでは」

 更田廃炉総括監が指摘する課題が、原子炉建屋周辺の放射線に汚染された建造物だ。

1号機、2号機、3号機合わせて推計880トンあるとされる、デブリ。デブリの本格的な取り出しは3号機から始めるとされている。高い放射線を発するデブリには人は近づくことはできず、取り出し作業は遠隔で行わなければならない。取り出し作業を行う大がかりな装置を建造する必要があり、そのためのスペースを確保するために、原子炉建屋周辺に残されている放射能に汚染された建造物や排気筒などを片付ける必要がある。

「全く検討されてない」 デブリや放射性廃棄物の置き場所

 そして、さらに難題なのが、デブリを取り出した後の問題だ。廃炉作業を進める中で出てくるデブリや放射性廃棄物をどのように処分するのか。

日本原子力学会廃炉検討委員会 宮野廣委員長
日本原子力学会廃炉検討委員会 宮野廣委員長

 国などに廃炉についての提言を行ってきた日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野廣委員長は「全く検討されていない」と批判する。

宮野廣委員長
「他の原発での廃棄物もそうだが、100年、200年の先を見た管理をどうするのかはあまり考えられていない。特に福島第一原発の廃棄物については、核燃料と周囲の構造材などがごちゃごちゃにまざったものであり、取り出してきたあとどう処理するか決まっていないと取り出せないのではないか」

更田廃炉総括監も「廃棄物がサイトから外へ出ていかないとしたら、ある時点で廃炉が進まなくなる」と危機感を示す。

更田豊志廃炉総括監
「(建造物を)解体したり(デブリを)取り出したりした途端に廃棄物になる。しっかりした保管庫がないと取り出せない」

さらに「(原子炉)建屋を解体するとなると、廃棄物を保管しておく場所が到底足りないので、そうすると廃棄物を保管しておく場所がないから、解体ができないという状態になりかねない」などと説明した。

更田豊志廃炉総括監
「廃棄物の量を見越した廃炉を進めていかないと、保管する場所が無いので廃炉できないという状態に、そんなに遠くない状態でそれが来るのではないかという懸念を持っています」

東電の責任者「情報収集が先。関係機関と相談や議論」

取り出したデブリや廃棄物の問題について、東京電力の福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表に聞いた。

東京電力の福島第一廃炉推進カンパニー 小野明代表
東京電力の福島第一廃炉推進カンパニー 小野明代表

Q取り出したデブリはその後どうするのか。

―まだ我々としてはデブリが何であるかとか、廃棄物がどんなものがあるかというところも十分わかっていないところがありますので、そういうところの情報をまずしっかり集めるのが先だと思っています。

Q最終的にどうしていくかという議論は

―技術的な見通しを得た後に、社会的な影響も加味しながら議論しなければいけないと思いますので、それは東電一社で決めるものではなくて、地元を始めとする関係する方々、それから国やNDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)などの関係する機関と相談、また議論させていただきながら考えていくということになるかと思います。

Qその議論はいつ始まるのか

―いつというのはなかなか言えないです。情報をまず一生懸命集めるのが先かなと思います。

Qデブリは福島からなくなるのか

―そこも含めて、今後考えていくんだと思います。

と答えるに留めた。

 国と東京電力が2051年までに終えるとしている廃炉までの道のり。事故から14年が経っても、課題は山積みだ。

  • 1号機の脇に白い壁のようなものが作られていた
  • 2号機の側面 箱のようなものができていた
  • 原子力損害賠償・廃炉等支援機構 更田豊志・廃炉総括監
  • 2号機脇の線量計
  • 東京電力廃炉コミュニケーションセンター 木元崇宏副所長
  • 3号機周辺
  • 日本原子力学会廃炉検討委員会 宮野廣委員長
  • 東京電力の福島第一廃炉推進カンパニー 小野明代表