一度閉園したものの、去年奇跡の復活を遂げた無人島の水族館。実は昨今の物価高騰で崖っぷちに…。再び閉園にならぬよう、水族館を盛り上げるための新たな戦力やイベント、グッズまで!奮闘する奇跡の水族館を追跡しました。
■“奇跡の水族館”は“崖っぷち水族館”に逆戻り
静岡県沼津市にある無人島「淡島」。ここに、船で渡る水族館「あわしまマリンパーク」があります。駿河湾に面する海を利用したイルカプール。動物たちのダイナミックなショーが楽しめます。
展示している生き物は約200種類。この春からはペンギン障害物レースも行われています。21羽のなかから、1位になるペンギンを選びます。
「21番」
「10番」
「14番」
「15番。奇跡を起こすから」
1位を当てるといいことがあるそうです。
もはやレースなのか、何なのか分からない混乱ぶり。1位はキセキくんです。
予想が当たった人には、ペンギンのひなをだっこできるごほうび。
「すごくフワフワで、気持ち良かった。あたたかかった」
この水族館のアイドル、アシカの「ミクちゃん」です。お客さんをとりこにするのは、この笑顔。
ミクちゃんは、とにかく芸達者。ワザの数は70種類以上におよびます。ジャンプ力もイルカに負けません。
カナダから来た親子は次のように話します。
「信じられない高さのジャンプだった」
「最高。今までで1番」
愛嬌たっぷり。表情豊かなミクちゃん。
「カワイイ。ファンです、笑顔の」
20代の女性は、ミクちゃんのファンだと言います。
「笑顔です、これも使う。いやされます」
一緒に来た友達も。
「とりこになりました。水族館の」
1984年にオープンした「あわしまマリンパーク」。実は去年2月に一度閉園しています。資金繰りの悪化や施設の老朽化などが原因でした。
「魅力的な部分がたくさんで、潰れるべき園じゃない」
そこに救世主が現れました。この水族館のファンだった男性が経営に乗り出したのです。
「『誰かこの水族館を救ってください』企画書を色々な社長に持っていった」
その熱意に賛同する企業が現れ、去年7月に奇跡の再オープンを果たしたのです。
「残念な期間を乗り越えて復活したので“奇跡の復活”」
しかし再オープンから10カ月、“奇跡の水族館”は“崖っぷち水族館”に逆戻りしていました。
相次ぐ水道光熱費の値上げが、経営を圧迫しているのです。さらに、漁船の燃料費が高騰しているため、動物たちが食べる魚も2割値上げになっていました。
「業者から仕入れる魚の値段は上がっている」
これでは、いまだ老朽化が目立つ施設を直そうにも、資金が回せません。
「潮風、紫外線が一番の敵」
お金が使えないなら、頭を使うしかありません。島内の竹を使って壊れた手すりを補強していました。
「自分たちでできることは、自分たちでやる」
現在11人いる飼育員は、再び閉園の憂き目にあわないように、涙ぐましい努力を重ねています。
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■涙ぐましい努力 “希望の光”も■涙ぐましい努力 “希望の光”も
この日、飼育員歴3年の川原夕奈さんが、ペンギンの小屋から何かを拾ってきました。
「(ペンギン)1羽から抜け落ちた羽根」
羽根が生え変わる時期のため、約1週間でこれほど抜け落ちるといいます。
これを1回300円のガチャに。
「キレイに水で洗って乾燥してフワフワなもの」
これまで、およそ500個を売り上げたそうです。
「当たりはイワトビペンギンの飾り羽根。(お客は)みんな必死にやっている」
さらに、こんな努力もしています。
「私は作るのが好き。ポスターも私が作った」
今作っているのは、土産店で売り出すグッズ。人気のカワウソたちがキーホルダーに。1つ650円で販売しています。
また、SNSで使えるこのスタンプも好評です。
「もう(閉園)にならないように。日々、私たちにできることを一個一個行っていく」
そんな“崖っぷち水族館”にこの春、希望の光が差し込みました。2人の新人が加わったのです。永田真知さん(20)と下坂美春さん(20)、ともに20歳です。
「人手不足のところに来た救世主の2人。輝いて見えます」
「(Q.期待されていますけど)え〜期待されているんですか?ホントですか?」
下坂さんが、この水族館に入社した理由は?
「自然にあふれている。すぐ隣に海があって、のぞけば野生の魚がいる。そういうところに惹(ひ)かれた」
目標は、アザラシやアシカのトレーナーになること。今は場内アナウンスをしながら、ワザを覚えています。
「最初はインフォメーションしかできない水族館もあるので。(ここは)人が少ない分、早めに指導してもらえる。スキルアップは早いと思う」
この水族館は、新人にもチャンスがあふれているのです。
もうひとりの新人、永田さんが入社したきっかけは、この水族館で幼いころにイルカショーを観た記憶でした。
「ショーを初めて観てカッコいいな、キラキラしていて良いなと思った」
永田さんが目指すのは、もちろんイルカのトレーナー。入社半年前からアルバイトとして働き、先輩に指導してもらってきました。
一緒に練習するのは、いたずらっ子のティーナくん。
「コミュニケーションが取れた時は楽しい」
ベテラントレーナーは、新人2人に期待を寄せています。
「頑張っていると思います。ただ性格が真逆。(永田さんは)慎重・丁寧・元気ない。いざ本番になると緊張が勝つ。(下坂さんは)緊張はしていないが、頑張りすぎて空回りする。ファイト」
この後、新人に試練が待ち受けます。
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■“未利用魚”をいただくイベントも■“未利用魚”をいただくイベントも
この日、興味深いイベントが開催。水族館の一角に人だかりができていました。
そこには、目の前の海で釣り上げたウツボが。実はこれ、スーパーなどには出回らない“未利用魚”をいただくイベントです。
料理を仕上げる間、参加者にはクイズを出題します。
「ウツボの名前の由来、何でウツボ?」
(2):矢筒に似ていたから
(3):ウリに似ていたから
正解は?
「2番なんですよね。長い矢を入れた器が靫(うつぼ)という名前」
さて、“未利用魚”のウツボはからあげに。身がフワフワでクセがないそうです。
こうした水族館ならではのイベントを定期的に開くことで、ファンを増やしています。
「ウマすぎます」
東京から来た小学生と中学生の兄弟。実は、この水族館の筋金入りのファン。イベントがあるたびに参加しているといいます。
「ここが一番好きな水族館。20〜30回来ている」
「(Q.就職先はここ?)たぶん就職先はここです」
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■新人のショーデビューでハプニング■新人のショーデビューでハプニング
新人にチャンスが巡ってきました。
「(Q.緊張していますか?)緊張しています」
あがり症の永田さん。実はこの日、イルカショーデビューのチャンスをもらったのです。
「緊張せず、いつも通りやっていきましょう」
「はい」
言われれば言われるほど、緊張するようです。
イルカショースタート。続いてボールトス…あれ?
「ティーナくん、決めてほしかったですね」
今度は、ティーナ君が回すリングを受け取りますが、痛恨のミス。この日は平日、どうやらお客さんが少ないので、4月に入ったばかりの新人にチャレンジする機会が与えられたようです。
「キャッチは練習して」
「すみませんでした。すみません」
永田さん、苦いショーデビューとなりました。
「私が受け取れなくて…。悔しいです」
永田さんは翌日もイルカショーに立ちました。実はこの日、永田さんの誕生日でした。
この日はティーナ君と息ぴったり。“崖っぷち水族館”の良いところは、チャンスが多いところ。何度失敗しても立ち上がればいいんです。
「(Q.お疲れさまでした)お疲れさまでした。緊張したけど楽しくできた。もっと成長できるように頑張りたい」
“崖っぷち水族館の救世主たち”。このゴールデンウイーク、新人2人は生き生きと働いているはずです。



































