アメリカで行われている、老化を食い止める研究のコンテストで、今、日本の研究が注目されています。
老化を遅らせて、健康寿命を100歳まで延ばす研究が日本で進んでいます。
■老化抑制の研究 世界が熱視線 賞金150億円コンペも
老化を抑制する研究です。
アメリカの非営利団体『Xプライズ財団』が、健康寿命を延ばす目的の世界的コンペティションを開催しています。
賞金総額は、約150億円です。
課題は、大きな病気や障害のない50歳から80歳の人を対象に、『筋肉』『認知機能』『免疫機能』を最低10年回復させるというものです。
このコンペティションには、世界58の国と地域から、600を超えるチームが参加しています。
現在、準決勝に40チームが選出され、日本のチームが6組選ばれています。
どんな研究があるのでしょうか。
大阪大学発のベンチャーチームは、加齢とともに細胞の働きが鈍るオートファジー(新陳代謝)を、食事・サプリ・運動・睡眠で活性化させるという研究をしています。
アメリカのチームは、免疫機能を低下させる胸腺の萎縮を栄養面から防ぐ研究をしています。
■平均寿命と健康寿命の差ゼロに 老化抑制で社会が変わる!?
そもそも、人はなぜ老化するのでしょうか。
老化とは、加齢に伴い、肉体、臓器、脳、皮膚などの機能が減衰していくことです。
東京大学医科学研究所の中西真教授によると、老化する原因の1つには、細胞が関係しています。
人間の多くの細胞は、50〜60回分裂したら、それ以上分裂できなくなります。
完全に分裂停止した細胞が『老化細胞』になり、その一部が年齢を重ねるにつれて体内に蓄積していきます。
そして、蓄積した老化細胞が、臓器や皮膚などに慢性炎症を起こし、内臓疾患やシワなど、いわゆる加齢が原因の様々な疾患や症状として表れます。
老化の仕方は、生き物によって異なります。
カメやワニは、老化しない生き物です。
平均寿命と健康寿命の差がほぼゼロで、最大寿命まで老化せず生きます。
カメの最高齢は192歳、ワニの最高齢は124歳ですが、ここまで老化しません。
一方で、ヒトは老化する生き物です。
平均寿命と健康寿命の差は約10年で、最後の10年間は不健康な状態になってしまいます。
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。
男性の平均寿命は81.05歳。健康寿命は72.57歳。
不健康な期間が8年以上あります。
女性の平均寿命は87.09歳。健康寿命は75.45歳。
不健康な期間が11年以上あります。
「老化抑制によって、平均寿命と健康寿命の差をゼロに近づけることで、最後の10年間も健康的に日常生活を送れるようになる」
平均寿命と健康寿命の差がなくなるメリット1つ目です。
働ける高齢者が増え、労働力不足解消になります。
日本の人口割合です。
生産年齢人口とされる15歳〜64歳までが、
2023年は、59.5%ですが、
2040年には、55.1%、
2060年には、52.8%まで下がります。
一方で、65歳以上の人口割合は、
2023年は、29.1%ですが、
2040年には、34.8%、
2060年には、37.9%と、増えていきます。
割合が大きくなる65歳以上の人たちが、健康で働けるようになると、労働力不足の解消につながります。
平均寿命と健康寿命の差がなくなることのメリット2つ目です。
医療費の増加を抑えられます。
医療費は、この20年間増え続け、2022年度には過去最高額となる約46兆7000億円になりました。
平均寿命と健康寿命の差がなくなると、医療費はどのくらい削減されるのでしょうか。
東京大学大学院の五十嵐中特任准教授の試算です。
65歳以上の『老化』ペースが10年分遅くなると仮定すると、約46兆7000億円が39兆9000億円と、約7兆円削減できます。
「ヒトの寿命が最長120歳というのは変わらないが、老化抑制の研究の進展で、100歳くらいまで病気になりにくい状態を作りたい」
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■最新研究 投薬で老化細胞を除去 高齢マウスが若返り!?■最新研究 投薬で老化細胞を除去 高齢マウスが若返り!?
健康寿命100歳を目指す、東京大学医科学研究所の中西教授らのグループの研究です。
『GLS1』という酵素が、老化細胞を生存させる働きをしていることを発見しました。
そこで、この『GLS1』の働きをブロックする『GLS1阻害薬』を使って、老化細胞のみを除去することに成功しました。
マウスを用いた実験です。
高齢のマウスに、GLS1阻害薬を投与した結果、肝炎症状、腎機能低下、動脈硬化、肺の線維化などが改善しました。
そして、筋力にも変化が現れました。
マウスを棒にぶら下がらせる実験で、若いマウスは平均200秒つかまることが出来ましたが、高齢のマウスは平均30秒でした。
それが、GLS1阻害薬を投与すると、老化細胞が除去され、高齢のマウスも平均100秒に時間が延びました。
「人間でいうと、70代くらいの運動機能だったマウスが、40代くらいにまで回復した」ということです。
「GLS1阻害薬は、内服薬で、比較的安い薬として開発したい。安価な薬で、老化に伴う病気を治療・予防できるなら、それに越したことはない」ということです。
GLS1阻害薬は、アメリカでは内服薬として、がん患者の治験で使われています。
「今後、2030年末までには臨床試験へ入り、2040年には薬を実用化させたい」と考えています。
■若さ保つカギは“ささやかなストレス”今すぐできる老化抑制術
今からできる老化抑制の方法を、東京大学医科学研究所の中西教授に教えてもらいました。
老化抑制のキホンは、
●強すぎるストレスはダメ
●ささやかなストレスはOK
ささやかなストレスは、細胞の老化を一定程度抑制できると考えられています。
運動をするなら、きついランニングや長時間の水泳といった、息が上がるような運動は老化を早めます。
おすすめは、
●ゆったりした散歩
●ゲートボール
●ピラティス
など息が上がらない運動です。
なぜ、軽い運動がおすすめなのでしょうか。
「『酸素を吸うから老化する』というくらい、実は酸素は、人間にとって有害な面もあり、体にダメージを与える。過度な有酸素運動は、控えたほうがいい」ということです。
外出時には、紫外線対策をします。
紫外線を浴びると、骨の形成に関わるビタミンDが体内で作られます。これは良いことですが、紫外線を浴びすぎると、遺伝子に傷がつき、皮膚の老化が進行します。
こちらの写真はアメリカに住む双子の女性が59歳の時に撮られた写真です。
日差しが比較的おだやかな東海岸と、日差しの強い西海岸にそれぞれ住んでいましたが、西海岸に住んでいた女性の方が、シワが深くなっています。
食事では、栄養バランスのいい食事をしっかりとることが大切です。
この50年で日本人の平均寿命が延びているのは、昔より良質な栄養をとっていることが理由の1つとされています。
さらに、マイルドなカロリー制限が、老化抑制につながります。
カロリー制限をすると、代謝を促進させるといわれる補酵素が体内に増えます。
たとえば、満腹になるまで食べず腹八分目までにする、間食をやめる、などがおすすめです。
「目安は、普段摂取しているカロリーの約8割程度」ということです。
(「羽鳥慎一モーニングショー」2025年5月30日放送分より)