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2025年6月19日 12:02

両親は薬物依存症「父は刑務所に...」障害かかえ壮絶な人生を歩んだ当事者「現実を受け止められなかった」「恨むつもりも、否定するつもりもない」

2025年6月19日 12:02

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 多母髪大気さん(23)は2002年4月、1キロ未満の低出生未熟児で、先天性脳性麻痺という障害がある状態で生まれた。そしてある日、父親に「なぜ僕はこんな体になったのか」と聞くと、「母親と父親が薬物が体に入っている状態で、そういう行為に及んだから、お前はそういう身体になった」と返され、衝撃を受けたという。

【映像】父親から届いた実際の手紙

 父親の発言に科学的根拠はないが、厚労省によると、薬物乱用は妊娠や出産に悪影響があるとされる。両親には養育能力がなかったため、一度も家族で暮らすことなく、乳児院に預けられ、6歳で障害児入所施設へ移った。「他の子どもは当たり前のように父母が面会に来るが、なかなか僕の場合はかなわず、『なぜ自分には父母がいないのか』とずっと思っていた」。

 そんな中、小学2年生で「お父さんより」と書かれた手紙が届いた。そこで初めて存在を知り、小学5年生で初めて会えたという。しかしその後、会いに来なくなった。高校1年生になって、ようやく「初めて父から刑務所に行っていたと知らされた。いま思えば、行動の点と点がつながった」のだそうだ。

 親が依存症だったらどうするか。『ABEMA Prime』では、生きづらさと救うすべについて、当事者とともに考えた。

■薬物依存症の両親から生まれた当事者

多母髪大気さん

 多母髪さんは当初、両親のことを「現実を受け止められなかった。薬物依存症で服役していた事実を受け止めて、消化するのに時間がかかった」と振り返る。「完全に消化しきれていない部分もあるが、起きてしまったことは変わらないため、どう受け止めて、前に進むかを常に考えている」。

 過去を聞かされて「自暴自棄になった時期もあった」そうだ。「両親が薬物依存であると、ずっと隠されてきた。父親から知らされたときに、周囲の大人にウソをつかれていたと、不信感が湧いた」のだそうだ。

 父親と最後に会ったのは2〜3年前で、定期的に連絡はしていたものの、現在は連絡をとっていない。母親と最後に会ったのは高校1年生の時で、幼少期の頃から現在まで精神的に不安定な状態が続いている。

 親との接触については「会いたい気持ちもあるが、会ったときに傷つけられるのではないかとの思いもあるため、情報をあえて入れないようにしている」と説明する。

■親に対して「恨むつもりも、否定するつもりもない」

 そんな多母髪さんの支えとなったのが、スポーツだった。「パラスポーツを通して、達成感や忍耐力を鍛えられた。乳児院の時に一緒に過ごした職員が、“週末里親”として成長過程をサポートしてくれて、家族の愛をもらえたのも宝だ」。

 親に対しては「恨むつもりも、否定するつもりもない」といい、「依存症や生きづらさを抱えている人も、一緒になって生きていこうと考えている。そういう考えにさせたのは、パラスポーツや里親の出会いが大きい」と語る。

 発信を通して、「自分に何ができるのかを、もう一度両親には考えてほしい」と願う。「科学的なエビデンスがないことを言われ、落ち込んだときもあったが、チャンスと捉えて武器にした。依存症の人々とも『自分に何ができるのか』を一緒に考えたい」。

■「障害があり、家庭環境が悪くても、自分の人生を自らの手で歩める社会を作りたい」

 薬物を使用することで、子どもへの影響はあるとされる。法科学鑑定研究所によると、覚せい剤を乱用していた母親から生まれた胎児の尿、および毛髪を出生数日後に採取し検査を行った事例では、尿からは検出されなかったが、毛髪からは覚せい剤が検出された。これにより、新生児薬物離脱症候群(NAS)となる可能性もある。また、厚労省によると、大麻では精子の異常が、シンナーやコカインでは先天異常などの報告もみられる。

 多くの依存症当事者とその家族をカウンセリングしてきた公認心理師の谷川芳江氏は、「当事者自身が回復に向かう選択をしなければ、家族関係を保つのは難しい」と指摘する。「若い世代は『どんな状態の両親でも大切にしたいから』と、悪く言うことに抵抗を覚えている人が多い。また、依存症の知識を学ぶ機会を提供することも大切だ」。

 多母髪さんは「予防教育は必要だが、依存症である本人は、自分がそうだと受け入れない。自助グループや医療機関につながるまでのハードルを、どのように下げていくのか。それが、問題を抱える人が生きやすい社会づくりには必要不可欠だ」といった課題を挙げる。

 依存症の家族として、できることは何なのか。「自分は児童福祉や障害者福祉の当事者として、生きづらさや制度の穴を知った。障害があり、家庭環境が悪くても、自分の人生を自らの手で歩める社会を作りたい。その思いから、講演やメディアで経験の発信をしている。依存症の正しい理解も広めたい」。

(『ABEMA Prime』より)

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