千葉県内の50代女性から現金をだまし取った詐欺の疑いで、歯科医師の高橋仁一容疑者(58)が逮捕されました。
被害にあった女性は、高橋容疑者が経営していたクリニックにインプラント治療に訪れていた患者です。あごの骨に金属の軸を埋め込み、人工の歯を取り付けるインプラント治療は、原則、自由診療のため、治療費が高額になることは珍しくありません。ただ、高橋容疑者は患者に対し、こう話し、インプラント治療を進めたそうです。
「あなたの症例は珍しいので学会に提出したい。治療費と同額の金を払えば、治療費相当額を含めた返還を受けられる。誰にも言わないで出せるお金あります?」
警察によりますと、高橋容疑者は、医療記録を学会に提供すれば、メーカーから治療費が返ってくるなどと嘘の話しをして、メーカーへの協力金名目で現金を要求していたといいます。
インプラント4本分の治療費200万円と“協力金”200万円を受け取りますが、返金はおろか、治療を進めることはなかったそうです。
実は、警察に同様の相談が10人以上から寄せられていて、被害の総額は1億円を超えているといいます。
夫婦で、治療費や協力金など、合わせて約750万円を支払った被害者が取材に応じました。
「ここで関係を悪くして、歯を人質に取られてるんじゃないけど、『うまく治療してもらえなかったら、どうしよう』という気持ちもあって」
高橋容疑者との出会いは、虫歯治療のセカンドオピニオンだったそうです。
「せっかく来たんだから、初診料無料だから、これを機に歯のCTとって全体を詳しく調べた方がいいよと。『この1本だけの問題じゃなくて、インプラントが必要な歯が4本あるよ』と」
女性は、毎月、定期健診に行っていたそうで、インプラントが必要だと言われたことはなく戸惑っていると、こう言われたそうです。
「早く見つかったっていうことは、ラッキーだと思った方がいいって。いますぐ治療しないと、もうこの骨も溶けかかってるから」
気がかりなのは治療費のこと。女性は、一度、断りますが、こんな提案をしてきたそうです。
「150万円まで出してくれたら、銀歯をすべてセラミックにすることができるし、その後のメンテナンスもするみたいな。『一生涯保障』という言葉にやられたのかなと」
女性は、この提案を受け入れ、夫婦で合わせて治療費500万円を払いました。
その後、高橋容疑者から、500万円の協力金をさらに支払い、学会で報告すれば、合わせて1000万円全額が戻ってくると説明を受けたそうです。その半額の250万円ならと支払いましたが、治療が進むことも、お金が返ってこともありませんでした。さらに、健康な歯を抜かれた可能性もあります。
「4本(抜歯)と聞いていたのが、目が覚めたら1本増えて、5本なくなっていた。5本って聞いたっけなと思ったんですが、もう歯がなくなってますし」
結局、高橋容疑者のもとに8年ほど通ったそうですが、1本も治療が終わることはありませんでした。
「お金も取られて、時間も取られて、歯も返してほしい」
高橋容疑者のクリニックは、すでに閉じられていて、破産手続きが行われています。破産管財人によりますと、高橋容疑者の口座には、使途不明金が数億円規模であったといいます。
高橋容疑者の父親が取材に応じました。
「景気よく稼いでいるときは、ベンツ乗っていたと聞いたけど。うちは農家だったから、トラクターもあるし、作業機もいっぱい持ってたんだけど、みんな手放して、お金にして、やつに。いついつまでに、いくらいくら払わないと仕方ないから、何とかしてくれと言われたから」
高橋容疑者は、逮捕容疑に関して「弁護士と話をするまでは黙秘します」と供述しているといいます。