2026年度の国家予算に対し、防衛省は過去最大となる約8兆8000億円を要求するとみられている。内訳は空と陸、海中で活動する無人機の大量配備に向けた費用、敵の射程範囲外から攻撃が可能なミサイルの整備など、通常兵器の強化が盛り込まれている。そんな中、国会議員からは「核武装が最も安上がりで、最も安全を強化する策の一つ」という発言もあり物議を醸すことになった。石破茂総理は核の保有は運用を否定したものの、ネット上には核武装安上がり論に同調する声も見られている。
「ABEMA Prime」では安全保障を専門とする一橋大学教授・秋山信将氏を招き仮に日本が核武装をした際のコストがどれほどになるかを議論。秋山氏は「核武装すべきかどうかを普通に議論ができるようになったことに、社会の変化をすごく感じる」と述べるとともに、様々なケースについて説明した。
■核武装の論議が起こる時代に突入

政府は防衛費を再来年度までの5年間で約43兆円を支出するとしており、来年度は過去最大の約8兆8000億円を計上する見込みだ。この数字は防衛力の抜本的強化のために、GDPの2%を達成するとしたもので、2025年度はGDP比1.8%まで上昇した。この額について秋山氏は「(2026年度の)国家予算の要求が110兆円ぐらい。そうすると防衛費は8%ほどになる。安全保障上、必要な装備を日本が持っていく上で十分かと言われれば、これは圧倒的に足りない」と語る。
そこに出てきたのが国会議員からの「核武装安上がり論」。発言をきっかけに国会でも問題になったが、秋山氏にとってはこのような議論が出てきたことに、隔世の感があるという。「以前だったら『核』という言葉を口にしただけで、おそらく閣僚なら首が飛ぶし、政治家でも大きな問題になっていた。今まさに、核武装すべきかどうかを普通に議論ができるようになったことは、国際的な安全保障環境の変化や、それを受けた社会の変化をすごく感じる」と述べた。
では、日本が核武装をすると本当に「安上がり」になるのか。秋山氏は「厳密に計算したわけではないが、割に合わないと思う」とする。考え方としては3つある。1つ目は核兵器を持つことで全ての通常戦力を代替できるか、2つ目はアメリカが拡大核抑止(核の傘)を提供しなくなった場合に日本がやむを得ず核兵器を持たなければいけなくなった時にコストパフォーマンス的に見合うのか、3つ目は拡大核抑止は提供されるものの、その核の能力が不十分であるために日本も独自の核を持った場合にどうか。いずれのパターンを考えた上でも、秋山氏は安上がりにはならないという見解を示した。
日本の技術レベルだけ考えれば、核弾頭を作り、運用に必要なミサイルや原子力潜水艦を作ることについては「難しくはない」という。ただし「机上の空論でもあり、アメリカでも80年間核兵器を作り続け、運用してきたが、それでもまだ技術的に確実性が高くないという人もいる。ノウハウがない中で、単に技術レベルがこれだけあるから日本は核が作れるというのは判断できない」とも加えた。
■1発持っても意味がない…実際のコストは

日本と同じ島国であるイギリスは225発の核弾頭を保有している。原子力潜水艦を4隻保有し、核兵器の関連支出は年間で約104億ドル(1.6兆円)になる。「4隻1つのオペレーションになっている。日本はどのような脅威から核を使って自分たちを守ろうとするのか、その対象によって艦隊をいくつ持つか変わってくる。たとえば相手が北朝鮮やもっと大きい国であったとするならば、1つの艦隊だけでは不十分。アメリカの核抑止をカウントせず、本当に全部自前で信頼に足るような核抑止を作ろうとした場合は時間、人間、テクニカルなコストの掛け算では結構高くつく」と想定する。
核保有といっても1発持っていれば抑止になるというわけでもない。「10発と1発だったら、1発が必ず負ける。それにたとえば日本と中国が10発ずつ持ってお互いに撃ったとして、どちらが生き残れるか。東京2発、横浜2発、大阪2発、名古屋2発、これだけでも8発だが、(撃たれた場合に)東海道のベルトラインは大丈夫かという計算をする」。しかし、中国からすれば同様のダメージがあったとしても、余力が違う。「日本が中国に撃ったとして、中国からすれば北京や上海が壊れても、1000万都市が他にどれだけあり、華僑がどれだけいるか。そこから何世代にもかけて日本に反応すると言われた時に、日本はやる気があるのか。それだけの覚悟があるかという問題だ」とも説明した。 (『ABEMA Prime』より)