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2025年8月22日 19:53

「あなたは容疑者」番組スタッフ、偽警察官からビデオ通話詐欺 “かけ子”語る実態

2025年8月22日 19:53

「あなたは容疑者」番組スタッフ、偽警察官からビデオ通話詐欺 “かけ子”語る実態
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 警察官をかたる詐欺の疑いで、20日にカンボジアから移送された29人の男女が逮捕された。21日、番組スタッフに神奈川県警の警察官だと名乗る女から言葉巧みに現金をだまし取ろうとする不審な電話があった。

「あなたは容疑者」番組スタッフにかかってきた電話

神奈川県警の警察官を名乗る女
「神奈川県警警察本部の“シナガワ”と申します。今回、警視庁から調査協力を受けて連絡しているんですが、何か心当たりはなかったですか」

 21日に突然、番組スタッフにかかってきた神奈川県警の警察官を名乗る女からの電話。

神奈川県警の警察官を名乗る女
「○○銀行のキャッシュカードが押収物の中から見つかったので、今回事件の当事者として連絡しているんですが」
番組スタッフ
「本当ですか?」

 詐欺事件の容疑者宅から、番組スタッフ名義のキャッシュカードが発見されたため連絡したという。

神奈川県警の警察官を名乗る女
「神奈川県川崎市…1丁目の○○○○」
番組スタッフ
「そこ私の住所ですわ」

 スタッフの自宅の住所を正確に把握していた。さらに衝撃的な言葉が告げられる。

神奈川県警の警察官を名乗る女
「今現在は容疑者という形になっています。最低で10日から最長で23日間の拘束、拘留捜査が行われますので、きょう中に対応いただかないと、今現在容疑がかけられていますので証拠隠滅や逃亡の恐れも考えられます」
「それでは捜査本部がある東京の警視庁本部に電話をつなぎますので、リモートでの取り調べに応じてもらえますか」
番組スタッフ
「はい、分かりました」
神奈川県警の警察官を名乗る女
「事件番号が3188です」

 事件番号を告げ、本物の捜査であることを印象付ける。捜査本部がある警視庁の取り調べに電話で応じるよう促し、警視庁に電話を転送するという。

“警察手帳”見せ脅し 番組スタッフは警察署に

“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「“緊急捜査本部”の伊藤と言います」

 代わって電話に出たのは、警視庁緊急捜査本部の伊藤と名乗る男。しかし、番組が警視庁に確認すると緊急捜査本部という部署は存在しないという。

“警視庁”に電話を転送され…
“警視庁”に電話を転送され…
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「被害届が出ている。(スタッフの名前)という方にお金を振り込みましたと。犯罪行為に関与したのかしていないのか、しっかり証明していきたい。あとから取り返しがつかなくなる前に話を聞きますから。分からないことは分からないと言ってもらえれば、分かるように説明していくので」

 男は丁寧な言葉遣いで、時には番組スタッフに寄り添うような言葉もかけた。

“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「動揺される気持ちは私もくみ取れるけど、落ちついてしっかり話していかないと解決できない。犯罪で得た収益を受け取ったんじゃないかといった疑いがかかってしまっている。重点的に話を聞いたうえで、疑いを晴らしていただく必要がある」

 警視庁の警察官を名乗る男は電話からビデオ通話に切り替えるよう指示してくる。

“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「私も(スタッフの名前)さんと顔を見ながら調書をとっていきたい。顔が映るようなアプリ、何かお持ちですか」

 指示通りビデオ通話に切り替えると男の顔が現れる。

ビデオ通話に切り替えるよう指示
ビデオ通話に切り替えるよう指示
番組スタッフ
「警察の身分証明できるものありますか?」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「伊藤と申します」
本物の警察官だとアピール
本物の警察官だとアピール

 画面に警察手帳らしきものを提示し、本物の警察官だとアピール。ビデオ通話から再び電話へ切り替えると…。

“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「事件に関与している金額6000万円以上に上っている。(スタッフの名前)さん個人が思っているほど小さな事件じゃない」
「こういう罪に問われてしまったら、仕事だったり家族だったり、どういうことになるかご理解できていますか」
「真摯に対応とれないなら、自宅でも良いんですけど、拘束かけたうえで捜査していくという事件なんですが、理解できていますか?」

 寄り添うような口調で話していたかと思うと、突然、脅すような言葉を畳み掛けてくる男。

「どうされたいんですか?態度からどうされたいのか見受けられないんですけど」

 男は番組スタッフの家族構成や仕事の内容、家の間取りなど、細かく個人情報を聞いていく。そして質問の内容は次第にカネの話に…。

「年収だったり月収だったりどういう形になっているんですか」
「銀行は本日付の残高いくらになっていますか」
番組スタッフ
「銀行に行かないと分からない」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「じゃあ、確認してください」
番組スタッフ
「後ほど行きます」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「近くにコンビニなどありますか?」
次第にカネの話になり…
次第にカネの話になり…

 銀行の残高を執拗(しつよう)に確かめさせようとする男。

番組スタッフ
「見える範囲にコンビニがない。探さないとダメ」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「じゃあ探してください」
番組スタッフ
「歩けばあると思う」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「歩いてみてください」
番組スタッフ
「だったら(電話を)1回切っていいですか」
“警視庁緊急捜査本部”を名乗る男
「何のためにですか?」

 電話を切らずにコンビニに行くよう指示する男。番組スタッフはコンビニを探すふりをして近くの警察署に…。

警察署に着いた時には電話は切れていた
警察署に着いた時には電話は切れていた

 しかし警察署に着いた時には電話は切れていて、警察官立ち会いのもと、電話をかけてみるが、再びつながることはなかった。

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マニュアル暗記 通話はすべて録音 “反省会”も

特殊詐欺の被害額
特殊詐欺の被害額

 今急増する“警察官をかたった特殊詐欺”。警察庁によると、今年1月から6月までの特殊詐欺の被害額は全国で597億円。去年の同じ時期より約370億円増と過去最悪のペースであり、中でも警察官をかたる手口が全体の65%を占めているという。

 20日に警察官をかたった特殊詐欺に関わったとして、カンボジアから移送・逮捕されたのは19歳から52歳までの男女29人。全員が電話をかける役の“かけ子”をしていたとみられている。

 記者の問いかけには答えず、うつむきながら歩く29人。今年5月、警察官などに成りすまして嘘の電話をかけ、東京都の64歳の男性から現金をだまし取ろうとした疑いで逮捕された。

 多くの観光客が訪れ、アンコールワットなどの世界遺産が人気の国、カンボジア。この国が特殊詐欺の一大拠点になっているという。

 今回逮捕された29人が拠点としていたのが、タイとの国境にある町・ポイペト。摘発のきっかけとなったのは、この拠点で詐欺を強いられていた21歳の日本人男性の保護だった。

拠点のある敷地内
拠点のある敷地内

 男性の証言をもとに、5月にカンボジア警察が拠点を捜索。29人の日本人が拘束された。拠点のある敷地内はインターネット回線を引くためか、いくつものケーブルが束になっていた。

 押収された携帯電話は84台。解析結果から、今年2月から摘発されるまでの4カ月間で被害額は約14億円。すべて日本人への特殊詐欺とみられている。

 警察によると、29人の日本人はお互いに面識はなく、日本国内でリクルーター役が「お金が稼げる」などと勧誘していたという。

 取材を進めると、拠点内でどのように詐欺を行っていたのか分かってきた。

被害の手口
「あなたはマネーロンダリング事件の容疑者になっている。これから取り調べを行いたい。本来なら(警察署の)県まで来てもらう必要があるが、今回はビデオ通話でよい」

 警察官をかたり、被害者を追い詰めていく今回の手口。番組ディレクターにかかってきた手口とほぼ同じ流れで嘘の電話が行われていた。

 警察によると、拠点内ではまず最初にマニュアルを暗記させ、かけ子の先輩のだましの手口をまねることで、容疑者たちはだまし能力の向上に努めていたという。

それぞれ役割が決められていた
それぞれ役割が決められていた

 さらには、かけ子それぞれ役割が決められ、話の内容や進捗(しんちょく)状況をスマホで共有し、お互いに協力し合って犯行を行っていたという。

摘発の様子を目撃した人
「入り口がずっと閉まっているので、日本人がいるというのは知りませんでした」

 拠点内では本名は明かさず、偽名で呼び合っていた容疑者たち。警察によると、29人は拠点内で朝から晩まで電話をかけ続け、被害者との通話はすべて録音していたという。終了時には録音した通話内容を聞きながら反省点を出し合うなど、翌日以降の成功率を上げる取り組みも行われていたという。

「先生」中国系マフィアが指示 “かけ子”語る実態

外出なども制限されていた
外出なども制限されていた

 愛知県警によると、中での生活は中国人によって監視され、外出なども制限されていたという。その日本人のかけ子を取り仕切っていたのが中国人マフィアの存在。今回、日本人29人が摘発された拠点でも監視役として中国人がいたことが分かっている。

 特殊詐欺の一大拠点となっているカンボジアで中国人マフィアにかけ子として利用され、働かされる日本人。取材を進めると、その背景に詐欺グループと権力中枢との結びつきが明らかになってきた。

コック・アン氏
コック・アン氏

 ポイペトのゴッドファーザーと呼ばれるコック・アン氏。フン・セン元首相の側近として知られ、華僑系財閥を率いるカンボジア政財界の大物実業家だ。

 経営するカジノリゾート「クラウンカジノ」や、彼の所有する物件は特殊詐欺の拠点となっているとみられていて、タイ警察は先月に関係先を一斉に捜索した。約50億円の資産を押収。コック・アン氏の逮捕状を取り、行方を追っている。

 コック・アン氏の捜査を監督するタイ警察サイバー犯罪捜査局局長のピーパン・トライロン氏は、21日にテレビ朝日の取材にこのように答えた。

「コック・アン氏はポイペトで多くの建物を所有し、そのほとんどが詐欺目的で作られています。内部には被害者を拘束する部屋や、詐欺を行う作業部屋があります」
日本人4人の拘束も
日本人4人の拘束も

 現地当局は特殊詐欺への取り締まりを強化。7月には首都プノンペンやポイペトなど138カ所の詐欺拠点で、中国人やベトナム人など3000人以上が特殊詐欺に関わったとして拘束された。その際にも日本人4人が拘束されている。

タイ警察サイバー犯罪捜査局局長 ピーパン・トライロン氏
タイ警察サイバー犯罪捜査局局長 ピーパン・トライロン氏
ピーパン氏
「カンボジアのGDPの50%〜60%は詐欺によるものとなっています。少なくとも50カ所以上で詐欺拠点が確認され、カジノの中にもいくつか拠点があります」

 しかし、これはまだ氷山の一角。カンボジアには10万人規模で詐欺の関与者がいる可能性が指摘されている。

 テレビ朝日は、実際にカンボジアの拠点でかけ子として働かされていて、先月脱出した30代の男性に話を聞くことができた。

「(Q.何をするか知らずにカンボジアに連れていかれた?)知らされてはいたんですけど、逃げられないからやむなくやった」

 男性は今回逮捕された29人とは別の拠点にいた。借金をもとに日本から無理やり連れて来られたといい、厳しいノルマを課され、達成できなければ暴力が待っていたという。この拠点を仕切っていたのも…。

かけ子として働かされていた男性
かけ子として働かされていた男性
「(Q.アパートの詐欺拠点にはどういった人たちがいた?)チャイニーズマフィアと日本人のかけ子。チャイニーズマフィアのなかには『先生』と呼ばれる人も。基本的にはチャイニーズマフィアが全部仕切るというパターン」
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法なので」
「(Q.罪悪感はなかった?)感じましたよ、さすがに。マネロン(資金洗浄)の容疑者に仕立てて金をむしり取るというシナリオを見て、まともな神経している人は振り込むかなと思ったりする」
「一生懸命やって『こいつは大丈夫だ』と思わせたところで逃げた」

 カンボジアを拠点とした日本への警察官をかたった特殊詐欺。警察は今回逮捕された29人の認否を明らかにしていない。詐欺グループの実態解明を進めるとともに、共犯者がさらに複数いるとみて捜査を進めている。

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年8月22日放送分より)

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