国の特別天然記念物のタンチョウなどが生息する北海道の釧路湿原の周辺で、メガソーラーの建設が進んでいる。文化庁は天然記念物への影響を事前に十分に確認していない場合には、原状回復を命じる可能性があるとしている。
タンチョウ親子のすぐ脇に…メガソーラー計画
番組に届いた一通の手紙…。
差出人は、静岡県の高校生からだった。
取材班が27日、現場となっている北海道釧路市に向かうと、釧路市内のあちこちに巨大なメガソーラーが。
そして今、物議を醸している現場を訪れると、メガソーラーパネルの建設地では、2台の重機が大きな音を立てて整備をしていた。
この工事が行われていたのは「日本最大の湿原」の目と鼻の先だった。
雄大な自然のなかで、多くの希少な生物が生息している「釧路湿原」。そのすぐ近くで4.2ヘクタールの土地に6600枚の太陽光パネルを並べる巨大メガソーラーの建設が行われていた。
今月2日に撮影された国の特別天然記念物タンチョウの親子。湿原を歩くそのすぐ後ろで、ダンプカーやショベルカーが動いている。
「本当に近い所、一番近い時に150メートルくらいでしたかね」
この動画を撮影したのは、工事現場から300メートルほどの位置にある猛禽類医学研究所の代表・齊藤慶輔さんだ。
「親と共に飛べないひなが餌(えさ)を取ってるという現状から、この近辺で繁殖した巣があったってことは明らかなんです」
今月1日に撮影された映像には、重機が忙しなく動いている様子が映っていた。
「音とか視覚的な影響。人がいます、重機が動いています。例えば、その近隣でいろんな生物、タンチョウが繁殖していたとすると、ここが安全安心な場所として親が認識しなければ、今後繁殖しなくなる可能性が出てきてしまうんですね。必要十分な調査がやられたと思えないような状況で工事が先行してしまっている。見切り発車してしまっているところが大きな問題だと思います」
「生態系への影響」を懸念するとともに、「調査が不十分だった」ということを問題視する齊藤さん。
しかし27日、工事現場の責任者の男性は、次のように話した。
「僕たちも市に協力しながら、ダメなものはダメでこういうふうに改善しますよっていうことを言いながら工事を進めているなかで、やっぱりもうこれだけね、手かけてお金かけて。違法なものでもないものをこれだけたたかれてね…」
取材を進めると、事業者側と行政側で話の食い違いが生じていた。
調査に不備?業者「法令遵守」
工事が進められている場所は、釧路湿原国立公園のエリアから100メートルほどの私有地。市が設定する、太陽光発電施設の設置に関するガイドラインに沿って申請し、受理されればメガソーラーを建設できる場所だ。
ガイドラインでは、タンチョウやオジロワシなどの生態系に問題がないかなどを調査して、希少生物を保護し監督する「釧路市立博物館」に報告することが求められている。
メガソーラーを建設する事業者は、大阪に本社を置く株式会社日本エコロジー。私有地を購入し、市内の2カ所でメガソーラー建設の計画を立てていた。
しかし、その1カ所の敷地内に天然記念物オジロワシの巣が見つかったため、工事の中止を決めた。
「(巣のある)木をできるだけ刺激しないように、なおかつ卵が産まれる期間は工事をしません」
もう1カ所では計画が進んでおり、市のガイドラインにのっとって希少生物の調査を行ったという。
専門業者に依頼して行った希少生物の生息調査の結果は、タンチョウだけでなく、絶滅危惧種のキタサンショウウオや猛禽類も現場には生息していないという内容だった。
企業側は、タンチョウについて専門機関に調査を依頼。その結果について相談を受けた研究者は、次のように話す。
百瀬邦和理事長
「(株式会社)日本エコロジーさんからお話があって、調査資料に自分の(過去の調査の)経験で裏付けを、こっち(私)の立場として、それ(タンチョウへの影響)は軽微であると判断した」
事業者は3月、希少生物の保護・監督を行う釧路市立博物館に、研究者の意見を反映した調査結果を報告。工事はスタートした。
しかし、この「調査」を巡って、事業者側と博物館側の意見は食い違う。
釧路市立博物館は「現地でのタンチョウの生息調査が行われていない」「生息数が少ないチュウヒについては調査自体が実施されていない」などとして、調査結果は不十分だと事業者側に伝えたが、事業者側は再調査することなく、工事を始めてしまったと指摘する。
さらに、絶滅危惧種で釧路市の天然記念物に指定されるキタサンショウウオの調査報告が提出されたのは、工事が始まってからだと話している。
釧路でキタサンショウウオの研究を行う照井さんは、次のように話す。
照井滋晴代表
「(株式会社日本エコロジーの)事業地になっている周辺というのは、日本で初めてキタサンショウウオが見つかった土地があるエリアです。あの周りには広くキタサンショウウオが今も分布している可能性が十分に考えられます」
これに対し株式会社日本エコロジーは、釧路市立博物館が調査不十分だったなどと指摘していることについてこう回答した。
「協議中に(工事を)開始したとのご指摘は事実と異なります。調査不十分との正式な指摘を受けたことはございません。調査結果や専門家の意見をとりまとめ、釧路市環境保全課に提出し、適正に受理されております」
食い違う両者の言い分。
今月21日に釧路市側は文化財保護法に基づき、「希少生物の生息が危惧される」とする意見書を天然記念物の保護を行っている文化庁に提出した。
「開発が天然記念物の滅失や毀損につながることがないよう、釧路市教育委員会におきまして適切に指導していただきたい」
文化庁は調査が不十分なまま工事が行なわれている場合、「原状回復を命じる可能性もある」という見解を示した。
番組の取材に対し、株式会社日本エコロジーは次のように回答した。
「弊社は法令を遵守(じゅんしゅ)し、必要な手続きを経て事業を進めているものであり、現時点で違法性や原状回復命令に該当する事実は一切存在いたしません」
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年8月28日放送分より)
















