市街地へのクマの出没が相次ぐなかで、市町村の判断で市街地でも特例的に猟銃を使うことができる「緊急銃猟」制度が1日から始まる。その一方で、発砲を巡ってハンターからは課題を指摘する声も出ている。
何が変わる?発砲の4条件
人の生活圏で相次ぐクマの出没。そんななか、1日から新たにスタートするのが「緊急銃猟」制度だ。
これまでクマの駆除には、現場に駆けつけた警察官が上司に状況を報告し、判断を仰ぐなどさまざまな手続きを踏む必要があり、迅速に対応できないケースが多くあった。
しかし1日からは、市町村長の責任のもと現場判断でハンターが銃猟を使用することが可能になる。
発砲できる条件は4つ。「クマが人の日常生活圏に侵入」「危害を防ぐための措置が緊急に必要」「猟銃以外の方法では捕獲が困難」「住民に弾丸が到達する恐れがない」。これらの条件をすべて満たした場合に、市街地で猟銃使用ができるようになる。
この新制度施行を前に、各自治体では市街地での発砲を想定した訓練を実施。札幌市では、環境省が策定した「緊急銃猟ガイドライン」に基づき、市の職員が住民の避難や安全確保の手順などを確認した。
先月、クマによるスイカやトウモロコシなどの食害が相次いだ江差町でも訓練を実施した。
最前線でクマ対策に取り組むハンターを取材すると、「緊急銃猟」制度への“本音”が見えてきた。
ハンターの実情
札幌市では先月もクマの出没情報が相次いだ。地元猟友会のハンターたちが、クマの出没で閉鎖された公園に集まっていた。
玉木康雄隊長(63)
「クマが発見されたということで、今公園が閉鎖されています。直近の足跡ですとか、ふんなどが見つけられた場合だとか、人が散策する所を歩いているとか、そういった状況がないかを確認しに行きます」
猟友会札幌支部でヒグマ防除隊34人を束ねる玉木隊長。クマが出没すれば、自治体からの要請ですぐに出動しなければならないが、ハンターたちにはある事情が…。
「(Q.これがメインでお仕事している?)皆それぞれ仕事は持っていまして」
札幌市で日本茶の卸問屋を営む玉木隊長。
出動の要請があれば、お店がどんなに忙しくても、隊長としてすべての現場に向かわなければいけないという。
ハンターの本音 事故の責任は
隊員34人のうち7割が現役世代で、ほとんどのメンバーが本業の仕事を持っている。
人員把握や作戦の立案、交通規制や地形の確認など細部まで考えるという。
自宅に到着すると車を乗り換え出動。車には、猟銃以外の装備一式が常に積まれている。
他にも、隊員などと連絡を取り合う無線機や双眼鏡など、この時期は約10キロの装備を持つという。
出動要請を受けてから自宅に戻り、現場に到着するまで早くても1時間かかるという。
1日から始まる「緊急銃猟」制度についてはこう話した。
一方で、事故が起きた場合の責任についてはこうも話している。
他の地域の猟友会でもハンターの責任を危惧する声が上がっている。
人への被害が出た場合は?
先月1日、北海道砂川市で捕獲されたのは体長2メートル以上もあるクマ。砂川市では7月から畑の農作物が食い荒らされる被害が相次いでいた。
池上治男さん(76)
「この(家の)裏にシカが来たりするんだけど。いた、シカいた」
市の依頼を受け毎日クマの調査をする、北海道猟友会砂川支部の池上さん。猟友会に所属するが、猟銃の所持は認められていない。
池上さんは2018年にクマを駆除した際、建物の方向に発砲したとして公安委員会に猟銃所持の許可を取り消された。
池上さんは許可取り消しは不当だとして裁判を起こし、一審では勝訴したが二審で敗訴。今も最高裁で争っている。
「銃を撃つ段階で、銃刀法とか警察庁の方の関係ですから。環境省の中のガイドラインだけでは対応できないと思う」
さらに北海道猟友会では、緊急銃猟ガイドラインには人への被害が出た場合、ハンターの責任について明記されていないとして国に説明を求めていた。
「業務上過失致死傷罪について、捕獲者(ハンター)の責任が問われることとはならないと考えています」
環境省によると、人身事故が発生した場合についてはハンターが刑事罰に問われることはないとしている。しかし、行政処分の猟銃所持許可の取り消しについては個別事案に応じて判断されるとしている。
先月29日、北海道猟友会は、市町村が発砲を判断しても安全確保に疑念がある場合は、ハンター自身が中止を判断することができると全支部に向け通知を出した。
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年9月1日放送分より)