新宿東宝ビルの横、通称「トー横」には今も深夜に徘徊する未成年者が後を絶たない。路上に座り込み、飲酒・喫煙する人々は通称「トー横キッズ」とも呼ばれ、犯罪に巻き込まれることも多いと以前から問題視されてきた。若者にとって危険な場所として各種メディアを経由して広く知られた影響からか、地方から観光気分で訪問したり、さらには海外からの旅行者も訪れる“観光地”のような捉え方もされている。
周囲の大人たちの状況も深刻になっている。若者たちを性の対象として言い寄ってくる大人たちもいるが、善意を持って寄り添っていたはずの大人が、いつしか一緒に罪を犯したり、男女の関係になってしまうケースも目立ち始めた。「ABEMA Prime」では、トー横を取材するYouTube、若者たちの相談を受けてきた当事者たちに話を聞き、問題が解決しないまま盛り続ける状況と打開策について考えた。
■トー横見たさに地方、海外から見物客

8月まで夏休みでもあり、全国各地からトー横に人々が集まってきたと言われている。実際はどうだったのか。日頃からトー横界隈を取材しているYouTuber・芹野莉奈氏は「夏休みには、普段トー横に出入りしない人が興味本位でやってくる。地方から出てきた人や外国人観光客、そこに普段からトー横にいる人たちが入り混じってカオスな状況になっていた。いろいろな人種がいるみたいな、異様な光景だった」。もともと歌舞伎町そのものが観光スポットの一つではあるが、中でも“トー横”見たさに訪れる人が増えたという印象だ。
日頃からトー横に居座り続ける若者の様子はどうか。「1年以上も居座る子もいれば、すぐに撤退、卒業する子もいる。家庭環境が複雑だったり学校やバイト先でも居場所がない子が、トー横に行けば同じような仲間がいて、居場所ができると感じている。本当に駆け込み寺のように集まってくる子もいる。それを見て下心ありきで『助けてあげよう』と思う大人たちも集まってくる」。
公益社団法人日本駆け込み寺・前代表で相談役の玄秀盛氏も、トー横については「見事に観光地化している」と語る。「歌舞伎町にいたら、タバコを吸っていても誰も注意もしないし、クスリも売っていて、性的な問題でも大人が(若者を)買いに来る。街の中に入ったらみんなが親しげに声をかけ、友人・知人のような関係性が24時間続いている。未成年で新たに入ってくる子も増えている」。また危機管理コンサルタントの尾久哲夫氏は「何か歌舞伎町が特別なことをしても自分たちには関係ない、歌舞伎町だけの話のようになってしまっている」と、違法なことが起き続けても何ら不思議ではない地域という認識が広がっていることに危機感を示した。
■相談に乗っていたはずの大人が“闇落ち”

若者たちを取り巻く大人たちの問題も大きい。相談を聞き問題を一緒に解決してきた日本駆け込み寺だったが、事務局長が相談に来ていた女性と一緒にコカインを使用して逮捕されるという不祥事が起きた。一時、活動を停止していた日本駆け込み寺だが、現在は再開。代表理事を女性が務め、相談に来た人が女性であれば対応する人も女性にするような対応策も施した。善意を持ち、真摯に寄り添う大人がいる一方で、いつしか関係が当初のものと変わってしまうケースも実在する。
玄氏は、不祥事を踏まえ「距離感が大事だと学習した。個人同士ではLINEのやり取りもしないことにした。どこかで線引きをしないといけない」と述べると、尾久氏は「やはり何度も会って本音の相談が聞けることはある」としたものの、「みんなが真面目にやろうとしているが、一部の悪意のある大人もいっぱいいる。その悪意ある大人を入れないスペースというのが絶対に大事だ」と訴えた。
また芹野氏は「最初は本当に善意で、若い子たちと普通にクリーンな気持ちでお話をしたい人もいた。だけどそこに本当に恋心、愛が生まれて付き合ってしまうこともあったりする」と、実態を伝えた。
■トー横問題、根本的な打開策は
各種メディアによるブランド化も進んでしまったトー横の現状を打破するにはどうすればよいのか。1つの考え方としては、場所そのものをバリケードなどを使いながら物理的に“封鎖”“解体”してしまうという考え方もある。ただし現場を知る者からすれば、あまり効果的ではないという意見が強い。芹野氏は「よく解体の話はされるが、バリケードを作っても、すぐ横にみんな溜まっている。解体した後も、その子たちが別のところ、なんならもっと危ないところに行くこともあるので、根本的な解決にならないのでは」と主張する。
それでも尾久氏は「トー横自体を、ずっと居るような場所にしてはいけない」と訴える。「一時的な気分転換や息抜きの場は子どもにも必要だと思うし、同じような悩み抱えてる人間と意見交換するのもいい。ただし悪意のある大人が近づきやすいし、その管理もできない。(トー横から抜け出す)出口戦略も考えていかなければいけないので、ただ閉鎖すればいいという単純な話でもない」と語った。
また東京科学大リベラルアーツ研究教育院教授・柳瀬博一氏は、街のオーナーの努力によって形やイメージが変わった実例をあげつつ、歌舞伎町にも同じものを求めた。「トー横の問題は街のオーナーの問題で、行政もNPOも主人公ではない。具体的に言うと、商業組合や自治体。いくら行政やNPOが動いても、街のオーナーが動かない限り解決しない。渋谷のチーマー問題やハロウィン問題は渋谷区長が動いたが、商店主の人たちもきっちり動いた。池袋西口が浄化されたのも、街の組合の人たちが動いたからだ。同じ新宿でもゴールデン街はちゃんとしているし、隣の新大久保も非常に危ない時期はあったけれど、今では機能して20代女性が一番好きなダウンタウンになった。歌舞伎町では、オーナーの顔が見えない。それがすごく不思議だ」。 (『ABEMA Prime』より)