今年7月までの特殊詐欺の合計被害額は722億円です。これはすでに去年1年間の被害額を上回り、過去最悪の数字です。偽の警察詐欺の被害に遭った32歳の女性を取材しました。
「資金洗浄」「懲役刑」恐怖あおり
「今回事件において、容疑が深いあなたのような方に関してはですね」
「あなたの身柄を拘束し、逮捕するという捜査になっております」
女性
「ええ、ちょっと待ってください。私、逮捕されるんですか?」
突如、女性のスマホにかかってきたのは、検事を名乗る男からの詐欺の電話です。
「私のあなたへの捜査方針の意向としましては、あなたのことをですね、これから捜査員に向かわせまして、逮捕状を執行し、こちらにですね連行していただいて対面してお話ししようと思っておりますので」
女性
「えっと、どうしたらいいんですか。どういうこと」
男は「逮捕」という言葉を繰り返し、女性を動揺させていきます。
「『実際の事件であなたが逮捕されます』そうなった場合『ご家族に迷惑がかかりますよね』とか、仕事先に名前が出てしまった時に、今まで作り上げてきたものが潰されてしまうという恐怖とか。恐怖が一番ありました」
詐欺電話への恐怖を語る女性は、国内外でピアニストとして活躍する都内在住の芥川さんです。
検事を名乗る男は、芥川さんが実際に起きた巨額マネーロンダリング事件に関与した疑いで逮捕される可能性があると話します。
芥川さんは身を守るために証拠を残そうと、電話の一部始終を録音しました。
「かなり大規模なマネーロンダリングであります。この件でね、起訴され有罪になった場合は必ず懲役刑が与えられます。4年から5年懲役刑に行くような刑罰に値するような重罪です。絶対にあなたの口座では、そういう犯罪が行われていることがしっかり確認されております」
芥川さん
「その口座のカードすら持ってないのにですか」
検事を名乗る男
「持っていないことに関してなんですが、もしかしたら売ったかもしれませんよね?」
芥川さん
「えーそういうことか」
検事を名乗る男
「売ったかもしれないという可能性もあります。あなたが持っていないという言葉も私は信じることができません。分かりますかね?」
芥川さん
「そうですね、そりゃそうですよね。なるほどそういうことか」
検事を名乗る男
「今回資金洗浄がねマネーロンダリングが成功した際、名義人のあなたに対して成功報酬を分配していたとも言っております」
芥川さん
「成功報酬をもらっている!?」
検事を名乗る男
「はい」
芥川さん
「もう意味分かんない」
検事を名乗る男
「何もね、全く何もないところから、そういった具体的な供述出ますかね?」
芥川さん
「出ないと思います。普通だったら疑われる」
検事を名乗る男
「あなたは本当にこの件に関与していないんですか?」
芥川さん
「一切しておりません」
数百万円を送金 「気づいた時には被害者」
検事を名乗る男の言葉に納得させられる芥川さん。逮捕を免れる唯一の方法と説明されたのが「資金調査」です。
その方法は、芥川さんの複数の預金口座のお金を一つの口座にまとめ、金融庁の口座に全額送金し「紙幣番号」などを調べるというものです。犯罪への関与がなければ、全額返金されると説明されました。
容疑を晴らすため、わらにもすがる思いで「資金調査」に協力することを決断しました。すると、これまで強い口調だった検事を名乗る男は態度を一変しました。
言われた通りに複数の口座に分けて預けていたお金を一つの口座にまとめる芥川さん。
「今いくらなんだろう。72万8401円を振込します」
検事を名乗る男
「手数料もかかると思うんですね。なので72万8000円で構いません」
芥川さん
「分かりました」
検事を名乗る男
「送金完了のスクリーンショットを必ずお控え頂いて、私のLINEで構いませんので、提示しておいてください」
芥川さん
「振り込みました。OK」
検事を名乗る男
「会社名、金額お間違いないですか?」
芥川さん
「はい、大丈夫です。今『振り込み受け付けました』で、ちょっと待ってください」
検事を名乗る男
「はい、そちらの画面をこちらに画像でください」
検事を名乗る男から言われた通り、一つの口座にまとめた預金を指定された口座に送金します。
「今、金融庁の方から返事きまして、入金の反映ありましたということで、これから国庫の方に移して頂いて資金調査開始します。今回何もなければ逮捕状取り下げ、私の方でできますので、今やって頂いたことが無駄にすることがないよう行動して頂くようお願い致します」
芥川さん
「分かりました。ありがとうございました」
「(Q.送った時どういう気持ちですか?)早く容疑を晴らしたい。これで終わるんだったら良かったぐらいの気持ちですね」
その後、友人からの指摘で詐欺だと気づき、被害届を出しましたが、5カ月経った今もお金は戻ってきていません。
芥川さんは20年コツコツとためてきた数百万円の貯金を2時間ほどで、そのほとんどを失ってしまいました。
これまでは高齢者が主な標的になっていた特殊詐欺。
部屋番号まで正確な個人情報 警察署と一致する番号
“ニセ警察詐欺”では、なぜ芥川さんのような若い人がだまされてしまうのでしょうか?そこには、3つの巧妙なワナが潜んでいました。
「私、大阪府警捜査2課コンドウリイサは、芥川怜子さんに対する録音聴取を行います」
芥川さんは電話の冒頭から警察を名乗る人物に個人情報を握られていたといいます。
名前、電話番号だけでなく、生年月日や自宅の住所を部屋番号まで。公開していない個人情報が筒抜け状態でした。
「一つお伺いしたいんですけれども、この番号は府警さんなんですか?なんか変な番号出てますが」
三重県警を名乗る男
「三重県警察本部からかけております」
芥川さん
「調べたところ番号違うんですけれども」
三重県警を名乗る男
「三重県警警察本部 番号 と調べていただけたら出てきます」
芥川さん
「出てこなかったんですけれども、違う番号ですね」
三重県警を名乗る男
「いや、必ず出てきます。+180というのは、こちらの録音対象番号となっておりまして、今あなたと私の会話の録音をさせていただいています」
芥川さんの被害の発端となった三重県警を名乗る男からの電話。画面に表示されていた番号は+180から始まる国際電話だったため、一度は不審に感じたものの、三重県警の公式サイトを調べると+180以外は代表番号と一致していました。
「(Q.その時に信用は…?)しましたね。その録音機能うんぬんはちょっと分からないけれども、そういうものがあるのかなって信じてしまいました」
外部との連絡遮断でパニックに…
その後も三重県警から大阪府警、検察と代わるがわる電話がかかってきますが、疑うことはありませんでした。
「私はカメラオンの方がいいですか?」
大阪府警を名乗る女
「そうですね。表情検査などもございますので」
芥川さん
「はい、分かりました」
大阪府警を名乗る女
「ではですね、お電話どちらかに固定していただくことは可能でしょうか? 芥川さんのお顔とですね、上半身がしっかりと映るような形で」
大阪府警を名乗る女は、電話からLINEのビデオ通話に誘導すると、第三者へ連絡させないためか、芥川さんに手をそろえて座らせ、手元まで画面に映るよう要求します。さらに、女はLINEでPDFファイルを送りつけてきたといいます。
その中身は逮捕状。被疑者名には芥川さんの名前、罪名は「犯罪収益隠匿罪」と書かれ、「上記の被疑事実により逮捕することを認可する」と記されています。
「逮捕状も執行されるということなんですね。芥川さんの身柄を拘束したうえで、大阪府へ身柄を移送されてしまうということです」
芥川さん
「はい。え、え、ええ。ちょっと待って。頭がついていかない。緊急逮捕令状っていうのは、私逮捕されるんですか?」
逮捕の2文字に不安を拭えず、家族に相談できないか女に尋ねますが…。
「私一人で全く分からないんで、父とか母に見せたらダメなんですか?」
大阪府警を名乗る女
「そうですね、今回の事件がですね、秘密保持対象というものに指定されている事件なんですね。親族であってもですね、関係者である可能性が考えられるんですね」
芥川さん
「私の身内も」
大阪府警を名乗る女
「警察証拠隠滅であったり、逃亡の恐れですね。そういったものも考えられますので」
「極秘捜査」であることを理由に、誰にも連絡をしてはいけないと説明される芥川さん。検事を名乗る男とのやり取りでも…。
「(事件について)全く身に覚えがないので、この状態を知り合い、家族に弁護士がいますので、そこに相談することは可能ですか?」
検事を名乗る男
「我々ね、あなたのことを逮捕しに捜査員に向かわせましたら、留置所に拘束したうえでですね、弁護士を選任する権利を与えますので」
芥川さん
「その際にじゃないと、今もう家族に言ってはいけないんですか」
検事を名乗る男
「そうですね」
芥川さん
「全く納得いかないじゃないですか。緊急逮捕とか意味分かんないし」
「すぐ弁護士とやり取りはできないんですか?」
検事を名乗る男
「ご家族の方ですよね?」
芥川さん
「はい、そうです」
検事を名乗る男
「我々としましては、その弁護士の方についても取り調べをすることになります。あなたがそういうお話をすることによって、その方にもご迷惑がかかるということを把握しておいてくださいね」
周囲に助けを求めることができず、1人で「逮捕」の恐怖におびえていったといいます。
芥川さんは新たな被害者を生まないよう、自身の体験談を発信し続けています。
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年9月9日放送分より)