東京・浅草で「伝説のおかみさん」として知られる女性は、老舗蕎麦店の4代目というだけでなく、実は有名なさまざまなものも始めた人物なんです。
サンバで町おこし
東京・浅草の商店街を1人乗り用のカートでスイスイと走り抜けていく、こちらの女性。御年88歳になる冨永照子さんです。
この日、向かった先は、先月行われたサンバカーニバルの打ち上げです。
1981年、昭和56年に始まり、今年40回目を迎えた「浅草サンバカーニバル」。実はこれを立ち上げたのが冨永さん。
会場で笑いをかっさらいます。
「どうだった。きょう暑かった?」
「きょう暑かったです」
「だからね。来年から日にちを(秋に)ずらそうって」
世の中の変化にも柔軟に対応します。
本業は老舗そば店を切り盛り
冨永さんの本業は、浅草にあるそば店「十和田」の4代目おかみ。その人柄からか店にいると多くの人が相談にやってきます。
「子どもたちと母親とか、やるじゃないですか。あれ、すごく良いと思う」
「おかみさんを頼りにしている方。色んな会社の社長さん、会長さん、本当に皆さん、有名な方がいっぱい(会いに)いらっしゃる」
「お客さんでもあり、ファンでもあるという。これだけすごい人はいないですね」
「おかみが(店に)いないと誰もいない、分かりやすいんだよね」
「体験談とか武勇伝。そういうのを聞いていると、すごく元気が出ます」
「なんでもご相談。何屋だか分かんない私。もう忙しいよ。休むひまがない」
町を移動していても、すぐに常連客と遭遇します。商店街のお祭りを見て回っていた時には、くじ引きの箱の中をのぞき込んで…。
「ない!全然(当たりが)ないよ。ひどいよ」
「おかみさん会」講演は1000回
自由気ままな冨永さんですが、もう一つ“別の顔”があります。
「はい、きょうはどうも、お疲れ様。きょうの『おかみさん会』の会合よろしくお願いします」
行われていたのは「東京おかみさん会」の会合です。「おかみさん会」は、全国各地に支部があり、町おこしのためのイベントや準備などを行う組織。
そのなかで冨永さんは、全国の代表者たちが集まる「ニッポンおかみさん会」の代表でもあるのです。
「『ニューオリンズジャズ』は、とりあえず続ける。40回やったらギネスブック載る話もある」
浅草でサンバを始めたことをきっかけに、全国の商工会などから講演に呼ばれるようになり、こなした数は1000回に上ります。
各地を訪れるなかで、自ら立ち上げた「おかみさん会」の重要性を訴えたことが始まりでした。
「講演するたびに『女が頑張りなさい』『立ち上がりなさい』と言って、町おこしをするために発破をかけた。そこに『おかみさん会』ができ、あっちに『おかみさん会』ができて、全国に『おかみさん会』ができた」
この日の議題も、さまざまな町おこしイベントについてです。
「年々人が増えると、その分大変になるということではある」
「本当は墨田区がやってくれれば、一番いいんだけどね」
浅草の町を走る「2階建てバス」も、冨永さんが発案して導入したもの。当時は法律の車高制限があって走れませんでしたが、運輸大臣に直談判して、特別に許可を出してもらったそうです。
「2階建てバス、サンバカーニバル、つくばエクスプレス、浅草寺のライトアップ。私がいつも言うのは、『皆さん一過性はダメよ』って。かたちに残るものをやったから、私があるんじゃないのって。一過性のイベントを補助金取ってやったってダメなのよ」
「振袖さん」も発案
一過性ではなく、かたちとして残るもの。京都の「舞妓さん」を参考にして始めた「振袖さん」もその一つです。
「コロナ禍で浅草に全然人がいなくなった時に、『お昼は人力車、夜は振袖さんでやってみない』と声を掛けられて、始めました」
この日は、別の仕事が決まって「振袖さん」をやめる人の卒業式。
「自衛隊に行くの?」
「自衛隊に行きます」
「いい根性だね〜」
時には、こうして去っていく人も、得意の三味線で送り出します。
幸田千江子さん
「夜の浅草を盛り上げたいということで、『振袖さん』もつくられたというのは聞いていた。『舞妓(まいこ)さん』と似ていると言われることが多いので、歩いていたら『振袖さんだ』と言ってくれるような。おかみさんが生きているうちに、もっと有名になりたいと思います」
“町おこし”に関わり始めて50年以上。88歳になった今も、駆け回っていますが…。
「正直恥ずかしい話だけど、夜中にトイレで何度も起きる。なかなか出てこない。本当に考えちゃうよ。こんな小さい階段でも、『あれ』ってつまずいてみたり。物忘れがひどいよ。こんなふうにして、今約束してもよっぽどじゃなきゃ、もうあした忘れちゃうから」
ただ、息子の前では“強気”です。
「『敬老の日』は嫌いなんですよ。『老人じゃない』って言い張るんで。『敬老の日』にお祝いして怒られたことある。お祝いしたことないです。周りはもう介護だとかなんだって考えたら、好きなことやって元気でいるのはありがたい」
まだまだ現役の“伝説のおかみ”。今後の活動は?
「あと2年で90歳だから、バトンタッチしようと思っている。でも生きているうちはちゃんとね」
「(Q.お世話するんですね?)それはしょうがないでしょ。趣味が“町おこし”だから」
(「グッド!モーニング」2025年9月15日放送分より)