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ABEMA NEWS

2025年9月16日 11:31

事故で妊婦死亡、赤ちゃんは重い障害…「胎児も被害者」遺族が訴え 亡くなった妻がとっさに守った命

事故で妊婦死亡、赤ちゃんは重い障害…「胎児も被害者」遺族が訴え 亡くなった妻がとっさに守った命
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 愛知県一宮市で起きた交通事故で、妊娠9カ月の女性が亡くなった。おなかの中の赤ちゃんは一命を取り留めたが、「人はどの時点で“人”として認められるのか」という問いを残している。

【映像】沙也香さんの生前最後の写真

 研谷沙也香さん(31)は2025年5月21日午後4時前、一宮市内の住宅街で路側帯を歩いていたところ、乗用車に背後からはねられた。夫の友太さん(33)は「妻はここで倒れていたみたいだ。跳ねられて飛んでいったというよりも、おそらく引きずられていったのではないか。ブレーキ跡もなかったようだ」と証言する。沙也香さんは病院に搬送された2日後、息を引き取った。

 車を運転していたのは 一宮市の無職・児野尚子被告(50)。前方などを注視せず沙也香さんを死亡させたとして、過失運転致死の罪で起訴された。

 同じ会社の先輩、後輩だった2人は、4年前の2021年に結婚。友太さんは単身赴任先の広島で事故の連絡を受けて、新幹線に飛び乗った。事故に遭う前には、沙也香さんから「昨日からすごい暑い、、、広島も暑いのかしら?」といったメッセージが届いていた。友太さんは「仕事があり、それに返せてなかった。そこで私が『暑いなら散歩とか無理しないようにね』と返せていれば、事故に遭わなかったのかなとか思う」と振り返る。

 そして、「病院に向かう新幹線の中で、妻には『さやか頑張れ!!』とメッセージを送った。それしかできることがなかった」というが、既読になることはなかった。

 友太さんは、沙也香さんについて「明るくて、正義感が強く、人思い。彼女がそばに居るだけで、周りの人が笑顔になる。そんな人だった」と語る。

 沙也香さんが最後に会話したのは、沙也香さんの父親だった。「『今日も暑くなりそうだから、散歩無理しなくていいから、休んだらどう?』と言ったが、(沙也香さんは)真面目なので、『きのう休んだから今日は行くよ』という感じで、『じゃ気をつけてね』って言ったのが最後の会話だった。強くでも引き留めていたら、事故は起きなかったかなと思う」。

 友太さんによると、「『子ども欲しいね』と2人で話をしている中で、1人目ができたが、その子は流産してしまった。その後にできたのが今回の娘だ。とにかく無事に産まれてきて欲しいと、常日頃、妻と話をしていた」という。

 母子手帳には、「つわりも治まり、1時間くらい散歩をした。安定期を迎えて、安産祈願に行った」といった内容が、枠一杯に細かく書き込まれていた。おなかの子を一番に考えて、3食の食事も記録していた。

 事故直後から沙也香さんは意識がなく、緊急の帝王切開を行った。生まれたのは1822グラムの女の子で、夫婦で決めた日七未(ひなみ)ちゃんと名付けた。「温かみのある、人への思いやりを持った優しい子に育って欲しいと話して、名前の候補として挙げたときに『日七未っていう名前かわいいね』と言ってくれた」(友太さん)

 沙也香さんが息を引き取ったのは、日七未ちゃん誕生の2日後だった。抱き上げる夢も叶わなかった。そんな日七未ちゃんだが、生まれてから一度も泣き声を上げず、目を開いたこともない。身体に酸素が届かない状態が続いたことで、脳に重い障害を負い、自分で身体を動かせず、人工呼吸器で命をつなぐ状態が続いている。

 友太さんは「『とにかく無事に生まれてきて欲しいね』という会話が多かった。妻とショッピングモールとか行ったときに、ベビー服とか一緒に……。『この服かわいいね』とか話をして、『無事に生まれたら、一緒にかわいいのを見に行こうね』『だけど、すぐに大きくなるから、買いすぎも良くないよね』と話をしていた」と涙ぐみながら語る。

 そして、「本当に無念しかない。母に抱かれず、娘自身も無念だと思う。娘自身の力で、ハードルを乗り越えて、今の状態まで来ているので。妻が残してくれた宝物だから、妻の分まで愛情を注いであげないと」と胸中を明かす。

 しかし、9月2日の初公判では、起訴状に被害者として記されていたのは沙也香さんのみで、日七未ちゃんの名前はなかった。「娘は今も頑張って生きてくれているのに、被害者として見なされていない。相手もそこには罪が問われない。違和感があり、納得できなかった」(友太さん)。

 日本の刑法では原則、胎児は母体の一部とされ、生まれてくるまでは人とみなされない。元検事の西山晴基弁護士は、「いまだに刑法では『胎児の段階はお母さんの体の一部』という見方をしていて 独立した『人とは見ていない』。法律が変わっていない現状がある。胎児を人として認めてしまうと人工中絶も殺人罪になってしまう。そのため『人』という定義でくるめることはできないという批判は多くあり、大変悩ましい」と解説する。

 では、一体どの時点で、「人」として認められるのか。西山氏は「過去の裁判例は、解釈で法律を乗り越えていこうとして、お母さんの体の中でケガを負って、生まれてきたときに後遺症が残った場合は、交通事故にあったときは『母体の一部としての人』、生まれた後は『赤ちゃんとしての人』ということで、刑事責任を問う方向性で解釈をしている」と説明した。つまり事件・事故と胎児の後遺症との因果関係が証明された場合には、胎児は人として認められ、責任を問うことができる方向になっているという。

 遺族は、沙也香さんへの過失運転致死罪に加え、日七未ちゃんに対する過失運転致傷罪も含めるよう求め、オンライン署名を始めた。約11万2000筆を名古屋地検に提出し、検察側は追加捜査する方針を明らかにした。

 被害があった側が動かねば何も動かない。ここにも不条理だらけの現実があった。友太さんは「こちらがここまで声を上げなければ、起訴もされず、検討されず終わっていた。『最初から動いて』と思う気持ちはある。今後も全力でやっていただきたい」と訴えた。そして夫婦と子どもを描いた絵を紹介する。「3人揃うことができなかった。こんなことがなかったら、こういう風になっていたんだろうな……。こんな未来を迎えたかった。3人で過ごしたかった」。

 全身傷だらけで亡くなった沙也香さんだったが、1カ所だけ外傷がないところがあった。それは“おなか”だった。「後ろから追突されているので、前に倒れるので、おなかにも何かしら(傷が)あると思うが、とっさにおなかの子を守ってくれたのかなと。それがあったからこそ、娘は命をつなぐことができた」(友太さん)

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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