赤信号に猛スピードで突っ込む車。受験生の女性を飲酒運転ではねて死亡させた罪に問われた男に判決です。争点は「危険運転致死傷罪が適用されるか」です。裁判員たちの判断は?
受験生死亡 信号無視は故意か?
今年1月、JR郡山駅前で飲酒運転の男が起こした交通事故。大学受験のために大阪から訪れていた19歳の女性が犠牲になりました。
雪が降るなか、事故現場を見つめる池田怜平被告(35)。危険運転致死傷などの罪に問われた男に判決が言い渡されました。
裁判員裁判は福島地裁・郡山支部で17日午後3時から始まりました。
丸刈りに黒のスーツ、青色のネクタイという服装で法廷に姿を現した池田被告。初公判から起訴内容を一部否認してきました。
「赤信号を殊更(ことさら)には無視していない」
この裁判の最大の争点は、赤信号を故意に無視したか否かです。
1月21日、事故が起きる前日。池田被告は飲食店で同僚と酒を飲んでいました。
「中ジョッキ(ビール)4、5杯飲んだのは覚えている。4杯目に口をつけてふわふわし出したが、その後も飲み続けた」
日付が変わり1月22日午前4時ごろに代行を利用して帰宅しましたが、すぐに買い物をするために飲酒運転を開始します。そして…。
郡山駅前の交差点を赤信号だったにも関わらず時速70キロで突っ切り、あの事故が起きたのです。
「眠気で目をこすり暖房を弱めるためエアコンを見るなどし、赤信号を見ていないと思う」
弁護側は「赤信号は故意に無視したのではなく、見落とした」と説明。あくまで過失によるもので危険運転致死傷罪は成立しないと主張しました。
一方検察側は、事故を起こす前にタクシーに衝突しそうになった時にブレーキを踏んで回避できていたこと、その後も事故に至るまで3つの赤信号を無視したことなどをあげ、「信号に従うことができたにも関わらず、従うつもりがなかった」と指摘。池田被告に危険運転致死傷罪を適用し、懲役16年を求刑しました。
ここまでの裁判で、被害者参加制度を利用して出廷した被害者の母親は、悲痛な思いを語っていました。
「1月22日から私たち家族の時間は止まったままです。娘が過ごした部屋などは、あの日のまま手をつけられずにいます」
「机の上には共通テスト、歯学部の教科書、将来の夢をつづったノートが置かれたまま。ノートには『自分が小さいころから歯の矯正を始めていたから、歯医者になって周りにも歯の矯正をしてあげたい』などと将来の夢が書かれていました。やっと将来の夢がかなう時に、今ごろは歯科大学の大学生で楽しく毎日を過ごしていたと思います」
「親子ですから口けんかをすることもありましたが、娘の受験が終わったら落ち着いてもっと色々話をしたいと思っていました。娘もそう思っていたと思います。娘と私たち家族の未来はすべて池田被告に奪われました」
飲酒暴走「危険運転」認める
事故直前の信号無視を裁判所はどのように判断したのでしょうか。
「被告人が進路前方にある各交差点に設置された信号表示を、認識することができなかった事情は見当たらない。被告人は本件道路を進行する際、各信号機の信号表示を意に介することなくこれを無視して進行しようと考えていたものと認められる」
福島地裁郡山支部は池田被告の行動を「無謀な運転」だと指摘したうえで、危険運転致死傷罪を適用。懲役12年の実刑判決を言い渡しました。
判決の瞬間、池田被告は背筋を伸ばしてまっすぐと裁判長の方を見ていました。