今、ある死刑囚の訴えが物議を醸している。大阪拘置所に収監されている死刑囚3人が、大阪地裁に対し「絞首刑は残虐かつ非人道的で人権侵害に当たる」と主張し、国を提訴。2022年11月に始まった裁判が今月、結審を迎えることになった。
現在、日本が採用している死刑は「絞首刑」のみ。一部からは残虐性を指摘する声があり、海外では絞首刑から電気イス、薬物注射による刑の執行へと移行しているケースもある。ただし、死刑囚による訴えでもあり、ネット上などでは「残虐で非人道的な犯罪をしておいて厚かましい」「絞首刑が嫌なら、被害者にしたことと同じ方法で執行されればいい」という声も飛んでいる。「ABEMA Prime」では、この裁判で原告側の代理人を務める弁護士、死刑制度を支持する弁護士が討論。絞首刑のみならず、死刑制度そのものに関する意見をぶつけ合った。
■死刑囚が絞首刑を「違憲」と提訴

約3年前に始まった裁判は、確定死刑囚3人が原告。絞首刑が、憲法が禁じている残虐な刑罰に相当するとして、執行の差し止めを求めている。理由としては「縄の跡など受刑者の身体が損壊する恐れがある」「死亡までに時間がかかり苦痛が続く」などがあり、生命の剥奪だけが刑罰の目的である以上、無用な苦痛を与える絞首刑は改めるべきだと主張しており、確定した死刑判決そのものについて覆そうとしているわけではないとしている。
代理人を務める弁護士・水谷恭史氏は「個人的にはどのような刑罰による死であっても、残虐性を完全に否定できない」としつつ、今回の裁判は「死刑の存廃そのものを直接訴えるのではなく、絞首刑が国が堂々と胸を張って正当な刑罰の執行であると言えるかを具体的な事実に基づいて検証したいというもの」と述べた。
3人の死刑囚に関する詳細は明かされておらず、水谷氏によると「1つは具体的にどの事件のどの人となると、絞首刑の残虐性ではなく、その人が起こした事件の残虐性との比較になってしまい、求める議論と異なる方向に移ってしまうリスクがある。もう1つは原告の皆さん、あるいはそのご親族の皆さんに対する世間からの強い非難、批判というものを懸念した」と、2点の理由があるとした。
死刑囚であるだけに、残虐性においては絞首刑と同等かそれ以上のことを犯した可能性も否定できないところだが、水谷氏は「残虐な行為で被害者の方を殺害したこと自体は、強く非難されるべき。被害者の方あるいは被害者のご遺族の方が、できれば同じ目に遭わせたい、報復をしたいというお気持ちを抱くことも自然なこと。ただし、残虐な行為をした人間には、残虐な刑罰を科してもいいというのは、近代の刑事司法の根幹を揺るがす」と語った。
また日本における唯一の死刑執行法が絞首刑であり、それを違憲であると訴えることは、死刑執行そのものを止め、延命につながるという指摘に対しては、「我々は代わりにこういう方法で執行すべきという主張はしていない。もし絞首刑が残虐だという判断になったとして、違う執行方法が改めて検討されるということであれば、それはそれ」と述べた。
■絞首刑の残虐性「科学的根拠がない」という弁護士も

絞首刑、さらには死刑そのものの残虐性を指摘する水谷氏に対して、死刑制度を指示する弁護士・高橋正人氏は、真正面から反論した。「一言で言えば、死刑囚が死刑の執行方法を選択すればいいし、そのように法律を改正すればいい。アメリカなら電気イス、フランスならギロチンのように、本人に選択させる法律に改正すれば解決する問題だ」。
絞首刑の残虐性についても、科学的根拠に乏しいとして否定する。「(絞首刑は)一瞬のうちに頚椎が折れ、一瞬で亡くなる。数秒間は意識があるとかないとか、そういった議論も知ってはいるが、果たして医学的に立証されているのか。また実際に死んでしまうわけだから、立証も実験も不可能だ。科学的な検証の数値・結果が出ていないにもかかわらず、意識があるからどうこうと議論しても、それは空論だと思う」。
また高橋氏は、被害者遺族にとっての死刑執行の意味合いを、実例に沿って説明する。「死刑が残虐かどうかよく議論されるが、殺人事件のご遺族の気持ちはどうか。名古屋で娘を惨殺された事件があり、3人のうち2人に死刑判決が出た。遺族は毎朝、その2人の顔が出てくると言っていたが、そのうち1人に死刑が執行されたら、翌朝からその人だけ顔が出てこなくなったと言っていた。事件に一つの区切りをつけて、前を向くことができたというわけだ。つまり死刑執行の方法が残虐かどうかではなく、死刑を執行して、とにかくこの世の中にいなくなってほしいというのが遺族の気持ちだ」。
その上で死刑囚による提訴の問題点をついた。「死刑の方式が残虐だというのであれば、残虐でない方法を考えればいいだけのこと。今回の訴訟の立証責任は原告側にある。(絞首刑が)残虐だというなら(何が)残虐でないことを言わなければ議論にもならない。非常に無責任な訴訟のやり方だ」と強く指摘した。
■夏野剛氏「死刑存続の議論とやり方の問題はあまりリンクしない」

法の専門家同士でも意見が真っ向からぶつかる死刑についての論議。死刑制度そのものについては、過去に3度、最高裁で判決が出され、そのいずれもが合憲とされてきた。水谷氏にすれば「具体的な死刑の在り方という議論がないまま認めてしまった」というものだが、一般社会からは今回の提訴はどう映っているのか。
近畿大学情報学研究所所長・夏野剛氏は「残虐性については絞首刑から薬物や電気イスにしたとしても、それもまた残虐だとして永遠に終わらない話だと思う。死刑そのものがどうかは議論すべきだと思うが、死刑囚の方が言うことによって余計に違う問題を惹起している」と指摘。また「死刑を執行しない方がいいという考えであれば、死刑のやり方について異議を唱えて執行を止めるのは理解を得にくい。もっと本質的な議論をした方が建設的だ。死刑存続の議論とやり方の問題は、あまり一般市民にはリンクしない」とも述べた。
また2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏も、今回の裁判が実質的な刑執行の引き延ばしにつながっていることに疑問を呈し、その上で議論するのであれば別のアプローチが必要だと説く。「残虐性の議論自体は(受刑者ではない)自分には関係ないからどうでもいいとなってしまう。もし攻めるのであれば、冤罪事件を持ち出した方がいいと思う。袴田巌さんが冤罪だったが、これは『冤罪でもあなたが死刑になるリスクがある』という話だ。死刑をなくしたいのであれば、誰もが可能性がある冤罪との話にした方が、みんなが乗ってくる可能性がある」と語った。 (『ABEMA Prime』より)