22日、自民党本部で所見発表演説会が行われた。演説のポイントや推薦人についてテレビ朝日政治部の大石真依子記者に聞いた。
━━全体的な印象は?
「5人それぞれの“色”が出た15分間だった。今回フルスペック型で投票が行われるということで約90万人いる投票権を持つ党員が誰に投票するかが重くなる。そのため、候補者の中には、党員をすごく意識して、より保守に寄った発言をした方もいた」
━━小林鷹之氏の全体を通しての印象は?
「トップバッターできっと緊張もされていたと思うが身振り手振りも交えて力強く、自分の発信したい政策を主張されていた」
━━前回の総裁選で知名度を上げ、2回目の総裁選だが、どのような演説だったのか?
「候補者の中ではまだ50歳と若めであるためフレッシュ感や“しがらみのなさ”をアピールした。また演説では、『閣僚経験が少ない』という声があることに対して、『私の強みは0から1を生み出すことだ』とアピール。担当大臣もつとめた経済安全保障については、『誰も関心を持たないときに自ら取り組んで、国の中心政策に押し上げた』とPRされていた」
━━自民党は「解党的な出直し」を打ち出す中、若さはアピールポイントになるのか?
「小林さんは『世代交代』が大事だと言われていた。さらに『ONE自民』をキャッチフレーズとして掲げ、党が一つになった上で経験豊かな議員から知恵を借りつつも、前面に立って自民党を引っ張っていくのは若い力だと強調された。小泉進次郎さんが手堅く国会議員票を固める中、小林さんが議員票を積めるかも課題だと思う。そういった中でも直に自分たちの同僚に訴えられる機会は大事なので、力を入れられていた」
━━AIを活用して分析したところ、小林氏の所見発表演説における“頻出ワード”は「日本」が21回、「成長」が9回、「経済」が8回、「外交」が6回。経済政策や外交についての言及が多かったのか?
「やはり、経済安全保障の分野は自民党議員の中でも知見があるという自負もあって、その自信が表れているのだろう。今、外国人政策が注目される中で、外国人に関する政策についても多く言及されていた」
小林氏の推薦人は“偏り”がない?

━━小林氏の推薦人の特徴は?
「『自民党を生まれ変わらせる』というムードの中で旧来の派閥政治からの脱却は1つ大きなテーマになっていると思う。そういった中で、どこか1つの派閥ばかりから推薦人に並ぶより、おそらく、“バランスの良さ”を各陣営目指したはずだ。その中でも、小林さんは偏りがない。中堅・若手が中心だが、推薦人の代表は衆議院の議院運営委員長をされている浜田靖一議員であり“重し”にしたい考えもあったようだ。一方で、陣営のうちの1人は『正直、あまり余裕がなかった』と漏らしていた。余裕のある陣営は『推薦人になります』という人がいっぱい来てバランスよく見せるために“整える”作業ができるが小林さんの陣営は異なったようだ。そのため、これから論戦でどれだけ議員の心を掴んでいけるかにかかっている」
━━茂木敏充前幹事長はどのようなアピールを行なったのか?
「演説の冒頭、早い段階で『私の強みは経済と外交です』と言い切った。経験の豊富さ、政治家として実務能力の高さは国会議員の間でも高く評価されているので本人としても『仕事ができる』という点を一番アピールされたいのではないか。正直、小林さんなどと比べるとご年齢もあり、幹事長を務められていたため“刷新感”を出すのは難しいところがある中で、トランプ大統領に『タフネゴシエーター』と言われたなどの話も交えつつ、自分の実績を強調してアピールしていきたいのではないか」
━━茂木氏の能力の高さがわかるエピソードなどはあるか?
「『映像記憶能力』があると言われており、私も一度目の当たりにした。ある会議を取材していて、たくさん記者も議員もいたが会議終わりに『取材の場にいたね』と言われた。おそらく、記録された映像の中に、私が隅の方に映っていたようだ」
━━茂木氏と野党との距離感は?
「国民民主党の玉木代表とはYouTubeで対談されたり親交が深いことが知られている。また、政治家としての経験年数が長いため様々な人脈は築かれているだろう」
旧茂木派で12人

━━茂木氏の推薦人に特徴はあるか?
「茂木さんの陣営幹部は『できるだけ派閥色を薄めたい』ということだったが、結果的にはうまく調整できなかったように思える。旧茂木派で12人はやはり大きい。今回出ている5人の中で派閥を率いていたのは茂木さんだけであり、『茂木さんが右と言えば右』という“塊”があることは強みではあるが旧茂木派以外の方にどれだけ支持を広げていけるかが問われるだろう」
━━林芳正官房長官の演説の印象は?
「岸田政権と石破政権、2年にわたって官房長官を務めており『その中枢にいた者の責任を感じている』としながらも、逆に『この経験を生かして舵取りをやっていきたい』と話されていた。石破政権のナンバー2にいた方なので、ある程度は石破政権の路線を継承していかないと辻褄が合わなくなるが、まもなく1年で政権が終わるという結果を見てもなかなかうまくいったとはいえない政権。どのように“石破さんの継承”と“林さん独自”のバランスをとって政策を打ち出していくかは非常に難しいだろう」
━━林氏の頻出ワードとして「政策」が9回、「成長」「日本」が6回、「経済」が5回となっているが今後は何がポイントになるか?
「実務能力の高さは皆さんも知っているので、ここから先は『人間・林芳正』の魅力というか、一国をどうリーダーとして舵取りしていきたいのかというビジョンのようなものを聞きたい」
高市氏は“振り切った演説”をした?

━━林氏の推薦人は無派閥9人、旧岸田派8人という結果だが。
「旧岸田派は、ざっくりいうと林さんを支持する人と小泉農水大臣を支持する人で分かれているような状態だ。その中でも、中堅・ベテランの方中心に、林さんの仕事ぶりをすごく評価している人たちが林さんを推している。おそらく林さんの陣営も“派閥色”を消したいと考えていたものの、現在の結果になってしまったのだろう」
━━高市早苗氏の演説の頻出ワードは「日本」が15回、女性が7回、「外国人」が7回、「憲法」が4回となったが全体的な印象はどうか?
「冒頭で大伴家持の和歌を詠み上げるという展開で驚いたが、その後は出身県でもある奈良の鹿の話や外国人観光客の話になった。全体を通して、外国人や憲法の話が多く出てくるなど、やはり保守層へのアピールの意識が強いように感じた」
━━今まで高市氏は「保守色」の強さが課題とされ、支持しづらくなっている人が多かったようだが。
「今回の演説ではけっこう“振り切っている”と私は思った。岩盤保守層と言われる高市さんをずっと支援してきているような人たちの心をしっかり掴みにいったというか、新たな層を取りにいくための演説というよりコアな支援者を自分の元に置いておくことに主眼が置かれているように感じた。実際のところは本人に聞いてみたいが、戦略として、もちろん議員票もたくさん取らないといけないし、そこが課題だとは陣営としても分かっている。実際に陣営の幹部と話をしても『保守の高市というのはもう知られている。だから今回どれだけ“ウイングの広さ”を見せられるかが課題だ』と言われていた」
━━高市氏はずっと関西弁で話されていたが戦略なのか?
「親しみやすさを出そうとしたのかもしれない。高市さんは講演などではポイントで奈良弁を入れてきていた。聞いている側の気持ちをふわっと(リラックス)させる狙いがあるのだろう」
小泉氏からは「余裕すら感じられた」

━━高市氏の推薦人の傾向は?
「前回は女性が2人しかいなかったが今回は5人に増えている。陣営の幹部は『女性票が乗らないという懸念を払拭したい』と話していた。今回特に女性候補が1人だけなので、前回上川さんに乗っていたであろう女性票も取りにいきたいという思いがあるのではないか。ちなみに、前回は推薦人の中に20人中13人も“不記載議員”がいたが、今回は0になっている。陣営としても、クリーンさの演出にも力を入れられたようだ」
━━小泉氏の印象は?
「全体を通して、落ち着き、自信というか、余裕すら感じられた。去年の総裁選では特に討論が始まって以降、不安定さが出て急激に失速したことを本人も周りも気にしているので、話す言葉への緊張感みたいなものをご本人もすごく持っており、練習も相当されていると聞いている」
━━頻出ワードは「地方」の7回が1番多く、次に「経済」「日本」の6回が続いたようだが。
「先日石破総理とも長く2人で面会もされており、やはり地方創生に石破総理も力を入れているため、基本的な路線として引き継いでいくものは引き継ぐとアピールされた形かと思う」
━━「与野党」というワードも3回出たが、小泉氏と野党の関係性・距離感は?
「一番言われているのは維新との関係の良好さだと思う。万博に視察に行かれてた時も吉村共同代表と並んでおり、互いを持ち上げ合うような感じに見えた。また、小泉さんを支えている菅元総理も維新との関係は良好であるため、だからこそ小泉さんが総理になれば維新と連立を模索していくのではという見立てはある」
菅氏が“結節点”になった?

━━小泉氏の推薦人にはどのような特徴があるか?
「1回生から10回生以上のベテランまでとバランスが取れている。前回ライバルとして戦った加藤大臣も入っている。加藤さんは菅政権の時の官房長官であり、小泉さんは菅さんを“師”と仰いでいるので、菅さんが結節点となって加藤さんが今回の小泉陣営の選対本部長に就いたようだ」
━━小泉氏の弱みとなり得る部分はどこか?
「これから始まっていく討論だと思われる。各番組に呼ばれたり、記者クラブ主催の討論会など様々あるが、候補者が別の候補者を指名して質問するコーナーでは本命候補と言われる小泉さんは指名される機会も多いだろう。もちろん陣営も想定問答を作るだろうが、そこから漏れたことを聞かれた時に、自分の言葉でパッと返せるのか、その言葉にどれだけ説得力を持たせられるのかが大事だ」
━━今回の総裁選を我々はどのような点に注意してみればいいのか?
「投票権がなくても、自民党の新総裁は“ほぼ新総理”なので、どんな政策を打ち出そうとしているのか、関心を持って見たら面白いだろう。特に気になる政策があれば、5人の候補それぞれがどのようなことを発言しているのかを調べてほしい」
(ニュース企画/ABEMA)