先月、動き出した『JICAアフリカ・ホームタウン』事業では、国内4つの自治体に認定状が交付され、アフリカの国々との交流が進められる予定でした。しかし、事業を担うJICA(国際協力機構)は25日、白紙撤回を発表。誤った情報が拡散して自治体に抗議が殺到したことを理由に挙げました。
JICA「誤解と混乱招いた」
田中理事長が強調したのは「誤解」でした。
「国外での誤った報道などをきっかけに誤解に基づく反応が広がり、また『ホームタウン』という名称に加えて、JICAが自治体をホームタウンとして認定するという、この構想のあり方そのものについて国内でさらに誤解と混乱を招きました。その結果、4つの自治体に過大な負担が生ずる結果となった。この場を借りて改めておわび申し上げたい。アフリカ・ホームタウン構想については、これを撤回することにいたしました」
デマにデモ… 自治体は疲弊
まだ始まってもいないのに白紙撤回となった、JICAアフリカ・ホームタウン構想。千葉県木更津市はナイジェリアと。山形県長井市がタンザニアと。新潟県三条市はガーナと。愛媛県今治市はモザンビークと。それぞれ交流事業を行うというものでした。
しかしこの構想は、「日本が長井市をタンザニアに捧げる」といった先方の間違ったアナウンスや報道などもあり、SNSを中心に「移民が増える」「領土を差し出した」といったデマが横行します。
「決してこちら移住を進めるですとか、ましてや長井市がタンザニアの一部になるといったものではありません」
「メールも止まらない」
「JICA解体デモ」なるものも発生し、対応に追われる状況となりました。
「JICAとしては、これまでも移民を促進するための取り組みを行ってきておりませんし、今後も行う考えはないということを、改めてこの機会に明確にお伝えしたい。また、JICAの事業に伴う外国人の入国および滞在に関しては、これまで通りJICAとしてきめ細やかな管理体制をとっていく所存」
今回4つの自治体が対象となったのは、元々ビジネスやスポーツなどを通して交流があったからでした。そこに国際会議を機に、外務省の外角団体であるJICAが、さらなる交流の促進を目的に立ちあげたのがこの事業です。
ただ、スローガン先行で、具体的に何をするのかは未確定な部分が多く、外国人ヘイトに加え、住民の不安を招いていました。
あおりを食ったのは対応した各自治体です。
「(最初は)正しい情報が何であるのかよく分からない人たち。本当に移住・移民が大挙して押し寄せてくるのではないかという不安・心配・懸念を抱く人々からの、正確な情報を求める問い合わせが多かった」
その後、問い合わせは日本中からくるように。千葉県木更津市の場合、電話とメールの総数は1万件を軽く超えています。
「後半はJICAホームタウン認定や構想自体を白紙撤回してほしい。ほぼ1日、その電話応対に明け暮れる状況が数週間続き、通常業務がままならない状況があった。ようやく昨日は電話の件数が2桁にまで落ちてきたが、職員1〜2人は必ず電話応対をしている状況が続いている」
「誤った見解に屈していない」
「ホームタウン」という言葉も誤解や偏見を招く要因の一つだったわけですが、それでも白紙撤回は異例です。
(Q.名称変更や誤った情報を正す手段もあったと思うが)
「日本の地方自治体とアフリカの諸国との間の、和やかでお互いが有益な交流ができることを狙っていたわけですが、いったんこのような混乱が始まると、有益な形の交流を行う環境が損なわれてきつつある」
モザンビークと交流事業を行う予定だった愛媛県今治市は今回の撤回について。
(Q.率直な気持ちは)
「職員も電話対応などで心身ともに疲弊していた。本来業務にも支障が出ている状況。やっと観光課として通常業務を明日からやっていこうと」
(Q.正直なところほっとした?)
「そのとおりです」
山形県長井市はタンザニアと約40年、交流を続けてきました。市長は。
「たまたま自民党の総裁選の関係で、外国人の課題についても色々5人の方が仰っていますけど。実際に首都圏、特に東京などに行きますと本当に外国人が多くて、やはりちょっと我々の感覚と違うところもあるんだなと思いましたので、今回は致し方ないのかなと思いました。全く誤解なんですけれどもね」
民間レベルで交流を続けてきたある関係者は「きちんと誤解を招かない形で、移民受け入れではないとはっきりさせた方がいい」と話しています。
JICAは、国際交流を今後も続けていくとしています。
(Q.SNSでは「JICAに勝った」という発言があるが、受け止めは)
「『私どもが誤った見解に屈した』ということではないと。私どもの活動は、日本人への信頼を獲得するための長期的な投資であると考えています。日本における外国人との共生社会の実施。それへの支援というものが含まれておりますので、これは世の中で様々な意見も出されるなかでも、私どもの使命ですから、着実に実施してまいります」