全国の高齢者施設で入所者を夢中にさせる「懐メロプリンス」と呼ばれる男性歌手がいる。オンラインコンサートを通じて「推し活」をすることで、高齢者たちに変化が現れているという。
オンラインで人気 懐メロライブ
都内の介護老人福祉施設で入所者たちが夢中になっているのはオンラインコンサートだ。
歌っているのは、シンガーソングライターの中田亮さん(36)。元々はライブハウスなどで活動していたが、新型コロナの影響で仕事が激減したという。
そうしたなか、2021年に外出や面会が難しくなり、楽しみが減ってしまったシニア世代向けにオンラインコンサートを開始した。
リクエストに応えるうちに歌える昭和歌謡は500曲以上となり、付いた愛称は「懐メロプリンス」だ。
中田さんは東京・渋谷区恵比寿のスタジオからコンサートを行っているが、この日は188の施設がオンラインで参加。取材した施設でも30人ほどが、手作りうちわやポンポンを手にノリノリだ。
「双方向でコミュニケーションが取れるので、僕からも参加者を見られますし、施設の名前やいらっしゃる人の名前を呼んだりとか」
「頭が低くて、接しやすい。温かみがあります」
「一緒になって踊っているのが一番楽しい」
新たな生きがい「人生観が変わった」
最前列に座っていたのは、85歳の郡司セツ子さん。中田さんの大ファンだ。
笑顔で元気に歌うセツ子さん。ただ、およそ2年前に入所したばかりのころは違ったという。
「すごくメンタル弱い人で、いつも『私なんて…』みたいな感じだったが、亮君のコンサートを観るようになってから、すごく生きがいを感じているみたい」
そんなセツ子さんが変わるきっかけは、中田さんとの出会いだったという。いまや「推し活」が生きがいだというセツコさんの部屋を見せてもらった。
「(Q.会ったことは?)ある。震えちゃった。緊張して」
中田さんが施設を訪れた際、一緒に撮った写真はいつでも見える場所に飾っている。
「(中田さんに)会ってから、がらっと変わりました。私の人生観というのかな。とにかく変わったなと思います。楽しみが増えた」
広がる市場 ファン同士で交流も
実際に推し活をしているという人が増えているという調査結果がある。
推し活と推し活に関する消費行動を調査・研究する「推し活総研」が、15歳から69歳の男女およそ2万3000人から回答を得たアンケートによると、およそ17%が「推し活をしている」と答えたということだ。
これは去年の調査から1年間で2.6ポイント増えた数字で、「推し活総研」ではこの割合を日本の人口に換算して1400万人が推し活をしているとしている。
また、50代以上の女性に絞った調査も紹介する。
雑誌などを通じて50代以上の女性の消費行動などを調査・分析している「ハルメク 生きかた上手研究所」が、50歳から88歳の女性529人を対象に調査した結果、「推しがいる」と答えた人は46.3%、そのうちお金をかけている人の割合は69.8%で、年間平均額は11万4039円。
これは去年の調査から1万円以上増加しているといい、市場としても急成長しているようだ。
郡司さんが「人生観が変わった」と話していたのが印象的だったが、実は推し活が施設利用者の幸福度を上げているという研究発表もある。
サントリーウエルネス、京都大学、大阪公立大学が高齢者施設のサッカーJリーグのクラブを応援する利用者を調査したところ、「他の利用者とトラブルのあった人が、応援活動でいろいろな人と交流するようになってトラブルが減った」「孤立していることも多かった人が、職員の手伝いをしてくれるようになり、他の利用者との会話が増えた」といった変化が見られたということだ。
これは応援活動=推し活をきっかけに仲間ができて、自分の存在や役割を認められることで人とのつながりが生まれ、幸福度が増す結果になったとしている。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年9月30日放送分より)