社会

モーニングショー

2025年9月30日 16:13

「自分の遺骨は拾えない」高齢化日本の現実 身寄りなき死…参列者ゼロ葬儀が次々と

「自分の遺骨は拾えない」高齢化日本の現実 身寄りなき死…参列者ゼロ葬儀が次々と
広告
2

 名古屋市の市営団地の一室。この部屋の住人だった70代の女性は1年半ほど前に亡くなりましたが、部屋は手付かずのままの状態です。高齢化が進む日本でこうした「身寄りがない死」への対応が問題となっています。

“遺品部屋”語る 最期の瞬間

 名古屋市内にある築50年ほどの市営団地。

名古屋市 住宅管理課
岡田一輝課長補佐

「こちらです」

 「身寄りなき死」の増加。部屋には行政が抱える深刻な課題が生々しく残されていました。

岡田課長補佐
「(Q.明かりもつかない?)つかないですね」
「電気、ガス、水道、すべて止まっている状態」

 窓が締め切られた部屋は蒸し暑い空気で満たされています。奥の部屋には敷きっぱなしの布団。つい数分前に人が抜け出したかのように見えますが…。

「この部屋がこういった状態になっているのは約1年半前から」

 この部屋に住んでいたのは70代の女性です。数年前に家族2人で入居しましたが、同居していた1人が他界。ひとりで暮らしていた女性も去年1月に亡くなりました。

 床に散らばるのは「新春特売」を知らせる新聞広告。まとめてレンタルしていたDVDはアメリカの人気ドラマ。亡くなる直前に借りたのか、返却期限は2024年1月18日になっています。

 仏壇に供えられたバナナは真っ黒に変色し、ミカンも干からびています。その横には並んで置かれた小さな骨壺が2つ。女性の家族でしょうか…。まるで時が止まったかのような部屋の中で、唯一置時計だけが時を刻み続けていました。

冷蔵庫の下には液体の跡
冷蔵庫の下には液体の跡

 突然主を失った部屋には多くの遺品が残され、いわゆる「遺品部屋」に。冷蔵庫の下には、中の食品から漏れ出たのか液体の跡も…。

「(Q.奥の部屋は何が置いてある?)衣類であるとか…」

 薄暗い部屋の畳には女性の服が山のように積まれています。このような「遺品部屋」は珍しくはないといいます。

「残置物(遺品)等もそこまで多くないですし、そう特筆すべき部屋であるという印象はないです」

 女性が亡くなってから1年半、部屋はなぜ放置されていたのでしょうか。

「相続人がいらっしゃれば、残置物(遺品)の処理をして頂くようにお願いするんですけれども、そういったことがなされない場合、もしくは相続人がいらっしゃらない場合は、やむなく“明け渡しの訴訟”をして、その後、強制執行をして初めて荷物を片付けることができる」

 市営団地の部屋は市の持ち物ですが、遺品は亡くなった住人のもの。身寄りがない場合は行政が相続人を探し出さなくてはなりません。

住宅を明け渡しのための裁判が必要
住宅を明け渡しのための裁判が必要

 しかし、相続人が見つからない場合や、見つかっても「相続を拒否」された場合、住宅を明け渡してもらうためには裁判をする必要があります。

 名古屋市の場合、裁判や遺品の処分などで1件あたり70万円以上もかかるといいます。

名古屋市 住宅管理課 岡田一輝課長補佐
名古屋市 住宅管理課 岡田一輝課長補佐
「(名古屋市は)昨年度ですと、こういった事例に至っているものは約20件、市としては1400万円程度の負担」

参列者なき葬儀次々と…無縁遺体の現実

 名古屋市では他にも…。

葬儀場 名古屋市
葬儀場 名古屋市

 棺の中におさめられているのは70代の男性です。読経が葬儀場内に響くなか、15席ほど並べられた椅子に参列者は一人もいません。

セレモニー白壁
後藤雅夫社長

「(男性が)亡くなったのは今年の2月。発見されたのが5月。警察からうちへみえたのが7月。(親族など)いろいろ役所が調べて9月になってから葬儀してくださいと」

 自宅でひっそりと70年の生涯を閉じた男性。7カ月が経ってやっと行われた葬儀には、見送る親族や友人の姿はありません。

 こうした身寄りのない遺体、いわゆる「無縁遺体」は法律で死亡した自治体が火葬や埋葬などの費用を負担します。

セレモニー白壁 後藤雅夫社長
セレモニー白壁 後藤雅夫社長
「人間、生きてきた以上はいろんなことがあっても、最後だけは一応人間としての尊厳を持った葬儀をしてあげようと」

 この葬儀場では開業当初(2015年)から男性のような無縁遺体の葬儀を行ってきました。行政から支払われる委託料はおよそ20万円程度。利益はほとんど出ないといいます。

 そんななかでも故人に戒名を付け、生花を手向けて手厚く弔います。

 70代の男性の遺体を火葬場へ見送ると、すぐに葬儀場に戻り別の棺を祭壇の前へ。棺におさめられているのは80代の男性。実はこの男性も無縁遺体です。

 葬儀場の敷地内にある大型の冷蔵庫には、葬儀を待つ9人の遺体が安置されています。

「(Q.身寄りのない方は?)この方とこの方。ここ2人ね。ここは3人ともそう、(“無縁遺体”は)ですね。ここは真ん中の人。あとはこの人。ほとんど身寄りはないです」
9人の内、7人が無縁遺体
9人の内、7人が無縁遺体

 安置されている9人の内、7人が無縁遺体。不詳と書かれ名前も分からない遺体もあります。

「(無縁遺体は)皆さんが思っているより多いです。本当に多いです」

 厚生労働省が初めて行った全国調査で、引き取り手のない遺体が推計4万2000人にも上ることが明らかになりました。

 この葬儀場では名古屋市が親族を調べる間、無償で遺体を保管しています。

「1カ月はざらですね。今までで一番長かった人は1年ちょっとですね。半年くらいはちょこちょこあります」

 今年6月には長期での保管が必要な無縁遺体が20人を超え、辛うじて収容できる状態でした。そうした状況に後藤社長は危機感を募らせています。

「(無縁遺体は)まだ増えると思いますよ。(調査にかかる時間は)その役所によって違うんですよ。担当者によって全く違いますから。どこかそういう(専門的な)セクションを作らないとだめですよね。これからは」
広告

死への備え方 最前線

 一方、身寄りのない人たちが死後に備えるための事業も始まっています。

福岡市社会福祉協議会
終活サポートセンター 力久祐理子さん

「おはようございます」
高橋さん(仮名)(70代・女性)
「どうぞお入りください」

 福岡市社会福祉協議会のスタッフが訪ねたのは、公営団地に住む70代女性。

力久さん
「最近変わったこととかは特にないですか?」
高橋さん
「特に変わったことはないですね。何もないのが良いこと」
公営団地に住む70代女性 福岡市
公営団地に住む70代女性 福岡市

 女性の家族はすでに亡くなり、身寄りはいません。今回の訪問は女性が去年7月から加入する終活を支援する事業の一環です。

高橋さん
「えっと何だったっけ、すぐ忘れる。ちょっとノートに書いてる『ずーっとあんしん安らか事業』」

 定期的な連絡や訪問に加え、遺品の処分や葬儀、納骨など死後に必要な手続きを行います。

40代後半でフランスに留学
40代後半でフランスに留学

 美術を学ぶため40代後半でフランスに留学するなど、前向きに人生を歩んできた女性。おととしガンを患ったことで「死」を意識するようになったそうです。

高橋さん
「入院中から夜中に、本当に何度もはっと目が覚めるんですよね。独りぼっちでこのまま死んじゃったらとか」

 募る死後への不安を払拭しようと契約しました。女性の終活費用は?

「これで全部だったんですよね」
「((委託金)93万円で葬儀が30万円とか、細かく出ている)家財処理も」
およそ93万円の費用
およそ93万円の費用

 女性が福岡市社協に預けているのはおよそ93万円。死後、その預けたお金から遺品の処理や葬儀などの費用が賄われます。他にも葬儀の際に棺におさめて欲しい本や服など、細かなリクエストも伝えているそうです。

高橋さん
「あとは死ぬだけ。なんかもう気楽になった」
「ずーっとあんしん安らか事業」「やすらかパック事業」
「ずーっとあんしん安らか事業」「やすらかパック事業」

 死後に葬儀や納骨などを行う事業は、一括で50万円以上の預託金を預けるタイプと、毎月定額の利用料のみを支払うタイプの2種類。現在およそ130人が契約しています。

福岡市社会福祉協議会
終活サポートセンター 吉田時成所長

「終活とか死後事務は、亡くなった時のことというイメージがやっぱり強いですが、これからの備えを積極的に早い段階からしていく。そういったことも、これからの福祉の考え方というか、より広くその方らしい生き方を支援することが重要な視点かなと思います」

 取材当日も身寄りがない80代の女性が、死後の手続きなどを依頼する申し込みに。申し込みを終え思うのは…。

石原さん(仮名)
「ほっとしているというか、良かったかな。自分の遺骨は自分で拾えないじゃないですか」

(「羽鳥慎一モーニングショー」2025年9月30日放送分より)

広告