瀬戸内海に面する愛媛県西条市は、水の都と呼ばれるほど湧き水が豊富で、水道代が無料の地域もあります。移住者の数が10年足らずでおよそ500倍ということです。
10年足らずで移住者500倍
雄大な山々が広がる圧巻の光景。「日本百名山」の一つで、西日本最高峰の「石鎚山」を誇る愛媛県西条市。山頂からは、市内や瀬戸内海を望め滝雲や雲海が眼下に広がります。
川底が透き通って見えるほど美しいエメラルドグリーンが広がった、石鎚山を水源とする「加茂川」。水中にはさまざまな魚が泳ぎ、やわらかい日の光が差し込んだ幻想的な光景も見えます。
瀬戸内海へと注ぐ「加茂川」は、水質がきれいなことなどから“母なる川”とも呼ばれています。
1300年以上の歴史を誇る名湯「伊予の三湯」と称された由緒ある天然温泉や、水に浮かぶ町並みはイタリアの水の都・ベネチアに似ていることから「西条のベネチア」と呼ばれることもあります。
そんな人口10万人ほどの西条市で、今“ある変化”が起きています。
西条市の移住者数を表したグラフを見ると、2015年度にはたったの「3人」でしたが、“10年足らず”でなんと500倍にまで激増しています。
移住者が3人だった街が、なぜこんなにも人をひきつけているのでしょうか? その秘密が…。
湧き出す名水 “100リットル”くむ人も
川底がくっきりと見えるほどの「清流」。川沿いを歩いていると、勢いよく噴き出すのは「うちぬき」です。
「うちぬき」とは、良質で豊富な地下水が自然に湧き出てくる井戸のこと。市内にある「うちぬき」はおよそ3000本。石鎚山の伏流水が豊富に湧き出ていて、「名水百選」に選ばれている「うちぬき」。2年連続“日本一おいしい水”にも輝いています。
「いもたきの鍋を食べに」
里芋や鶏肉などを鍋で煮込んだ愛媛の郷土料理「いもたき」は、石鎚山を水源とする「うちぬき」が使われています。
「水がうまいっていうのがあって、このだしができている」
良質でまろやかな優しい味が特徴の「うちぬき」の水を求めて、多くの人が訪れます。
愛媛・四国中央市から
「古古米を買ったんですけど、古古米にこの(うちぬきの)水をつけるとやっぱりおいしい」
車いっぱいに積み込まれた大量のペットボトルとタンク。「うちぬき」の水をレンタカーを借りてまで松山市から2週間に1回くみに来る人は、なんと“100リットル”もくみました。
岡山県から西条市に移住を考えているという親子もいました。
岡山県から
「優しい感じでのどに透き通る感じ。すごいおいしかった」
「ある程度知ったうえで移住したいなっていうのがありまして。自然もありながら、こういう水がきれいなところとか魅力を感じて」
石鎚山の伏流水が流れる「うちぬき」の恩恵を受ける街に、今、移住者が急増しているのです。
良質な“無料の水”の恩恵
「WTNB IN THE HOUSE」
渡邊仁志さん(38)
「全然違う畑から飲食店をすることになりまして」
良質な石鎚山の伏流水に魅せられて、京都から移住してカフェを営む、渡邊さん。店の裏に案内してもらうと…。
「(水道は)タダです」
西条市では、およそ1/2にあたる“2万5000世帯”のエリアに上水道が敷設されておらず、ポンプを使って地下水を汲み上げているためこの良質な水が無料だといいます。
良質な「石鎚山の伏流水」でつくる「珈琲(コーヒー)」。やわらかい透き通った水との相性は抜群です。
「WTNB IN THE HOUSE」
渡邊友歌里さん(37)
「蛇口からそのまま飲めるという感動と、お風呂とかの水もミルクもうちぬきの水ですね」
「おいしい水がすべての始まりだと思うので これからも大切に使わせてもらおうと思います」
良質な水の恩恵を受けている、別の移住者もいました。
食堂ふじいろ 山藤愛さん(38)
「“水道代タダ”っていうのはめちゃくちゃ助かっている。タダっていうのはもちろん大きいですし、きれいでおいしいというのも(移住の)決め手になっている」
山藤さんは、東京・三軒茶屋から移住して、今年3月に食堂をオープンしました。
東京の店では「上下水道代」が1カ月「およそ3万円」でしたが、西条市では下水道のみで、1か月およそ3000円と、わずか“10分の1”です。
良質な「うちぬき」の水を使った味噌汁と、真鯛、サワラなど、瀬戸内海でとれた新鮮な魚をふんだんにのせた「海鮮丼」は、究極の味わいです。
「うちぬきでお味噌汁のだしが雑味がない分、水にだしの香りがしっかり出るような。うちぬきで育ったおコメをうちぬきで炊いているので、炊き上がりはおいしい。ナイスハーモニーだと思いますよ」
地下水を各世帯で直接汲み上げて“水道代が無料”となっている地域は、全国的にも珍しいといいます。
「名水」を使った日本酒も
清涼で豊富な「うちぬき」を使って、新たな特産品を生み出す移住者もいます。
成龍酒造 常務取締役
首藤英友さん(45)
「これが数十メートル掘っている井戸から湧いている地下水ですね。恵みの水がこの街にやってくるという」
首藤さんは、19年前に東京から移住して醸造業をしています。
石鎚山を源とする伏流水と、西条市のコメだけを厳選した「日本酒」。ラベルには、西条市のシンボル「石鎚山」があしらわれています。
水が豊富で、稲作が盛んなコメどころでもある西条市。経営耕地面積は“四国一の広さ”を誇り、東京ドーム804個分ほどを水田で占めています。
「やはり水の影響を受けて口当たりが滑らかで優しいお酒。なくてはならない、かけがえのない水。魅力かなと思いますね」
実はこうした移住者のおよそ7割が、水道代が無料のエリアに集中。いかに地下水に魅力を感じているのかが分かります。
「名水」が雇用創出 新たな取り組みも
きれいで豊富な「うちぬき」は工業分野でも活用されています。
住友重機械工業 西条工場
施設・環境 グループリーダー
十河暁彦さん
「うちぬきの水を使ってモノづくりをしています。水がないとモノづくりもできないところもあると思います」
十河さんは、神奈川県から移住して、大手機械メーカーで施設管理などの仕事をしています。
四国最大規模の工業地帯でもある西条市。建造量国内1位を誇る「今治造船」の西条工場など、多くの企業が立地しています。
「製品を洗ったりとか、お客さんに出すのに使う水になるので。製品を作る水の品質にするまでに、不純物を取る作業とかがあったりするんですけど、そこにかけるコストも、元がきれいなので費用としてはかからない方向にある可能性はあるかもしれない」
水が雇用も生み出している、まさに「水の都」西条市。「うちぬき」の水を使用した、新たな取り組みも。その正体は「サーモン」です。
「JR四国」は、市とタッグを組み、今年4月から良質な「うちぬき」の水を使って陸上でサーモンの稚魚・およそ4700匹を養殖。このうち700匹を、今年12月に初出荷する予定で、「西条産サーモン」として、新たな特産品を目指すといいます。
良質で名水百選にも選ばれている「うちぬき」の恩恵を受ける水の都。移住者を呼び寄せる“もう一つの魅力”とは?
移住者に対して補助金の制度も
西条市内にはおよそ3000カ所に井戸があるそうで、水道代が無料となっているエリアには移住者のおよそ7割の方が集中しているそうです。
実際に水の味にほれ込んでサラリーマンを辞め、関西から移住し、そば店を開業した人もいるそうです。
では、市としてどんな取り組みをしているのでしょうか。
移住者が増えた理由にもなりますが、無料で1泊2日の移住体験ツアーを開催しているそうです。
参加には条件があるのですが、往復の交通費・宿泊費・食費がすべて無料。移住に対する不安を事前に払拭(ふっしょく)できるということなんです。
担当者の林さんは、観光地ではなく生活目線で必要な場所の案内を世帯ごとに個別で行い、移住後のギャップをなくすようにしているということです。
実際にこのツアーに参加し移住もした家族に聞いてみますと、大阪から移住した家族は、地方の教育に不安があったがツアーで事前に小学校を見学できたそうで、移住を具体的に考えることができたと言います。
埼玉から移住した家族は、子どものための児童施設や公園を中心に案内をしてもらったことで将来の子育てをイメージすることができたと話しています。
さらに、県外からの移住者に対しては補助金の制度もあるそうです。
空き家バンクなどを利用し戸建てを住宅購入すると、子育て世帯に対し、最大で空き家の改修費用として400万円補助を受けられるということです。
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年10月1日放送分より)