いま、東京23区の火葬料金が「異様に高い」と話題となっている。23区だけ高い要因として指摘されているのが、民営火葬場の存在だ。9カ所ある火葬場のうち7カ所が民営で、そのうち6カ所が100年続く「東京博善」が経営している。
周辺自治体では数千円から1万円前後が多く、なかには無料のところもある。しかし東京博善は9万円〜(以下、区内在住の大人1人の場合)、もう1つの民営である戸田葬祭場は8万円〜。公営の臨海斎場(4万4000円)や瑞江葬儀場(5万9600円)も、他の自治体と比較すると高価だ。
では、どうして東京だけ火葬料金が高いのか。『ABEMA Prime』では識者とともに、その要因と、安くする方法について考えた。
■東京23区だけ、なぜ高い?

火葬場の運営主体は区市町村だ。厚生省通達によると、墓地埋葬法に基づき、火葬場の経営主体は原則、区市町村などの地方自治体となっており、全国の97%は自治体などが運営している。墓地埋葬法では「火葬は火葬場以外の施設で行ってはならない」「埋葬、火葬又は改葬を行う際は、市町村長の許可が必要」などと規定されている。
値上げの理由について、東京博善に取材したところ、「安定的に火葬事業を継続させるために必要」との回答を得た。火葬場は「公益性・永続性・非営利性」が必要であるが、燃料費や修繕費用、人件費の高騰に対応したという。なお、こうした費用が低減傾向となれば値下げも検討するとした。
シニア生活文化研究所・代表理事の小谷みどり氏は、「火葬は公営で行うべき」との立場だ。「火葬は誰もが一度は利用するため、公共サービスであるべきだ。しかし東京都は戦後80年間、民間に丸投げして、怠慢で何もしなかった。早急に動くべきだが、法改正を国に求めるのは時間がかかるため、まず都がやるべきことをすぐやって欲しい」。
東京都葬祭業協同組合の理事長で、自身も葬祭業を営む鳥居充氏は「権限が基礎自治体にあるため、まず東京都に戻すべきだ。そのために小池百合子都知事が動くのであれば、好意的に受け止めたい。国の前に都がやれることがあるはずだとの意見は、その通りだ」と語る。
自治体による運営の例として、「府中市は公営火葬場が無料だ。府中市には民営もあり、こちらは9万円だが、選択肢がある。無料の市民斎場を使いたい人はそちらを使い、火葬待ちでお金を出しても早く火葬したい人は民間を使えば良い。府中市では民営と公営が共存共栄している」と説明する。
23区に目を移すと「火葬待ちは発生していない。これは民間火葬場が効率化を図り、1日に火葬できる台数も多いためだ」という。これに小谷氏は「23区内では『1週間待った』という人も多く、『火葬待ちがない』と言われると驚かれる。人気の時間枠はいっぱいだが、朝一番や夜の最後は比較的待たずに済むということだ」と補足する。
近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏は、「火葬が義務づけられているのであれば、料金規制を入れるべきだ。日本は1990年代まで、電話もガスも電気も、規制された料金体系だったが、自由化によって競争しないで、もうけられるようになった。ガスや電気は『適切な報酬水準以上に儲けないで』と経産省が指導していたが、そういうことをやらないとダメではないか」と考える。
これに鳥居氏は「その通りだ。事実上の決まりがあるのに、公営サービスを十分に提供していないのは、東京都の怠慢だ」と返す。
■公営化すれば価格高騰は止められる?

火葬場を公営にするために、小谷氏は<1>火葬場の新設(世論は好意的だろうが、莫大な予算や建設地に問題が)、<2>民営と公営の費用差額を補助・補てん(一番現実的。「火葬の原価」との差額を補助すべき)、<3>東京博善を「指定管理業者」に指定し委託(東京都が東京博善の施設を借り受け、公営と同じ形で運営)の3パターンを示す。
ただ、新設については「巨額の税金がかかり、火葬待ちがない現状で現実的かとなる」とみる。次に「都立の火葬場と同程度の費用に民営を下げ、9万円との差額分を税金で出す」。そして「東京博善の火葬事業を民間委託化して、実質的に東京都が運営する。瑞江葬儀場も民間委託だ」と語る。
鳥居氏は「都営の火葬場は、受益者負担の観点と、民業圧迫の回避を理由に、この金額にしている」と解説する。「東京博善と同じガスのロストル式を使っている京都市中央斎場では、ご遺体1体のランニングコストが3万円と言われるため、やはり割高に感じられる。また戸田葬祭場の8万円には骨つぼも含まれている。それを差し引くと、同じ民営でも実質6万5000円になる」。
夏野氏は「ちゃんとルールを作れば、民営でも規制料金でやれる。ただ区に許可権限が下りているのに、都がやり直すのは、自治体の制度的に厳しい。すべての区議会から『都に委託する』という決議を取らなければならず、制度のはざまに落ちた感じがする」と指摘する。その上で「東京都は他の基礎自治体と異なる特別行政区だが、これを解決できるのは長年知事をしている小池氏しかいない。ぜひ都議会と協力してやって欲しい」と述べた。 (『ABEMA Prime』より)