子どもにとって、社会との繋がりの場となる学校。しかし、長期入院の子どもたちはそうした教育機会さえも失われがちだという。実際、小児がんを発症した子どもの約87%は転校、さらには休学、退学を余儀なくされている。
【映像】院内学級に転校し、闘病していた頃の飯原結仁くん(10)
元いた学校にいられなくなった場合に通うのが、病院内に設置されている「院内学級」。学校と同じように授業が行われるが、時間割や内容は子どもの体調に合わせて決まる。
去年、約半年間院内学級に通っていた飯原結仁くん(10)は、「学校みたいに勉強が終わっても、遊びができる。勉強がわかりやすかった」と振り返る。一方で「仲良い友達と喋れないから会いたい気持ちもあった」と寂しい思いも感じていた。結仁くんの母親は「院内学級に転校してるので、他の学校に行って授業を受けることはできない。オンラインでもダメって言われた」と明かす。
小学6年生のときに8カ月間、院内学級を経験した山本陽向さんは「ほとんど自習みたいな感じだった」と振り返る。陽向さんの母親は「先生が1人しかいない。学年は1〜6年まで1人の先生が見るので、実習の授業は全くできてない。体育や調理実習、実験もできない」と話した。
友達に会えない寂しさ、授業内容の限界。さらに医師からすると精神面のケアも不十分になりがちだという。小児科医の川口幸穂氏は、「その子の健康、病気をいかに克服させるかを一番注力しているので、どうしても生活面や心が二の次にならざるを得ない。スタッフの数の限界もある」と述べた。
長期入院の子どもたちが失ってしまう「社会との繋がり」や「教育の機会」。どういうサポートが必要なのか。『ABEMA Prime』で当事者と共に考えた。
■「自分の命が1番大切なのに、学習面での不安に襲われた」

高校3年生の石井優衣さんは、中学校のとき小児がんで1年間の長期入院をした。当時について、「中学2年生の3学期から入院した。その間はコロナだったので、オンライン授業を選択して受けていたが、中学3年に入るときに自分の体調と合わなくなった。もう1〜6限まで座って受けなきゃいけないのがきつくて、自分の好きな体勢で受けられる訪問学級に席を移した」と振り返る。
訪問学級については「オンライン授業で、1日に2コマしかなかった。しかし私の場合、月曜日に薬を打つと、金曜日まで体調が悪くなった。最悪のときは、起き上がれないし、関節が動かない。手足が動かなくて、ペンを持てなかったので、板書も追いつかない。意欲があるのに授業に出れないのがすごく苦しかった。悔しい思いをした」。
さらに、「私の場合、中高一貫で、中3で高校1年生の問題をやるのが主流だった。教えられてないものを自学習でやらなきゃいけないが、ついていけないし、学校との進路も全く合わない。自分の命が1番大切なはずなのに、学習面での不安に襲われた記憶はある」と明かす。
こうした経験から、「当時は体調が悪くて、週に1回も受けられないことも稀にあったので、自分の体調がいいときに受けられて、個人によって変えられる授業があったらいいと思う。あとは自学習のとき、誰にも質問できないことがあったので、質問対応が24時間できるなどの体制があればいいと思う」と提案した。
■院内学級をするには「前の学校を転校しなければいけない」

院内学級とは小、中、高校、特別支援学校などが病院内に設置している学級で、授業や指導をする。時間割(※設置する学校による) は1日4〜6コマ(子どもの症状、体調を考慮)で、国語、算数(数学)など基本5科目の座学が中心。
院内学級の先生について、小児科医の川口幸穂氏は「必ずしも院内学級が必要な患者さんがいらっしゃらない場合もあるので、院内にいるわけでない。提携している公立の小学校、中学校があって、院内学級を担当する先生が1人決められている。その先生が病院に行って、大きい教室で全員を集めて授業をすることもある。病室から出れないお子さんの場合は、個別対応するような形だったり、かなりフレキシブルに対応は取っているように思う」と説明。
しかし、院内学級をするには「前の学校を転校しなければいけない」という。「院内学級として提携している小学校に転校という形になるので、前の学校に置いてあった自分の荷物や出席番号は全部なくなり、本当に断絶されてしまう。当事者のお母様には『自分たちの居場所がなくなってしまったように感じた』と聞いた」。
退院した場合には「再度転校して前の学校に戻る」が、幼少期に小児リウマチで長期入院した経験を持つ、実業家の岸谷蘭丸は、「手術してサクっと寛解することはほぼない。僕の場合は新薬ができて、たまたま相性が良く効いただけで、本当に運だけだった。リウマチの集まりにも行くが、副作用が残っちゃった子、まだまだ治らなくて通勤ができない子、高校や大学に行けなかった子がいたり、復帰できることが稀だ」と語る。
石井さんは「退院して3年経ってるが、まだ入院してる子、元気にならずに退院できなくて亡くなった子も多く見てきてる。だから今後、小児病棟の環境が、入院してる子にとってより良くなる、入院してる子ファーストになるような社会になればいい」と願った。
(『ABEMA Prime』より)