今年のノーベル化学賞に京都大学特別教授の北川進さん(74)が選ばれました。北川さんが着目したのは“無数の小さな穴”でした。研究成果は地球温暖化対策などにも活用が期待されています。
ノーベル化学賞に北川進氏
「今年のノーベル賞は化学界に新たな可能性を切り拓きました。京都大学、ススム・キタガワ」
ノーベル賞の発表直後、現地でつないだ北川さんの喜びの声です。
(Q.化学賞受賞、改めておめでとうございます)
「こんばんは。本当にありがとうございます。長年の研究が認められたことを大変光栄に思い、感激しています。私は常に前向きでした。新しい素材の開発はとても楽しいし、やりがいがある」
日本人の受賞はアメリカ国籍を取得した人を含めて30人目。化学賞は6年ぶりの快挙です。そして、初めて公の場に姿を見せた北川さん。まずは受賞の知らせを受けた時のことについて。
「居室でたまっていた仕事を片付けておりました。その時、固定電話に電話が。午後5時半です。最近、勧誘の変な電話がよくかかってくる。私はまたかと思って不機嫌にとったら『アカデミーの選考委員会の委員長』と名乗られたのでびっくりしました」
その後。
「頭にめぐってきたのは、どう答えたらいいのか。真っ白じゃなくて、どう答えたらいいのか。非常にうれしい、感激するのですけど、皆さんどう言っていたのかと。フレンドリーに話をされる委員長で非常に打ち解けられて、感謝の気持ちと、やっぱり報われたんだなと。今までやってきたことがね。そういう考えを持ちました」
温暖化対策にも“多孔性材料”開発
北川さんは1951年7月生まれの現在74歳。尊敬する細菌学者パスツールの『Chance favors the prepared mind(幸運は準備された心に宿る)』の言葉を胸に研究を続けてきました。
今回、北川さんの授賞理由は新たな“多孔性材料”の開発です。そもそも多孔性材料とはどんなものなのか。最も身近なものでいえば、消臭剤や浄水器などに使われている活性炭です。その歴史は古く、古代エジプトでも使われていたことがパピルスに記されているほど。活性炭の表面には、肉眼では確認できない小さな穴がたくさんあります。その穴は酸素や二酸化炭素などの分子を吸収し、貯蔵することができますが、形や大きさはバラバラ。特定の分子だけを吸収することはできません。
一方、北川さんらが開発した多孔性材料は、金属イオンと有機分子を組み合わせることで、目的の分子に合った大きさの均一な穴を自由にデザインできます。
「1997年、アメリカで研究者が集まるところで発表したら『そんなの本当か』と非常にたたかれました。いっぱいたたかれて、ダメだとたたかれて、暑い所で涙か汗か分からない、そういう経験をしました」
北川さんの開発した多孔性材料は、組み合わせた金属イオンによって色は様々。完成したのは1991年、当時は別の研究をしていました。
「全く穴の開いていない密なものは非常に安定なのです。安定だけど、穴が開いてくると壊れる。穴と考えると無用なんです。ところが、その穴に原子や分子を入れ込んで、ためたり変えたりすると役に立ちます。すなわち、考え方を一つ変えるだけで役に立つ。“無用の用”というのは、大きな我々の原則になっています」
北川さんの研究は、化石燃料から発生する二酸化炭素の回収や、水からの有毒物質の除去など、環境問題の解決だけではなく、エネルギー問題での活用など、現代社会が抱える多くの課題を解決する可能性を秘めています。
「明るいニュースを見ると、日本も世界に発信できる期待がもてる」
「素晴らしいですね。日本の科学力は捨てたものではない」
日本の未来を担う子どもたちへのメッセージです。
「細菌学の父、ルイ・パスツールは『幸運は準備された心に宿る』という明言を残しています。私の流れをみた時に、いい先生、友だちにめぐまれて、学会で色んなつきあい、それが実は『準備された心』なんです。突然、宝くじが当たるものではない。皆さん自分の育っていく過程で色んな経験するけど、それを大切にしていく。将来、花開く可能性がある」