社会

ABEMA NEWS

2025年10月12日 11:01

今も根強い“母乳信仰”「申し訳なくて死にたくなった」と悩む母親に専門医「お母さんが責められる問題ではない」「出なくても子どもをいっぱい抱きしめて」

今も根強い“母乳信仰”「申し訳なくて死にたくなった」と悩む母親に専門医「お母さんが責められる問題ではない」「出なくても子どもをいっぱい抱きしめて」
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 子どもは粉ミルクではなく、母乳で育てるべき。そんな「母乳信仰」は今なお根強いという。先日、ある牛乳パックに「赤ちゃんにはなるべくあなたの母乳を」というメッセージが書かれたが、これが物議を醸すきっかけになった。「母乳で育てるのは普通」という声がある一方で「母乳で育てられない人もいる」と賛否両論が飛び交った。

【映像】ボディービルダーが母乳を飲む?

 3歳と4カ月という2人の息子を育てるリリーさんは、そんな母乳信仰に悩み、一時は死すら意識した。3年前、長男を出産した際「(出産前は)母乳でなるべく育てたいと思っていたが、実際に産んでみると私自身の母乳が出にくいし、息子もおっぱいをくわえるのが苦手だった」と焦り、苦しんだ。

 何度も授乳を繰り返すが、ほとんど母乳が出ず負の循環に。周囲やSNSからは「母乳で育った子は身体が強くなる」「母乳で育てると頭が良くなる」という声を聞いてしまい、思い詰めた結果「(母乳育児できず)子どもに申し訳ない気持ちになって、本当につらくて死にたいと(頭を)よぎった」という。

 「ABEMA Prime」に出演したリリーさんは「私の中では、母乳の免疫が個人的には一番だった。初乳はすごく栄養があるという話があると思うが、その後も母乳をあげると数カ月くらいは母親の抗体がつくとも聞いて、頑張っていた」とも語った。

■行き過ぎた母乳信仰に専門医「母親が責任を感じることはない」

母乳はすぐ出た?

 母乳の専門家は、この「母乳信仰」をどう見ているか。日本母乳哺育学会理事長で昭和医科大学教授の水野克己氏は「最初、母乳はあまり出ない。初乳の量はすごく少なくて、最初の24時間に出る量は1日でも10ccや20ccぐらい。そんなに出ないし、赤ちゃんの胃袋も小さい」と語る。また「出産して最初の3日間は乳児に大事な時期だが、その期間に私たち医療者がどう関われるか。そこが問題であり、お母さんが責められる問題ではない」と、仮に母乳が出にくかったとしても、母親が責任を感じることはないと訴えた。

 もちろん母乳が粉ミルクに勝る部分は多く、また乳業会社も母乳を目指して開発・研究を進めている。「母乳は飲み始めと飲み終わりでも、成分が全然変わるし男の子と女の子でも違う。家族が風邪を引いた時に、母乳の白血球が病原体を食べて抗体ができる。ウイルスに対する抗体、免疫を作って母乳を通して子どもにあげることもできる。母乳は、その時々によって子どもに必要なものが出るという意味では素晴らしい」。

 母乳の優秀さゆえに「母乳信仰」が強まることにつながってはいるが、そのために母親が追い詰められてしまうことのデメリットの方が大きいと水野氏は語る。「母乳を推奨する方にもいろいろな派閥やグループがあり、それぞれしきたりみたいなものまである。それがだんだんつらくなる。だからもっと自由でいいし、普通に健康であれば何を食べてもいい。母乳が出ない方でも、我が子を抱きしめてあげることはできる。いっぱい声をかけてあげられる。母乳で育てると頭が良くなるというが、いっぱい愛してあげれば頭も育つ」と訴えた。 (『ABEMA Prime』より)

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