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ABEMA NEWS

2025年10月15日 09:31

高市総裁「ワークライフバランス捨てます」発言に佐々木俊尚氏「会社員にどこまでセルフコントロール権を与えられるかの社会づくりが課題」

高市総裁「ワークライフバランス捨てます」発言に佐々木俊尚氏「会社員にどこまでセルフコントロール権を与えられるかの社会づくりが課題」
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 自民党の高市早苗新総裁が「全員に働いていただきます。馬車馬のように働いていただきます。わたくし自身もワークライフバランス(WLB)という言葉を捨てます」と発言したことが、賛否双方で議論を巻き起こしている。経営者が絶賛することを危ぶむ声や、より働くことにある程度、理解が必要との声も出た。

【映像】「私は独身で子どもがいないので…」WLBについて考えを語る柏木由紀

 「笑下村塾」代表のたかまつなな氏は、「『だからZ世代はダメなんだ』『WLBを無視していないから、日本はダメになったんだ』という議論にも広がるため、影響力は考えていただきたかった」と苦言を呈する。

 一方で、より働くことを選択できることも重要だとする意見も出ている。そこで『ABEMA Prime』では、たかまつ氏や有識者とともに、民間企業のWLBについて考えた。

■ワークライフバランスとは

渥美由喜氏

 内閣府「働き方改革支援チーム」委員で、WLBやダイバーシティのコンサルタントである渥美由喜氏は、「アメリカの『ワーク・ファミリー・バランス』や、ヨーロッパの人口減社会を背景に、『すべての人が仕事以外もしながらみんなで活躍する』として、2007年に内閣府が音頭を取り、“ワーク・ライフ・バランス憲章”を定めた。すべての人が仕事をがんばり、それ以外をやりたい人も充実した生活を送れるように、働き方改革が行われたが、先進国で一番遅れている」と説明する。

 日本で働く人々には「仕事もがんばりたいが、仕事以外もやらざるを得ない状況」が存在している。「私は父を介護しながら、部長職を10年やった。仕事をがんばりたくないわけではないが、父が統合失調症で要介護になり、産まれたばかりの子がガンだとわかった。そういう人たちも人口減社会で活躍できないと、日本全体が活力を失うため、20年近く国は政策を進めてきた」。

 時代による変化があるといい、「10年前に女性活躍推進法ができて、就労継続だけでなく、キャリアとライフを両立するようになった。30年前は片働きが多かったが、今は共働きが主流だ。20〜30代はほとんど共働きで、仕事以外に子育てや介護をせざるを得ない。そういった女性活躍や共働き世帯への対応として、ここ10年で“WLB2.0”が進んだ」と振り返る。

■「SNSでは『WLBを捨てないとダメだ』など異なる文脈で拡散してる」

たかまつなな氏

 そんな中、注目されているのが高市氏の発言だ。たかまつ氏は「トップが堂々と宣言してしまうことの悪影響は大きい。高市氏は総務大臣時代に、働き方改革を進め、WLBに理解がある。他者に強いている発言でないことは明らかだが、SNSでは『WLBを捨てないとダメだ』など異なる文脈で拡散している」と指摘する。

 一方で、壁画アーティストの赤澤岳人氏は「ワークしている人を『仕事なんかに熱くなって』などと押さえつける文脈ばかりで語られるのが嫌だ。そもそもワークとライフは対等ではなく、ライフの中にワークが入っている。バランス取るのは当たり前で、働きたきゃ働くし、しんどいときは休めばいい。経営者などが『仕事が楽しいから』と働きすぎてしまうことへの警戒はわかるが、『働くことは悪』として語られるのは果たして良いのか」と考える。

 たかまつ氏は「働き方改革関連法で改善はしてきたが、女性管理職は思ったよりも増えていない。やはり子育てなどとの両立が難しく、企業内での評価体制や仕組みが変わりきっていない」といった課題を示す。

■「社員にどこまでセルフコントロール権が与えられるか」

佐々木俊尚氏

 文筆家で情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、女性の就業率や、管理職の前提となる総合職の増加などを理由に、「女性の社会進出は、間違いなく日本でも進んできている。『WLBを取れば、女性の社会進出が進む』『人生は幸せになる』といった議論の段階は、すでに過ぎ去っているのではないか。ここから先は、経営者やフリーランサーだけでなく、会社員にどこまでセルフコントロール権を与えられるかの社会づくりが課題だ」と語る。

 たかまつ氏は「対立しているように見えるのはもったいない」と考えている。「多様な考え方や生き方が保障されて、対立しない形が一番いい。『どちらがいい、悪い』ではなく、仕組みの話をしたい。どういう仕組みを作れば、過労死が起きない社会になるのか。働きたい人が働けて、弱い立場の人に押しつけられないためにはどうしたらいいかなどを、みんなで考えたい」。

(『ABEMA Prime』より)

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