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2025年10月24日 02:16

長時間の手術は交代制…若手医師の育成“オンオフ明確化”富山大 異例の働き方改革

長時間の手術は交代制…若手医師の育成“オンオフ明確化”富山大 異例の働き方改革
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胃や腸などの手術にあたる消化器外科の医師不足が深刻です。こうした問題は、長時間労働や勤務時間外の呼び出しなど、過酷な労働環境が背景にあるといわれています。そこで、富山大学附属病院では、新しい取り組みを実践しています。

午前8時半。50代女性のすい臓がんを切除する手術が始まります。

すい頭十二指腸切除術

がんがあるのは、すい臓の端の部分。臓器が密集しているため、がんを切除するためには、周囲の臓器もまとめて切除しなければなりません。その後、消化機能を維持するため、下から小腸を持ち上げて、残った臓器とつなぎあわせます。

すい頭十二指腸切除術

手術時間は平均8時間ほど。腹部の手術の中では、難易度の高いものです。

古原医師、経験のある医師

最初に開腹のメスを握ったのは、外科医になって1年目めの古原由理亜医師。経験ある医師がサポートにつき、万全の体制で進めます。

すい臓を切除しやすく

すい臓の周りは臓器が密集しているため、まず、血管や臓器をより分けて、すい臓を切除しやすくします。

経験を積んだ若手医師に交代

手術開始から約4時間。胃の下に、すい臓が見えてきました。
すると、そこに現れた別の医師。より難易度が高い工程に入ると、経験を積んだ若手医師に交代します。

東京から視察に来ていた医師は、こう話します。

東京科学大学肝胆膵外科 石田啓之医師
東京科学大学肝胆膵外科 石田啓之医師
「ここは手術メンバー、交代していきますよね。これはかなり特殊です。一般的には同じ先生が執刀したら、最後まで同じメンバーでやっていく」
がんを含むすい臓などを摘出

この日は、外科の教授がサポートにつき、手術開始から約5時間、がんを含む、すい臓などが摘出されました。

3人目の医師に交代

さらに、3人目の医師に交代。最後の仕上げに取り掛かります。

手術開始から8時間。3人目の医師によって、無事、手術が終わりました。

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藤井努教授

異例ともいえる3人の医師が手術をつなぐというやり方。
これを実現したのは、すい臓がん手術のエキスパートでもあり、日本初の膵臓・胆道センターを富山大学に立ち上げた藤井努教授です。

若いうちから手術をさせる

富山大学第二外科の働き方は“完全シフト制”。
経験ある医師たちがサポートにつき、若いうちから手術の実績を積ませます。その結果、すべての医師が、一定以上のレベルを持つことができ、シフト制の働き方が実現しました。

伊藤綾香医師

そんな働き方を知って第二外科を選んだのが、伊藤綾香医師。現在、外科医になって5年目です。

完全シフト制

完全シフト制のため、勤務時間外に呼び出されることはありません。

富山大学第二外科 伊藤綾香医師
富山大学第二外科 伊藤綾香医師
「私たちは、土日も当番の人以外は来ないです。電話も来ない。オンオフがはっきりしているという形」

そのため、伊藤医師は、3歳の娘のお迎えも行くことができます。そして、いま、お腹の中には赤ちゃんがいます。

富山大学第二外科 長澤志保医師
富山大学第二外科 長澤志保医師
「伊藤先生みたいに、子育てしながら働いてる先生もいて、そういうところがいいなと思って、富山大学にしました」
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富山大学第二外科 入局者数

第二外科では、藤井教授が改革を始めた2017年以降、入局者が急増。特に、女性医師の入局が多く、現在は、全体の半数が女性です。

しかし、富山大学のように、医師が増えている病院ばかりではありません。全国的に見ると、消化器外科医は減り続けています。

日本消火器外科学会 会員数

20年後には、65歳以下の消化器外科医が、半分以下に減るという予測もあります。藤井教授は、近い将来、手術を受けるまでに、半年ほど待たされる事態に陥るのではないかと危惧しています。

消化器がんの手術

消化器がんの手術件数が、年間1000件近くに上るという富山大学。
手術を望む患者たちが、全国から訪れます。

神奈川から(70代)
神奈川から(70代)
「きょうは、手術ができるかどうかをみていただいて」
京都から(50代)
京都から(50代)
「できれば手術してほしいなと」

消化器外科医の減少を食い止め、今後も、一人でも多くの患者の命を救うため、たどり着いた働き方が“完全シフト制”でした。

富山大学第二外科 藤井努教授
富山大学第二外科 藤井努教授
「こういう富山のような取り組みが、少しでも、一部でもいいので、日本にだんだん広まっていって、消化器外科の、特に若い先生方が、もっと楽しく、もっと充実して働けるようになって、ひいては、もちろん消化器外科医がもっと増えたらいいですし、日本の国民の皆さんにも貢献できる部分になる」
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