胃や腸などの手術にあたる消化器外科の医師不足が深刻です。こうした問題は、長時間労働や勤務時間外の呼び出しなど、過酷な労働環境が背景にあるといわれています。そこで、富山大学附属病院では、新しい取り組みを実践しています。
午前8時半。50代女性のすい臓がんを切除する手術が始まります。
がんがあるのは、すい臓の端の部分。臓器が密集しているため、がんを切除するためには、周囲の臓器もまとめて切除しなければなりません。その後、消化機能を維持するため、下から小腸を持ち上げて、残った臓器とつなぎあわせます。
手術時間は平均8時間ほど。腹部の手術の中では、難易度の高いものです。
最初に開腹のメスを握ったのは、外科医になって1年目めの古原由理亜医師。経験ある医師がサポートにつき、万全の体制で進めます。
すい臓の周りは臓器が密集しているため、まず、血管や臓器をより分けて、すい臓を切除しやすくします。
手術開始から約4時間。胃の下に、すい臓が見えてきました。
すると、そこに現れた別の医師。より難易度が高い工程に入ると、経験を積んだ若手医師に交代します。
東京から視察に来ていた医師は、こう話します。
「ここは手術メンバー、交代していきますよね。これはかなり特殊です。一般的には同じ先生が執刀したら、最後まで同じメンバーでやっていく」
この日は、外科の教授がサポートにつき、手術開始から約5時間、がんを含む、すい臓などが摘出されました。
さらに、3人目の医師に交代。最後の仕上げに取り掛かります。
手術開始から8時間。3人目の医師によって、無事、手術が終わりました。
異例ともいえる3人の医師が手術をつなぐというやり方。
これを実現したのは、すい臓がん手術のエキスパートでもあり、日本初の膵臓・胆道センターを富山大学に立ち上げた藤井努教授です。
富山大学第二外科の働き方は“完全シフト制”。
経験ある医師たちがサポートにつき、若いうちから手術の実績を積ませます。その結果、すべての医師が、一定以上のレベルを持つことができ、シフト制の働き方が実現しました。
そんな働き方を知って第二外科を選んだのが、伊藤綾香医師。現在、外科医になって5年目です。
完全シフト制のため、勤務時間外に呼び出されることはありません。
「私たちは、土日も当番の人以外は来ないです。電話も来ない。オンオフがはっきりしているという形」
そのため、伊藤医師は、3歳の娘のお迎えも行くことができます。そして、いま、お腹の中には赤ちゃんがいます。
「伊藤先生みたいに、子育てしながら働いてる先生もいて、そういうところがいいなと思って、富山大学にしました」
第二外科では、藤井教授が改革を始めた2017年以降、入局者が急増。特に、女性医師の入局が多く、現在は、全体の半数が女性です。
しかし、富山大学のように、医師が増えている病院ばかりではありません。全国的に見ると、消化器外科医は減り続けています。
20年後には、65歳以下の消化器外科医が、半分以下に減るという予測もあります。藤井教授は、近い将来、手術を受けるまでに、半年ほど待たされる事態に陥るのではないかと危惧しています。
消化器がんの手術件数が、年間1000件近くに上るという富山大学。
手術を望む患者たちが、全国から訪れます。
「きょうは、手術ができるかどうかをみていただいて」
「できれば手術してほしいなと」
消化器外科医の減少を食い止め、今後も、一人でも多くの患者の命を救うため、たどり着いた働き方が“完全シフト制”でした。
「こういう富山のような取り組みが、少しでも、一部でもいいので、日本にだんだん広まっていって、消化器外科の、特に若い先生方が、もっと楽しく、もっと充実して働けるようになって、ひいては、もちろん消化器外科医がもっと増えたらいいですし、日本の国民の皆さんにも貢献できる部分になる」





















