社会

ABEMA NEWS

2025年11月3日 09:00

夫婦ともに性的マイノリティー、しかし「子どもがほしい」 “友情結婚”した当事者「戦友のような感覚」「出産して自分のセクシュアリティーへの答えが出た」

夫婦ともに性的マイノリティー、しかし「子どもがほしい」 “友情結婚”した当事者「戦友のような感覚」「出産して自分のセクシュアリティーへの答えが出た」
広告
1

 関西在住の小林さん一家。夫・小林さんと妻・ノリコさん(いずれも仮名)、2歳の娘の家族だが、ある特別な事情を抱える。それは「友情結婚」。愛情や性行為はなく、友情や信頼関係に基づいた“パートナー”として夫婦になる結婚の形だ。

【映像】“友情結婚”した小林さんとノリコさん、その子どもの様子

 こうしたケースを選ぶ人の多くが、性的マイノリティーの人々。異性に性的欲求を抱けなかったり、そもそも性的欲求がなかったりする人が、それでも「家族」や「子ども」がほしいとして、友情結婚を選ぶという。

 友情結婚の相談所「カラーズ」にも、多くの相談が寄せられている。利用者の1人は、「物心がついた頃からゲイだった。その一方で自分の子どもがほしい。養子という選択肢もあったが、自分の血が繋がっているという意味で、異性との友情結婚が必要だと考えた」と明かす。カラーズにはこれまで、4000人を超える性的マイノリティーの人々が相談に訪れ、300組を超える友情婚夫婦が誕生した。

 小林さんが友情結婚を選択した理由も「子ども」だった。「私はゲイというセクシュアリティーで保育士をしている。仕事をする中で、自分も家庭を持ち、子どもを育てて、その成長に触れられればと思った」。

 一方のノリコさんは、男女問わず誰に対しても性的な欲求を抱くことがないアセクシュアル。「兄弟がおらず、親戚とも疎遠。親が亡くなったら1人になってしまうのは寂しいと思い、結婚したいと思うように気持ちが変化した」と語る。

■夫・小林さん「戦友のような感覚」 妻・ノリコさん「出産して自分のセクシュアリティーへの答えが出た」

 小林さんとノリコさんはネット掲示板で出会った。性的関係はなく、2歳の娘はシリンジ法で妊娠。小林さんによれば、妻は“人生の戦略的パートナー”で、「聞かれた時は“戦友のような感覚”と答える」。ただ、スキンシップはなく、寝室は別で、ソファに並んで座ることもない。また、お互いのプライベートスケジュールに干渉せず、財布も別々。家事・育児は分担し、寝かしつけは小林さんが担当している。

小林さんと妻・ノリコさんの“友情結婚”

 小林さんは「性的マイノリティーであることを周囲に隠して、結婚して子どもを育てるとなると、互いに協力しなければならない。信頼し合って、背中を預けるくらいでないと、秘密を守っていけない」、ノリコさんは「1人暮らしが長く、誰かと暮らすことに慣れていなかった。別々の部屋があり、最初はあまり一緒にいなかったが、子どもができて今はずっとずっとリビングにいる。当初より信頼関係ができて、心を許す場面は増えてきた」と語る。

 自身の性的指向はどうするのか。ノリコさんは、夫に家庭外で「パートナー」を作ってはダメなどのお願いや決め事はしていない。ただ子どもが生まれてからは、何か家族にとってトラブルになる様な事を持ち込んでほしくない、自分の耳に入れてほしくないといった思いがあり、「互いに『子ども』の成長を最優先に行動する」と決めている。

 友情結婚に対する疑問や懸念点として、「愛情が無いのに相手を本当に思いやれる?」「どちらか片方に愛情が芽生えた場合は?」などもあるが、小林さんは“話し合い”の必要性を語る。「結婚や出産、育児といったライフステージの変化により、すれ違いが起きることもあった。共通認識として『話し合い』があるため、互いに投げ出さず、折り合いを付けられる形を考える。そのために言葉を重ね合えるのは、友情結婚ならではだ」。

 ノリコさんは「将来に対する不安はない。結婚して子どもを生んだ時点で、自分のセクシュアリティーに対する悩みに答えが出た。悩むことはこの先ないかと思う。パートナーを作る気も、誰かを好きになることもないだろう。今ある悩みや不安は『この子はどう成長するか』という漠然としたもので、それは恋愛結婚でも同じだ」として、「このままでいられるかの不安はあるが、それ以外の悩みが特にないのが、友情結婚の良さだ」と自身の考えを述べた。

■“友情結婚”であることを将来子どもに伝える?

 子どもへの影響についても、「成長した子どもに『友情結婚』をどう伝える?」「子どもが成人したら…それでも夫婦の形を維持?」などの問いがある。

 小林さんは「将来的に子どもが“友情結婚”の名称を知り、どういうことか気になる可能性はある」と考えている。「ネットの悪意あるコメントは際限がなく、当事者だと知ったときのデメリットは大きい。無駄に悪にさらされるよりは、恋愛結婚の両親に育てられた認識でいてくれた方が健全かなと思う」。なお、現時点で自分から伝える予定はなく、「『普通の家庭ではない夫婦から生まれた』と思って欲しくないため、聞かれない限り、こちらから言うことはないだろう」とした。

“友情結婚”への疑問や懸念点

 ノリコさんも「自分自身の両親が、とくに仲が良かったわけではないため、恋愛結婚か、お見合い結婚かも聞いたことがない。『自分に両親がいる事実』だけしか知らずに生きてきたため、子どもが『もしかしたら両親は友情結婚なのでは』と思うときが来るのか、よくわからない。疑問に思われるような夫婦ではないため、積極的に伝えるつもりはない」と答えた。

■「恋愛結婚でも夫婦はみんな違う」「“家族になる”ことからスタートできる」

 「カラーズ」を運営する中村光沙氏は、友情結婚の動機として「家族が欲しい」「子どもが欲しい」「生涯のパートナーが欲しい」「親を安心させたい」などをあげ、「同居して子どもを希望する、みんなと変わらない結婚スタイルを望むカップルが圧倒的に多い。“友情結婚”と言っても、友情は最低限で、それ以上の愛情や信頼関係の元に結婚している。恋愛結婚でも夫婦によって違いがあるのは一緒だ」と語る。

友情結婚の相談所「カラーズ」を運営する中村光沙氏

 カラーズは、入会前に1対1の対面でヒアリングを行う、相性を見て紹介する、お互いに良ければお見合いに進む、という点で通常の結婚相談所と変わらない。「交際期間は、私たちは“話し合い期間”と呼んでいる。恋愛感情がないからこそ、話し合いがとても重要だ。“性欲”については、相手が知りたいと言えば話し合って、納得の上で結婚してもらう。恋愛結婚でも『生涯1人を愛す』と言いながら不倫する人がいる。結婚後どうなるかは2人の関係性で変わり、それは友情結婚でも同じだ」とした。

 ネットでは、友情結婚への理解の声もある。「性的マイノリティーに関係なく『子どもがほしいから』結婚する人も多い」「恋愛が無くても子どもへの愛情があれば十分」「仮面夫婦もいるし多様な家族の形がある」「少子化の問題など『子ども』が増えるのは良いこと。誰もが自分の意志で自由に生きることが必要」などだ。

 中村氏は、恋愛結婚をした後の変化として、「恋愛感情がなくなると『失敗した』『夫婦関係がうまく行かない』などとネガティブに捉えがちだ。また、恋愛感情は必ず薄れて、別の情に変わる」としつつ、友情結婚は「この期間をスキップして“家族になる”ことからスタートしている」ことがメリットだと語る。

 その上で、「多くの人が“恋愛結婚がすばらしい”と思っているが、皆さん自分の結婚生活しか経験したことがない。“自分たちが良い”と思えているのであれば、それが正解だと信じている」との考えを示した。

 これに小林さんも「我々を見て何かしら思うのも1つの意見なので、こちらがどうこう言うことではないと思っている。ただ、友情結婚の形式をとって、今のところ問題なく生活ができているので、見守ってほしい」と話した。(『ABEMA Prime』より)

広告