東京都内の違法個室マッサージ店で、タイ国籍の12歳の少女に接客をさせたとして、経営者の男が逮捕されました。少女は人身取引の被害者とみられ、客に性的なサービスをさせられていたといいます。
タイ国籍12歳少女“違法接客”
店から押収されたマニュアルにはタイ古式マッサージの施術の方法が書かれていました。タイ古式マッサージとはストレッチと指圧を織り交ぜた独特なものです。料金表も見てみると、巷にある合法のマッサージ店と大差はありません。ただ、「ジャップカサイ」と書かれたパネルを見ると一気に値段が上がります。性的サービスを意味することもあるといいます。
今年6月末、少女は母親から「一緒に日本で働こう」と言われ来日します。空港に着くと店に直行して「源氏名を使いなさい」と指示を受け、性的サービスの仕事内容が説明されたといいます。
「嫌だったが、母に逆らえず従った」
その母親は7月中旬「迎えに来るから働いていて」と言い残し、タイに帰国してしまいます。店の台所の片隅に布団をしき、日中は男性客の相手をする日々でした。
「本当は一緒に帰りたかったが、怒られると思い言えなかった」
少女がこの店にいた33日間、相手をした客は61人、売り上げは約62万7000円でした。全額が経営者にわたり、一部が母親の関係者の口座に送金されていたといいます。
8月、少女は母親の紹介で他県の店に移り、そこでも性的サービスをさせられていました。
「母が3回『迎えに行く』と言っても来ず、もう帰ってこないと悟った」
9月16日、少女は東京入国管理局に駆け込むこととなります。少女はまず、湯島にいるタイ人の大人にどうすればタイに帰国できるかを相談しましたが、捕まると忠告を受けたといいます。それでも帰りたいと、東京出入局在留管理局に1人で助けを求めました。
逮捕された細野正之容疑者(51)。この店の経営者でした。逮捕容疑は15歳未満を働かせたとする労働基準法違反となっています。少女が12歳だったことを知っていたのか、過去にも同じようなケースがあったのかなど、詳しい供述内容は分かっていません。
現場となったビルがある湯島は夜に多くの人が訪れる繁華街です。通りを歩いてみるとアジア系の店舗が多いことが分かります。当該店の近所の人たちは性的サービスの店とは知らず、少女くらいのタイ人が出入りしていたのを見たことはないといいます。ただ、ある店の人からは。
「昔からタイ・ベトナム・中国と潜りの店が多い。トラブルを避けるため他の店とは関わらない。12歳はさすがにあり得ないが、あったとしてもおかしくはない」
タイで問題化“児童売買春”
そもそもタイ社会には売春が根深く巣食ってきました。なかには少女と呼ばれる年齢の人も少なくありません。もちろん売春自体が違法です。人権団体の代表はこのように話しています。
「タイでは子どもの人身売買は昔からありました。今でも子どもがだまされて売春させられているのを救済したこともあります」
(Q.12歳以下のケースも)
「ありますよ。父親が11歳の子どもを売ったんです。ソープランドなどで幼い子どもが大人たちのために用意されている。大人になればまた別の場所で働かせる」
出稼ぎに適した理由があるといいます。
「日本人はマッサージを受けるのが好きで、タイ人はマッサージが得意なのはよく知られています」
全てが違法ではありませんが、なかには今回のような性的サービスを行う店にだまして連れてこられるケースも少なくないといいます。
現在、人身取引被害者として保護されている12歳の少女。入管・児相・外務省・国際機関と連携して心理的ケアと帰国支援が行われることになります。
少女は「祖父や妹に会いたい。学校に行きたい」と話しているといいます。
“人身取引”の実態 日本人被害も
警視庁は今回の事件を人身取引事案とみています。人身取引とは売春や強制労働、臓器摘出などを目的に、暴力や脅しといった手段を使って、人を引き渡したり、引き受ける行為を指します。国連の報告では、世界で確認された被害者は約7万4000人に上り、そのうちの6割が子どもを含む女性だということです(2024年国連資料より)。
政府の人身取引対策推進会議がまとめた統計をみると、日本では去年1年間で66人の被害者が保護されていて、そのうち58人が日本人で、18歳未満の未成年は41人いました。外国人はフィリピン国籍やインドネシア国籍の8人で、未成年者はいませんでした(2025年人身取引対策推進会議から)
過去の事例をみると、日本人被害者のケースでは、18歳未満の未成年者をメンズエステ店の従業員として雇い、不特定多数の男性を相手に売春させていました。外国人被害者のケースでは、被害女性を偽装結婚で日本人配偶者等の在留資格で入国させた後、外出制限したうえで低賃金、無休でホステスの仕事をさせた事例がありました(2023年人身取引対策推進会議から)
今回の被害者はタイ国籍の12歳の少女で極めて悪質なケースでした。12歳の被害者は、警視庁が摘発した人身取引事案では最年少だといいます。
背景にブローカー?捜査の行方は
警視庁キャップ・石出大地記者に聞きます。
(Q.警視庁はこの一件をどう受け止めていますか)
「取材した捜査幹部も『母親に連れて来れられた12歳と聞いてショッキングだった。同時に憤りを感じた』と話していました。12歳の少女は『帰りたい』と言っていますが、母親のもとには返せません。警視庁は現在、少女を保護していて、外務省を通じてタイの保護施設と連携し、いち早く本人の希望をかなえたいとしています」
「新たな情報も入ってきています。タイ側の当局関係者への取材で『少女の母親が借金の返済について知人に相談した。親族を含めて日本に関係のある人物が母親の回りにいた。なので今回、日本にたどりついた』という情報も聞こえてきています。また母親の居場所ですが、実はタイには戻っておらず、台湾にいるということです。摘発を逃れたかったのか、その目的までは分かっていません」
(Q.操作は今後、どのような方向に進みそうですか)
「なるべく早く少女を救うため、今回、細野容疑者らを労働基準法違反で逮捕しましたが、今後は人身売買罪での捜査を進めていく方針です。細野容疑者自身はタイ語が話せませんが、店では短期間にタイ人女性が頻繁に入れ替わっていました。ということは、国内外でタイ人女性を店に送り込む専門のブローカーがいるとみています。そうしたブローカーの摘発や斡旋ルートの解明のためにも、押収したスマホを解析するなどして手掛かりなどを掴みたいとしています。また、取材のなかで『日本が証拠を提示して、タイで逮捕してもらう必要がある。まさに長期戦の捜査だ』と話す捜査幹部もいて、このままだと日本が犯罪の温床になってしまうと危機感を強めています。警視庁は『違法な店舗を利用する客側も、人身取引に加担している』と警鐘も鳴らしています」
日本の人身取引撲滅に向けた取り組みには、海外から批判的な声が上がっています。アメリカ国務省は人身取引に関する年次報告書の中で、日本政府に対し「真剣さや継続性が不十分だ。加害者への処罰が緩く、被害者保護も弱い」と手厳しく指摘しています。
















