誰もが 一度は見聞きしたことがある、事件や不祥事に関するニュース。しかし、逮捕された人の“その後”が報じられることは多くない。
【映像】強制わいせつ疑いで逮捕され懲戒解雇…当事者男性&不祥事前に親子3人で撮った写真
「30歳の時に逮捕され、懲戒解雇という形で職を失った」。こう話すのは、早稲田大学を卒業後、大手メディアに就職したキリオ(中村元)さん(38)。いつものように会社に行く支度をしている時、インターホンが鳴った。「『警察です』って言われて、玄関を開けて話を聞いたら『令状が出ています』と。あの時のあれか…というのをそこでちょっと思い出した」。
その半年ほど前、酒に酔った状態で路上でナンパ。その際に女性に抱きついたとして、強制わいせつの疑いで逮捕された。キリオさんには妻子がいたが、逮捕時は「子どもから『パパ』って声を掛けられたが、振り返ることができなかった。それはずっと耳から離れない」と語る。
その後、実名報道され会社はクビに。それまで築いてきたキャリア、社会的信頼が一瞬にして失われた。「逮捕された直後は、絶対離婚されると思ったし、“人生終わった”という感覚だった。留置所から出た時に、妻は『家族だからこれから支えていきたい』と言ってくれた。そこから、“家族のためにも社会復帰して頑張らなければいけない”と誓った」。
■就職活動を始めるも「書類が一切通らない」 “逮捕歴”は伝えるべき?
キリオさんは一日も早く働こうと就職活動を始めたが、一度でも罪を犯した人間への風当たりは強かった。「書類が一切通らない。使っていた転職サイトからも『こういうご事情の方はご利用頂けないので』と、突然アカウントが消えてしまった」という。

同じメディア系などに履歴書を送るも一切通らなかったため、逮捕歴・懲戒解雇歴を書かずに面接で伝えるスタイルに変更。 36社目にしてWEBマーケティング系の企業に正社員として再就職した。年収は30%以上も減少。逮捕歴は社長や一部の上長にだけ伝えた。
ベリーベスト法律事務所の松井剛(こう)弁護士によると、「有罪判決を受けたら履歴書に『賞罰』として記載する必要がある。事実を伏せると“嘘をついた”とみなされ、のちに『経歴詐称』で解雇される可能性もある」という。一方で、そもそも「賞罰欄」がなく尋ねられてもいない、示談が成立するなどし不起訴になった、執行猶予期間が終了した、拘禁刑以上の刑の執行から10年経過した、罰金刑以下の刑の執行から5年経過したなどの場合、「記載する必要は一般的にないと考えられる場合もある」との見方を示した。
キリオさんは、経緯を明かさざるを得ない事情もあったと説明する。「誰もが知っているような会社に勤めていて、逮捕された時点で報道される身だった。転職も、大きくキャリアダウンするような所しか受けていなかったので、“なんでこの会社に?”という違和感は隠しようがないと思った」。
面接で逮捕歴を伝えると、多くの面接官が真摯に向き合ってくれ、ネガティブなことを言われることもなかったそうだ。しかし、現場と会社では見解が異なったという。「面接官が一緒に働きたいと思ってくれても、『会社としてNGでした』『議論したけれども株主がイエスと言わなかった』『上場を目指しているので難しい』となってしまう」と明かした。
■“訳あり人”を支援も 周囲の受け入れには複雑な思い
キリオさんは2023年、「YOTSUBAワケアリ人生の相談所」を開設。自身の体験を元に、刑事事件を起こし懲戒解雇された人、社内で問題を起こし自主退職を余儀なくされた人たちの就職支援活動を行っている。企業の探し方や面接の受け方、過去の伝え方などをオンラインで一人ひとりサポートし、約400人の相談・支援に携わってきた。

立ち上げの経緯として、「逮捕されたけれども刑務所に行かなかった、罰金や不起訴で終わったようなケースは、“あとは自分でなんとかしてください”という世界。しかし、そこに対するアプローチは今のところない」と投げかける。
ただ、周囲の受け入れについては、複雑な思いも。「罪を償ってもやってしまった過去は消せず、当事者は当然その責任や代償を背負うべき。あるがままを受け入れてもらうのは難しい側面もある」と考えている。
その上で、キリオさんは“就職活動で伝えるポイント”を3つ語る。(1)やみくもに応募するのはご法度で、どの業種を目指すか目標を明確に。(2)罪悪感で自己否定し続けると自信が無くなるので、「自分の強み」を知り、自分を好きになること。(3)「すべて自分に非がある」「しっかり反省し二度と過ちを犯さない」「経験を経て自分を見つめ直す」「新しい人生目標が見つかった。それが御社で活躍し社会貢献すること」など、面接では反省も含めて伝えることだ。
最後に、キリオさんは「残念ながら、問題や事件を起こす方は今後も出てくると思う。ただ、全員が死刑などになるわけはなく、どこかのタイミングで社会に戻ってくる。その後に拒絶され続けると、自ら命を絶ったり再犯をする、不幸な社会につながってしまう。“やり直せる社会”“受け入れてほしい”とまでは言わないが、“そういう人がいる”ということを少しでも知るきっかけになってほしい」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)
