警視庁は12日、暴力団対策課に所属する警部補の男を逮捕しました。新宿・歌舞伎町を拠点に、違法に女性のスカウト活動を繰り返す匿名・流動型犯罪グループ、通称“トクリュウ”に対し、捜査対象の情報を漏らした疑いが持たれています。
違法スカウト組織へ流出の疑い
逮捕されたのは、警視庁・暴力団対策課の警部補、神保大輔容疑者(43)です。神保容疑者は、捜査対象の関係者に捜査情報を漏らした疑いが持たれています。
流出先とされるのは、歌舞伎町を拠点にする日本最大規模のスカウトグループ『ナチュラル』。ナチュラルは全国の繁華街にネットワークを広げているとみられ、メンバーは1500人に上るとされています。女性を風俗店に違法にあっせんし、売り上げに応じて受け取る報酬は年間44億円ほど。一部はみかじめ料などとして暴力団に流れているとみられています。
しかし、その組織としての実態は明らかになっているわけではありません。警視庁は、SNSでメンバーを集めて犯罪を繰り返す匿名・流動型犯罪グループ、通称“トクリュウ”とみて摘発を進めてきました。一方のナチュラルも対抗するかのように秘匿性の高い通信アプリを独自開発。捜査員の顔写真が共有され、組織内の内部情報が漏れないように徹底していると言われています。
元スカウト証言「警察をウイルスと…」
かつてナチュラルでスカウトをしていたという人物がその実態を明かしました。
「警察のことは社内では通称“ウイルス”と呼称していた。警察に対しての対策、尾行される事態も想定されるので、尾行をまく練習、逮捕された後の黙秘の仕方として、アプリ内の“ウイルス”という項目に全てマニュアルとして記載してあった」
そのアプリはスマホを見られてもばれないよう、当時はフェイスブックのアイコンを偽装していたといいます。
「違法活動をしている組織なのは間違いない。当時の上司からも言われた。『アプリのIDパスワードを絶対警察に教えるな』『顧問弁護士の名前と連絡先を必ず暗記するように』と。自分の場合は3日間ほどログインをさぼった。4日目ログインができない。リスクヘッジの意味を込めて、通達なしで組織から切り離す」
捜査関係者「情報が漏れた」
そのナチュラルと神保容疑者の接点について、警視庁は、神保容疑者が3月までナチュラルの捜査に関わっていたことを明らかにしました。取り調べを主に担当していたといいます。事件関係者の行動確認のために設置したカメラの情報を、ナチュラルに伝えていた疑いが持たれています。神保容疑者のスマホにもナチュラルが開発したアプリが入っていて、情報もそこから送信されていました。
「逮捕の数日前に行動確認をしていた少なくとも1人の行方が分からなくなった。『情報が漏れた』と確信するほどのタイミングだった」
神保容疑者の関係先からは現金数百万円が見つかっていて、ナチュラルから受け取っていたとみられています。
警視庁OB「一回もらうと断れない」
神保容疑者が所属していた暴力団対策課は、かつての“捜査4課”の流れを組む組織です。市民を暴力団から守ることを旗印にしてきました。警視庁捜査4課のOBは。
「非常に残念。仲間を裏切った行為でもある」
ただ“4課”は、情報を得るために関係者に接触することはあるといいます。その際に誘われることは昔も。
「1回もらっちゃうと、もう断れなくなる。そこが一番怖い」
(Q.櫻井さんは止められた)
「止まっています」
(Q.実際に誘いは)
「『飲みに行こう』というのある。ありましたけど、飲みに行かなかった。飲むのは行かないと。例えば事務所でケーキを出されても『ケーキを食べちゃダメだ』と教える。本人が分かっていれば、その一線を越えないんですけど、ギリギリの線まで行くのもいますし、一歩踏み込んじゃうと、そこでもうアウト。その線引きができるかなんですよね」
警視庁は、神保容疑者の認否を明らかにしておらず、事件の影響については「お答えのしようがないが今後解明する」としています。
身内の“裏切り”に警視庁は
社会部・警視庁キャップの石出大地記者に聞きます。
(Q.現職の、しかも捜査チームの一員だった警察官が逮捕される事態です。警視庁の内部ではどう受け止められていますか)
「警視庁内部には憤りが広がっています。ある捜査幹部は『警視庁の名前に泥を塗った。警視庁への裏切り行為であり、絶対に許されないことをした』と憤りをあらわにしていました。その一方で『トクリュウという警察全体として最も力を入れて対応しなければならない事案で、最悪の結果だ』と落胆していました。神保容疑者は約2年前からナチュラルに関連する捜査に加わっていました。そのなかで主に関係者への任意の調べや逮捕後の取り調べを担当するなど、重要な役割を担っていました。取り調べは、殺人事件などではないため、録音や録画は行われず、1対1で行われていた時もあったということです。その際に捜査情報が漏えいした可能性も考えられるとしています」
(Q.警視庁はいつ頃から神保容疑者を疑い始めましたか)
「実は10カ月前から内々に捜査をしていました。ナチュラルに関連する捜査で、警視庁内部で情報漏えいが疑われる事案があり、その際に神保容疑者の名前が挙がっていたといいます。ナチュラルの他のメンバーが逮捕された時にも『警視庁の捜査員から情報をもらった』と供述した人物もいて、神保容疑者への疑いは強まっていました」
(Q.今後の捜査はどう展開しそうですか)
「神保容疑者の逮捕容疑は地方公務員法違反ですが、警視庁は贈収賄容疑での立件を目指していました。ただ、贈収賄で立件しようとすると金の流れの解明が困難で、この容疑を固めることができませんでした。警視庁は神保容疑者の認否を明らかにしていませんが、動機は金とみられています。警視庁は関係先への家宅捜索でも数百万円の現金を押収していますが、その金を誰から受け取ったかなどは徹底的に調べても証拠が集まらなかったということです。ある捜査幹部は『より量刑の重い贈収賄での立件ができず、本当に悔しい』と話し、10カ月の捜査を尽くしても裏付け捜査が難しく『贈収賄での逮捕は厳しそうだ』としていました」













