いわゆる“Fラン大学”から、偏差値も評価も高い大学院に進むことで、最終学歴を塗り替えることを「学歴ロンダリング」と呼ぶ。一流大学でも大学院は倍率が低いことが多く、比較的入りやすいことから「人生のチート技」とも言われる。
そのため批判の的になりがちだが、当事者からは「本来の学歴では就職が難しい企業に入社できた」という声もある。『ABEMA Prime』は、有名大学院の卒業生に、そのメリットや周囲からの見られ方について聞いた。
■地方大学から大学院、そして大手自動車メーカーに就職

教育ジャーナリストの濱井正吾氏は、学歴ロンダリングの当事者たちを取材し、自身も東京大学大学院に挑んだ経験を持つ。「2008年ごろに『学歴ロンダリング』を冠した本が出版されたことをきっかけに、ネットでも言われるようになった。大学院の方が、科目数が少なく、対策しやすい。東京大学では、学部は6教科8科目必要だが、院は2〜3科目だ。ただ勉強は、学部で学んだことの発展形が求められるため、生半可なものではない」。
学歴ロンダリング当事者の川島さん(20代後半)は、院卒後に自動車メーカーへ就職した。地方のとある大学(理系)から、バイオ分野で最先端研究を行う大学院へと進学。試験内容は面接と小論文(英語はTOEICで免除)で、そこまで勉強せずに入学できたそうだ。
しかしながら、入学後には苦労もあった。教授からのプレッシャーで、修士が始まって数カ月で進学を後悔。研究の求めるレベルが高く、教授からかなり追い込まれていたという。また、研究から逃げるために就活予定を入れまくった結果、数カ月研究を休んで教授から脅しが来た経験もある。
ロンダリングを目指した動機は「自己肯定感を高め、就職先の選択肢を広げたかった」ためだが、「それなりの結果を出さないと卒業できないため、研究も真面目に頑張っていた」そうだ。「入社した会社は、高学歴の人が多かった。自分はロンダリングしなければ、いまの就職先に入れなかっただろう」。
母校を比較して、「卒業した学部より、大学院の方が、就職実績など全体的に優れていると感じた。学部時代は自信がなかったため、自信を付けるためにもロンダリングを考えた」と語る。「結果には満足している。学歴があって良かった。就職や自己肯定感にもつながるが、学歴は高いに越したことがない。将来的にも役立つことがあるのではないか」。
■京大大学院卒も就職活動で苦戦

源カイバさん(30代前半)は、関東のとある大学から、京都大学大学院へロンダリングした。試験内容は英語論文の日本語訳と、化学などの筆記(4科目)、面接だったが、倍率が1倍程度で基準点さえとれれば合格できたそうだ。
しかし、就活では学歴を生かせず大失敗してしまい、現在は手取り19万円の派遣技術者(8年目)として働いている。失敗した理由には「就活のリサーチ不足」「先輩たちの内定先がよすぎた」「学歴への信頼から最大手しか受けなかった」ことがあり、学歴のラッピングを取っ払ったときに、周囲と戦えるほどの中身がなかったと語る。
ロンダリングの経緯は「『高収入かつ楽しい仕事がしたい』と、食品メーカーの商品開発を志望した。『理系院卒』が採用条件だったが、私の大学にはそもそも大学院がなかった。そこで、興味がある研究をする中で、一番有名なところに挑戦しようと、京都大学の院に挑戦した」と話す。「就活中は『研究を仕事にしたい』とこだわり、考えが凝り固まっていた」。
周囲の反応については、「普段の生活で『ロンダリングだろ』とバカにされる経験は一度もなかった。京大生はモラルも高く、そんなことを面と向かって言わない」として、「いい経験だった。設備など高いレベルで学べる。留学生や留年を重ねている学生といった、いろいろなバックグラウンドを持つ人と話せたのも良かった」と振り返る。
精神面では「京大の院に行けたことが、自己肯定感につながった。就活に失敗したことも、笑い話として消費している」という。「やりたいことによるが、研究がしたいのであれば『理系院卒』の学歴が必ず必要になる。ならば、より高い方へ行った方がいい」。
■ひろゆき氏「大学院に行って論文出さずに『中退』はずるい」

ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、「ロンダリングだとしても、理系で修士・博士論文が通る実力があれば、どこの企業でも採用するだろう。文系の役に立たない院へ行って就職できないのは当然だが、理系の院は行く意味がある」と考える。
そして、「学部生は頑張らなくても卒業できるが、院生は論文を出して、いろいろな人に突っ込まれて、OKとなって初めて卒業できる。ちゃんと院卒している人は、ロンダリングではなく、実力を証明済みだ」と評価する。
「ロンダリング」とからかう風潮については、「役に立たない共通テストが得意だった人が、ねたんでいるのだろう」と推測する。「修士や博士の研究者は、専門以外どうでもいい。理系なら歴史が0点でもいいが、専門分野をやる人を求める。それに対して、満遍なく点数は取れるが、研究はうまく行かない人が、『地方大卒のくせに』と言う。共通テストの高得点がプライドになり、社会であまり役に立たない能力なのに、『自分は頭が良かった』と言い続ける人たちがいる」。
ネット上では「学歴ロンダリングはずるい」といった声も見られる。これには「大学院に行って論文を出さずに『東大院中退』と学歴に書く人はずるい。『学部は入れないが、修士課程なら入れる、でも院の勉強はできなかった』というタイプが東大を自称するのは違う。しかし、川島さんもカイバさんも修士論文を出して卒業しているので問題ない」と返した。 (『ABEMA Prime』より)
