全国各地でクマによる人的被害が後を絶たない。30年にわたってクマのフンを拾い続け、研究をしてきた東京農工大学大学院・小池伸介教授がクマの生態について解説した。
「クマのウンコというのは見た目こそ直径約10センチとクソでかいが、意外なことに悪いニオイはあまりないのだ。いわば粘土の塊みたいなものなのである。クマのウンコからはいわゆるウンコ臭さよりも食べた物のにおいがする」という、クマの生態を“フン”から解析してきた研究者がいる。『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら ツキノワグマ研究者のウンコ採集フン闘記』(辰巳出版)の著者、東京農工大学大学院・小池伸介教授だ。
一体なぜクマのフンに着目したのか。小池教授は「自然状態のクマは森の中で1頭で暮らしているので、まず観察はできない。山の中でクマに一番接近できるのはウンチ。クマそのものを見ることはほとんどないので、森の中を歩いてウンチを探してウンチを分析することで何を食べてたっていうのを復元していく。そういった作業になる」と語る。
小池教授が大学3年生のころ、卒論のテーマに選んだのが「クマのうんちの食性解析」。まだGPSもなかった時代、藪の場所などをメモし、クマの行動パターンを予測しながらクマのフンを朝から晩まで探し続けた。初めてのフンと出会うまで1カ月を要した。
クマを捕獲し個体調査をするだけでは、クマの食生活まではわからない。教授になってからも食性解析を続け、彼の研究人生で拾ったクマのフンは、およそ30年で3000個以上になるという。
同著では「特にツキノワグマは雑食とはいえ、ほとんど植物を食べているため、桜の花や実を食べた後に出たウンコは桜餅のようなにおいがするし、植物の葉を食べたときのウンコはお茶の葉のようなにおいがするのだ。どちらかと言えばいい香りがすることもある」と書かれている。
小池教授は「クマって肉食のままの消化管なので消化能力が悪い。いろいろな果実を食べても、その種とかがそのまんま出てくる。クマのお腹を通過した種はちゃんと発芽する。クマは森の中でいろんなところを動くので、クマが食べてウンチをすることによって森中に種を撒いているという、そんな働きをしていることが見えてきたのがひとつ面白いところ。クマは普通に食生活をしているだけだが、クマがいることによって植物の繁殖を助けてくれてる。それによって森の中には次の世代の木がどんどん育っていく」と説明。
クマのフンを解析することで、森に暮らすクマは森の恵みを食べ排泄することで森を作り、森を保全していることを知ったという。
クマの生態については「日本人の多くの方が鮭を食べて生きていると思っているが、クマは、もともとはライオンとかトラと同じグループの共通の祖先がある。そういう意味では動物質のものがあれば当然食べたい。森の中で鹿が死んでいたりすると、それも当然ごちそうで食べるわけだ。だから獲れるなら食べたいが、わざわざそれを探すコストはかけたくないというのが、クマの本音だと思う。栄養価は低いけれども、たくさんある植物をたくさん食べることで、体を維持するというふうに進化してきた。いかに効率よく食べて生活するかというとこを追求している」と解説した。
クマ被害のニュースが相次いでいるこの季節は、クマがエサを摂取しようと活性化する時期。冬眠に備え、1年間に摂取する8割ほどのエネルギーをこの時期に蓄える必要があるというが、今年は気候変動の影響で主食であるどんぐりが凶作になっている。
小池教授は「実は森の中で生きているクマは、こういった不作の年には早く冬眠する。無いものを探すっていうことは彼らはしない。そうやって早く寝てしまうが、集落の中の美味しいものにありついてしまったクマは食べ物がある状態なので、いつまでも出没したりして食べ物に執着してしまう。だからやっぱりそこに執着させない、味を覚えさせないのが一番大事」と指摘する。
「駆除もそうだが、物理的な人間とクマの距離が近すぎる。緩衝帯をどうやって作っていくか、例えば公共事業のような形で森林管理をしていくとか」と、環境づくりが大事だとして「多くの自治体が『自分の県では今年どんぐりの実りはどうですよ』という情報を出している。自分の住んでるところのどんぐりの実りが悪い場合は、普段クマがいないようなところにクマがいるかもしれないし、町の中のちょっとした藪とか木立の中にも『ひょっとしたらクマがいるかもしれない』という心づもりは必要だ」と訴えた。
小池教授に相次ぐクマ被害について尋ねると「今年のように不幸なニュースが多くなると、やっぱり世間のクマに対するイメージがすごくネガティブになる。でも実際は多くのクマは森の中でひっそり暮らしていて、おそらく一生の間に人間とは会わないクマの方が日本には多いはず。最近のネガティブなイメージだけでなく『そんな一面もあるんだ』という、新たなクマの姿を知ってもらうのもいいかな」と語った。
30年間、クマのフンを探し求め山を歩き続ける小池教授。調査目的の捕獲を除いて、これまで一度もクマと遭遇したことはないという。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
