2025年度、全国でクマによる被害を受けた人は、これまで196人で、都道府県別では秋田県の56人が最多です。
秋田県の鈴木知事に、クマ被害の現状と対策について伺います。
人口減少が市街地でのクマの被害増加に与えている影響についてもみていきます。
■クマ被害の現状 鈴木知事「出没衰えない」「住民は不安」
鈴木知事は、2000年陸上自衛隊に入隊、2006年自衛隊を退職し、奥さまの実家がある秋田県に移住しました。
2007年から司法書士として勤務、2015年秋田県議会議員、そして、2025年4月に秋田県知事に当選しました。
秋田県内のクマの現状です。
11月の目撃件数は2625件、2025年度の人身被害は4月から10月末までで49件、56人に被害が出ており、全国で最多です。
能代市では、11月16日、営業中のイオンにクマが侵入し、客や従業員が避難する事態となり、周辺は一時、交通規制が行われました。
クマは、吹き矢の麻酔で眠らせて駆除しました。
「例年11月になれば人身被害は減っていくのですが、今年に限っては出没が衰えを見せない、未だに町の中心部に出ているという状況です。これまでも人身被害はあったんですけども、今年や一昨年の異常さは町中に出てしまうというところで、それが県民の皆さんの不安を招いているところです。(秋田県に)20年近く住んでいますが、クマが増えたと感じたのは、一昨年です。一昨年70人という被害が出て、こんな所に出てくるのかという所に、クマが出てくるようになった。今回は、全県、一昨年よりもはるかに町中の、ここに出るんだったら、どこに出てもおかしくないという所に出るようになったという状況です」
「もう恐怖です。毎日、ドアを開けるときも警戒しないといけない。庭先に出る、ゴミ出し、農作業等はもちろん、日常の普通の暮らしをしている時に襲われてしまう、実際に事例が出ていますので、皆さん大変不安に思われている。交通事故の件数に比べれば、実際被害に遭う確率というのは事実としてそこまで大きくないんですが、普通に暮らしていて襲われてしまう事例がある以上は、非常に毎日皆さん不安に暮らされている」ということです。
■パトロール 休日出動 苦情対応も 自治体職員「もう限界」
秋田県内の自治体の状況です。
秋田市は、
●2人1組の4班体制で朝から日暮れまでパトロールを行い、
●土日も職員が交代で出勤して、クマの目撃情報があれば、勤務時間外も対応しています。
「課外からも応援に来てもらい、通常の行政サービスに影響が出ないよう、何とかやりくりしている状況。職員の疲弊は正直もう限界にきている」と話しています。
横手市です。
冬の間は、雪で山での業務ができないため、今の時期は森林や林道の整備などが大詰めですが、クマへの対応が業務を圧迫しています。
「限られた時間でどうにか対応している。冬眠しないクマの情報も出ているため、春以降のみならず、冬季中の対応もかなり懸念している」と話しています。
「秋田県の人口は減っていますので、行政組織のスリム化が進んでいるところに、こうした事案が突発的に起きて、その対応に全市町村が苦慮しているところです。横手市、秋田市は、秋田県で大きい市の中の1つです。秋田県の中には25市町村あるんですけども、2000人前後の町村もあるんです。そうした所は、職員数が数十人というところで、こうした対応をしないといけないので、(秋田市、横手市より)もっと大変な状況になると思います」
秋田県の自治体には、クマの駆除に対して、問い合わせが相次いでいます。
鹿角市では、
「クマを絶滅させろ」
「なぜクマを殺すんだ」
などのクレームが、届いている状況だといいます。
「クレームはほとんど県外からで、無理難題を言われることがあり、業務に支障をきたすため、毅然とした対応を心掛けている」と話しています。
また、横手市では、10月、緊急銃猟が実施された際に、
『誹謗・中傷と思われる電話には、毅然とした対応をする』
との旨を市の公式Xに投稿しました。
「去年、他の自治体では、クマの駆除に対してクレームが殺到し、職員の業務に影響も出ていたため、広く周知が必要だと考えた」ということです。
「先月の半ばごろからのカウントでいきますと、秋田県にも770件ほどの問い合わせの電話をいただいております。やはり、半分は批判ですね。『なぜ殺すんだ』というのが多いわけですけども、ほぼほぼ県外の方からということです。残りの半分は『もっと頑張れ』『負けるな』というお声を今年はいただいております。『こうすればいいんじゃないか』というご提案の電話もかなりいただいている状況です。ただ、クレームに関しては、同じことを長い間話される方が多いもんですから、一定時間聞いた上で、『申し訳ないですけども、ここは切らせていただきます』と電話を切る対応をしている状況です」
■緊急対策 自衛隊要請「地元から感謝」 警察“駆除PT”出動
クマ被害が急増する秋田県の緊急対策です。
自衛隊は、11月5日から箱わなの運搬などの後方支援を行っています。
警察は、11月13日から、ライフル銃の使用が可能なクマ駆除対応プロジェクトチームを発足し、指揮官1人と2人のライフル射撃手、市町村との調整担当1人の4人1チームで活動しています。
他にも、県が委託した民間警備会社による、小中学校等の登下校時における巡回や、クマが潜んでいる可能性がある近辺で、爆竹花火によるクマの追い払いを行っています。
さらに、箱わなや通信機能付きセンサーカメラを県が購入し、市町村に無償貸与しています。
「いまだかつてない業務をお願いしたわけなんですけど、最初入ったのが鹿角市で、地元の方からは大変な感謝の声をいただいてます。それまで猟友会の皆さんの協力を得て駆除業務を行っていたわけですけど、罠にしかけて銃猟で仕留めた後の仕事も相当あるんですね。それはまず運んで、処理をしてということになりますが、そこも全てハンターの皆さんが夜遅くまでかけてやっている。罠をしかけているんですけど、見回るマンパワーも足りない、または、クマが(罠に)入ってるんですけどそこを対応する人もいないという状況だったものですから、自衛隊の皆さんがそこをしっかり手伝ってくれるということで、25市町村のうち10市町村で活動を始めましたけども、かなり感謝の声をいただいております。(自衛隊を要請する件について)今までも聞いたこともなかったですし、災害派遣にもあたらないのではないかという疑問もありましたが、こちらとしては県や市町村、県警と言った自分たちの持てるリソースでやれることを全てやってるんですけども、毎日のように人身被害が発生する、どうすればいいんだというところで、やむなく苦渋の決断で要請したということです」
■ハンター不足解消へ 日当倍増 報奨金 公務員採用も
ハンター不足の現状です。
1980年度は、狩猟免許所持者が46万1000人、狩猟者登録割合は94%でした。
2020年度には、狩猟免許所持者が21万9000人、狩猟者登録割合は63%です。
狩猟者登録をしないと、その年度は狩猟ができないので、実働できるハンターは大きく減っています。
そこで秋田県は、新規で第一種銃猟免許を取得する人に、上限5万円を支援。
初めてライフル銃を購入する人に、上限15万円を支援しています。
さらに、11月18日、クマ対策事業に約2400万円の補正予算案を発表しました。
クマの捕獲に携わる人の継続的な活動支援などのため、奨励金と慰労金を支給します。
秋田市でも、クマ被害防止緊急対策として、猟友会員の出動報酬を日当4000円から8000円に倍増。
クマ一頭の捕獲に対して、1万円の報奨金を新設しました。
さらに、公務員ハンターとして、狩猟免許などを持つ専門職員を募集します。
「秋田県でも(ハンターの数は)当然減っています。ピーク時からいくと4分の1以下ですね。狩猟免許の登録者数ベースでそれくらい。それプラス、昨年で1760人ほどになってるんですけども、全員がやはり駆除に出れるわけではないと、平日日中でもクマは出ますので、お仕事持っている方については出てきてくださらない、ということですから、やはり国の対策パッケージでも、退職自衛官、退職警察官というところがクローズアップされていますが、動けるタイプの方がこういったところに参加していただくというのは、すごく大事なことだろうと思っています。ただ、先ほど報奨金の金額が出ていましたが、やってくださっている重さとか危険さに比べて安いだろうというお声はいただきます。私もそう思うんですけども、自治体の財政状況、かなり厳しい中でやっているということで、ハンターの皆さんにはご理解いただきながらやっているんですが、そこを国の方もみていただきたいなと思います。(国の援助)ありますが、基本的に市町村に対してのものはないので、自腹の部分というのは結構あります」
■クマ被害増 背景に人口減 『管理強化ゾーン』設定で対策
クマ被害の中長期的な対応です。
秋田県の人口は、2014年は約103万人でしたが、2024年は約89万人、この10年で約14万人減少しています。
今後も減り続け、2050年には56万人になると予測されています。
2024年の秋田県の人口減少率はマイナス1.87%で、12年連続、全国ワースト1位です。
「人が減って家がなくなると、クマが近づいてくる。田んぼも維持できなくなって、草がボーボーに生えて、クマの隠れ場所になっている」と話しています。
秋田県のクマの分布域です。
2003年には、山間部中心だったクマの出現場所が、2025年は、市街地や海沿いまで県内全域に広がっています。
クマによる人身被害は、2025年の10月以降だけで40件、3人が亡くなっています。
発生場所は、山で1件、人里で39件です。
秋田県では、人里での被害を防ぐために、奥山をクマの『コア生息地域』、人が日常生活を送り、クマの侵入を許さない場所を『防除・排除地域』、その間を『緩衝地域』と定めました。
さらに、この『緩衝地域』のうち、クマが定着することで出没や人身被害が多発するリスクが高いと考えられるエリアを、重点的に対策を講じる『管理強化ゾーン』に設定しました。
『管理強化ゾーン』では、見通しを良くするために、低木、幼木の刈り払いや森林の伐採を行い、『緩衝帯』としての里地・里山機能の回復を図ります。
さらに、これまで認められていなかった、春季の親子グマの捕獲が可能になりました。
人口減少の中で、人手をかけない対策として、画像認識機能を持つ通報システムや、ドローンによる追い払いなど、省力化の効果が高い機器の導入を進めています。
「今まさに管理強化ゾーン設定のための作業をしていたところなんですね。今年度1年かけてゾーニングを各市町村と行っているところであります。人が住む地域とクマが住む地域の間にある緩衝地帯にも、(クマの)通り道とかある程度わかる部分があるんですね。そこにはしっかりと管理を強化していこうということで、監視体制と、出てきた場合は駆除をさせてもらうという対策をとっているところです」
(「羽鳥慎一モーニングショー」2025年11月19日放送分より)















