台風によってすべてを奪われた八丈島のあしたば加工工場。40年間続けてきた味を復活させるべく、がれきの中から再び歩き出した人々の“再生の道のり”を追った。
“今日摘んでも明日には葉をつける”ことから明日葉(あしたば)。八丈島の特産品として知られる明日葉の天ぷらは島のソウルフードにもなっている。ABEMA的ニュースショーは、生産者で加工工場社長の山田幸也さんの元を訪ねた。
八丈島空港から車で10分ほどのところにあるあしたばの加工工場は、言葉を失うほどの惨状だった。「ここが元来入り口だった。上に建物があったが、跡形もなく飛んでいっている」(山田社長、以下同)
築40年の建物は、右側の棟がすべて吹き飛び、むき出し状態に。鉄骨の柱も折れ曲がり、窓ガラスは散乱。オフィスの備品も野晒しのまま放置されていた。
2階の倉庫も壊滅的だ。山田社長は「漏電ブレーカーが効いてるので電気がつかない」「雨漏りがひどくて、(屋根も)台風でほとんど飛んでしまった。あっちの壁も、ショーケースも持っていかれた」「ここら辺の壁が全部向こうへ飛んでいったみたい」と被害状況を語る。
看板商品は「明日葉ふわふわ削り節」。独自の特許製法で乾燥させた商品で、ごはんや味噌汁、ラーメンなどに入れて食べる。山田社長は40年前に大阪から移住。あしたばに無限の可能性を感じ、加工工場を開いた。今回の台風は、移住して体験したことのない威力だった。一瞬にして全壊してしまった工場。そんな中、特注のあしたば乾燥機だけは奇跡的に残った。
「これがないとあしたばができないから『明日葉のふわふわ削り節』がね。ただ台風の後、実際に動かしてみて、動くかどうかのチェックはできていない」。諦めずに、港近くの一室を借りて仮オフィスも立ち上げた。従業員は長男の山田真之介さんとパート数名。
「在庫商品。袋に入ってるのは全部そう。これ以外にも別の倉庫にもある。これが原材料、パックする前の商品。そのまま食べてもおいしい」と説明する山田社長だが、ここにも問題がある。ネット環境はあるものの、電話回線が使えない。山田社長は「お客さんの層はシニア世代だから、あまりネットが使えない。状況としてはそういったお客さんは、ちょっといま待ってもらっている」と嘆いた。
工場の修繕費を尋ねると「少なくとも2億円ぐらいはかかりそう。運営するための資金が1000万から2000万円」と語った山田社長。支援金などで再建できるのか、不安が募る。
一方で、小池都知事の肝入りで派遣された「キャンピングカー」20台。一時的な滞在場所としての稼働はゼロ。町民から使用したいとの要望はあったものの役場が対応しきれておらず、一部は、会議室として使用されている。町民からは「支援と被災地のニーズがずれている」という指摘も出ている。
こうした中、山田社長は新しい工場の移転先を探していた。台風前、売上およそ4000万円のうち、1,000万円は工場見学によるものだったが、全てキャンセルに。あしたば加工工場は、観光客にとっても島を知る入り口になっていた。
修繕費が一番大きな問題だとする山田社長は「機械の移動もそうだし、セッティングもそうだし、内装もそうだし」と、問題は山積みとしながらも「もう一度ここに人が集まる場所をつくりたい」とした上で「八丈島は元気なんだよって伝えたい」と前向きに語った。
番組に山田社長と長男の真之介が生出演し、復活への決意を語った。工場の復旧について「現状では変わらずだ。手のつけようがないというところ」と明かしながらも、「私どもが思っているのは、廃業は絶対にしたくない。とにかく頑張っていきたいというのが第一だ」と力強く語った。
仮オフィスの課題については「地域の人たちのご厚意によって借りることができたが、いかんせん場所的にも狭いし、ネット環境も若干あるが完ぺきではない。電話回線が繋がらないというところもあわせて、なかなかいままでと同じような形ではできない」と、問題点があることを明かした。
電話回線については「NTTに相談はもちろんしていて、なおかつ別会社の光回線との話はできているが、なかなか手が回らないというのが現状のようだ」と説明。
長男・真之介さんは「子どものころから頑張っている父をずっと見続けていて、一度そのまま就職するよりは社会を知ったほうがいいかなということで(実家を)出た。コロナのタイミングで戻って来て、父も協力してくれますし、頑張っていこうと思った矢先にこういった状態になったので、ショックを受けている状態」と胸中を語った。
工場復旧にかかる2億円に対し、いま考えている対応について山田社長は「まず現在の場所での復興は非常に難しいと考えている。だから新たな場所で立ち上げるのがいいのかなと。これはまだまだ暗中模索というか、悩んでいる最中だ」と語った。無事に残った加工機械についても「動力なので、一朝一夕には動かせないという部分がある」と説明した。
いま八丈島に最も必要なものについて問われると「やはり支援」と答えた山田社長。東京都からの支援の見積もりみたいなものは出ているのかという問いには「まったくわからない。罹災、被災証明はつい先日、やっともらえた状態なので。この工場そのものの保険は、建物自体が老朽化しているということで、鉄骨が錆びていて保険はかけられないということで、保険はない。甘えるわけではないが、とにかくいろいろな形での支援をお願いしたい」と訴えた。
役場との連携については「町役場そのものは、とてもじゃないけど人の手がなくて走り回っている状態。私どもの工場ももちろん見に来ていただいたし、優しいお言葉もかけてはいただいているが、それをどうしようというところまでは進んでいない」と明かした。
現在見学などで工場に訪れる人は「ゼロの状態」と語る山田社長に、完全復活の時期を問うと「まずあしたばという野菜が時期的に2月からどんどんできてくる。野菜だから旬の時期、おいしい時期というのが2月ぐらいから5月ぐらいまで。現状で今年の2月、3月にどんどん作っていただいて、来年もということで農家さんにも頑張って作ってはいただいている」と再生産に向けて動き出していると説明。
続けて「あしたばの原材料の葉っぱがきても、機械が動かなければ駄目なので。とりあえず間に合わせられるように、少なくとも2月、3月までに機械の新たな設置場所、そして機械を動かせる状態に持っていく。その辺が我々の務めだ」と語った。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
