沖縄県・南城市の古謝景春前市長(70)が、セクハラ疑惑をめぐる不信任決議案の再可決により、失職した。本人は女性職員に触れたことなどは認めつつも、セクハラ疑惑は否定。名誉を毀損(きそん)されたとして、人権救済を求めるとしている。
どこからがセクハラの“境界線”となるのか。『ABEMA Prime』では、セクハラ被害を受けた当事者が周囲に相談できない悩みを吐露し、識者は一度レッテルを貼られることによるダメージについて言及した。
■セクハラ疑惑の前市長、認定後も否定

セクハラ疑惑をめぐっては、2024年4〜5月に市議会の職員対象にアンケートを行い、9件の被害回答があった。そして2025年5月、古謝氏による複数職員へのセクハラを認定する。「出張先でホテルの部屋に呼ばれてキスされた」「カラオケでチークダンスを強要された」「飲み会で太ももを触る、脇の下を触る」などの行為があったとして、「セクハラ被害を受けても訴えることができない状況を市長自らが作り出している行為で決して許されない」と断じた。
古謝氏は、市の女性職員に対して複数回のセクハラ疑惑があり、11月17日に議会の不信任決議で失職した。しかし、本人は「いつも笑顔で接してくれていた」「お土産もいつも喜んでくれていた」「派遣会社に相談して配置転換できたはず」「彼女から私に『おめでとうございます』とハグして終わり」と主張している。
セクハラを含む性暴力被害者の支援などを行っている、NPO法人「ステップ」の栗原加代美理事長は「表面的なところだけを見て、『俺のことを嫌がっていない』と受け止めてしまうところに、認知の歪みがあるのでは」と推測する。「妻でもない他人に、キスや触れることは性的行為だ。それを『上司は部下に何をやってもいい』『女性は性の対象にしていい』とするのには認知の歪みがある」。
「認知の歪み」とは、問題行動を継続するために、現実を歪めて、本人にとって都合のいい認知(解釈)をすることを指す。
研究者の山内萌氏は「“認知の歪み”は個人の認識に踏み込むため、批判の言葉として慎重になる必要がある」としつつ、「“派遣会社”のフレーズが引っかかる。非正規雇用はいつ切られてもおかしくない不安定な立場で、ものを言いづらい。所属組織の雇用者について客観的に見られていない点で、市長には問題があるのでは」と語る。
笑下村塾代表のたかまつなな氏は「えん罪の可能性もあるが、第三者委員会が9件の被害を認定したならば、ほぼクロではないか。それに対して反省の姿勢を見せるならわかるが、自分が被害者かのように人権救済を求めることに驚いている」とコメントする。「私も小さな会社の経営者だが、数人の中でも忖度(そんたく)は生まれる。市長と派遣職員の権力勾配の中で、『嫌だ』とは言えない。権力者が自制的になる必要があるが、その感覚がないのかと怖くなった」。
■セクハラ被害者、なぜ周囲に相談できない?

フリーランスライターのシマダさん(30代)はセクハラ被害の当事者だ。取引先の偉い人から半年に渡る被害を受けた。仕事を口実に食事に誘われたのがきっかけで、仕事が欲しかったため食事に応じるも、その後次第にエスカレートしたという。その内容は「ボディタッチ」「口説かれる」「駅のホームでキスされそうになる」「ホテルに誘われる」「日常的に『どうしてる?』などしつこい連絡」と多岐にわたる。
声を上げられなかった理由は「『仕事に支障が出るのでは』という怖さと、誰に相談していいかわからなかった。相手方の会社窓口に言っても、誰が言ったかバレてしまうため、怖くて言えなかった」と説明する。
また、「近くの人に相談しても『あいつは色恋で仕事を取っている』とウソが広まるのではと思った。正当に評価されたい気持ちがあり、セクハラ被害がマイナスに働く怖さもあった」と振り返る。「女性同士でも、恋愛の話とは違い、『セクハラされている』とは話しづらい。『自分が悪かったのでは』と思っていたため、女性同士でも話しにくかった」。
山内氏は「『業界で生き残るためには、いなさないといけない』という価値観はある。色恋がらみのイメージが一度付くと、業界内で尾ひれが付いて、うわさ話として回る。その中で立ち回るのは難しく、『いま我慢すればいいか』となるのも仕方ない」という構図を示す。
たかまつ氏も「人付き合いを考えてしまう。飲み会で太ももを触られて嫌だなと思っても、『言うと主催者はどう思うか』『場を悪くする』と考えると、冗談っぽくいなすぐらいしかできない。それでも勇気は要る」と、声を上げる難しさを明かす。
そして、「アップデートできない理由は、偉い人がセクハラすると、盛り上がる人がいるからだ」と指摘する。「第三者は注意も同調もできるが、盛り上げるコミュニケーションとして成立させてしまうと、本人は言いづらくなる。第三者が冗談っぽくても、いけないことだと伝えることが大事だ」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は、「『色恋で仕事を取っている』というウワサが流れる人には、確かに仕事を発注しにくい。そうした意味でも根深い問題だ」とする。
■セクハラ被害をなくすには…
栗原氏は「女性側は反発できず、どこにも訴えられず、八方ふさがりだ。やはり男性側の認識を変えないと、闇に葬られてしまう。女性を『人格を持った1人の人間』として尊重するか、『性の対象』として物みたいに扱うか。女性を見下し、軽蔑する見方を変えないといけない」との考えを示す。
安部氏は「痴漢依存者には『最初の痴漢を断られなかったから、続けている』と認識している人が多い。それは断られなかったのではなく、怖くて言えなかっただけだと思うが、本人たちは『コミュニケーションとして成立している』と、認知が歪んでいる」としつつ、「その歪みに介入するきっかけは、警察に捕まるなどない限りなかなか生まれない」とも話す。
一方で、自分たちが加害者側になる可能性にも触れる。「今の社会の認識と合っていても、30年後の認識とは多分ずれている。そこに合わせる努力が必要だ。差が広がっても、強固に『これでいい』と言い切る人が強い時代に、また戻ってきている。無難に生きようとすると、『とにかく人に会わない』『深い関係にならない』が正解になるが、これでいいのかとも思う」。
たかまつ氏は、「飲み会で被害が起きて、言えなかったら、やはり自分も行くのが怖くなる。今までは一番年下で『自分が被害にあう・あわない』だけだったが、年齢を重ねると『年下の子が被害にあった時、言える・言えない』の覚悟を問われる。そう考えると、ちょっと嫌になる」という。
栗原氏は「人間は、近い人と良い関係を結んでいないと、幸せを感じない」と考えている。「人間関係がうまくいかないから、うつになる人が多い。プラス思考と、良い人間関係が、これからの時代は大切だ」。 (『ABEMA Prime』より)
