青森県にある小さな村の名物料理がSNSで話題を呼んでいます。材料は駆除されたクマです。その背景には、村に伝わる“マタギの精神”がありました。
「ツキノワグマを食べた!!」投稿話題
今年、全国で相次いだクマによる被害。市の中心部を悠然と歩くクマや、大学の敷地内に迷い込んだコグマ。庭から住宅の中をのぞき込むクマもいました。リンゴ畑に侵入したクマは、1週間でおよそ5000個のリンゴを食べた可能性があります。
そんななか、SNSではクマに関するこんな投稿が話題になりました。
投稿されていたのは「クマ肉の串焼き」。道の駅のイベントで販売されていたといいます。すると…。
投稿は話題になり、8.7万以上の「いいね」が寄せられました。
「クマそば」「クマ丼」クマ尽くし
番組は、話題のクマの串焼きを販売した人を訪ねました。青森県津軽地方の西目屋村へ。人口およそ1200人で、青森県で最も人口が少ない村です。
クマの串焼きを販売していたのは、村の観光施設を運営する角田克彦さん。その道の駅の売店には…。
併設のレストランでは薄切りのクマ肉を焼き、そばにのせた「クマそば」や、クマ肉をたっぷりご飯にのせた「クマ丼」と、クマ尽くしです。
クマ肉を注文した客はこう話します。
クマ串はイベント限定の特別メニューでしたが、評判を受けて、道の駅でも出すことにしたと角田さんはいいます。
使っているのは、すべて鳥獣害対策で捕獲したクマの肉です。クマ肉をここまで活用するようになったのは、およそ4年前。その背景には、3つの理由があるといいます。
1つ目の理由「クマ被害の対策」
西目屋村の南西には世界自然遺産に登録された「白神山地」があり、東アジアで最大の原生的なブナ林が広がっています。
今月、村役場の防犯カメラに映っていた映像を見ると、体長50センチほどの子グマが自動ドアに衝突。時刻は午前9時すぎでした。
「いきなりガーンと何かがぶつかる音がして、それがもうクマだって分かった瞬間に、産業課の職員はもう大慌てで外に飛び出していきまして。役場の監視カメラに(クマが)映った時間は約22秒。(役場では)『緊迫の22秒』と言われている」
クマの駆除を担当する役場の職員、鳥獣被害対策農地巡視員の佐藤修治さんはこう話します。
西目屋村役場によると、畑などに設置された箱わなにかかり、駆除されるクマの数は増えているといいます。毎朝の見回りに同行させてもらいました。
道路の脇には、クマが通ったと思われる獣道がありました。
そして畑の木には、クマが登った際に付けたとみられる無数の爪の痕が残っていました。
村ではクマ対策を広げてきました。しかし、駆除したクマを加工する場所がなく、土に埋める埋設処分をしていました。
その対応に村民から思わぬ意見が寄せられたといいます。
2つ目の理由「村に根付くマタギの精神」
「うちの村マタギの村で、ずっとマタギの文化がありましたので、村民の方から『埋設処分するんだったら、それを有効に使ったら?』『クマ肉を食べてきたでしょう』と」
2つ目の理由は「村に根付くマタギの精神」。西目屋村には、1000年以上続くマタギ文化があります。
白神山地で狩猟や採集を行う「目屋マタギ」と呼ばれる人たちです。
およそ20年前に目屋マタギを取材した映像。マタギがクマ狩りで山に入るのは、1年にわずか1週間程度です。
マタギはクマを「仕とめた」とは言わず、「授かった」と表現します。
栄養価の高いクマは“神からの授かりもの”として重宝されてきました。
3つ目の理由「村の観光資源の開発」
一方、村の観光施設を運営する角田さんはこう話します。
3つ目の理由は、地域の伝統に基づく「観光資源の開発」です。西目屋村は豊かな自然に恵まれていますが、地元産の肉や魚はなく、これといえる食の目玉がないのが悩みでした。
そこで、村を挙げて「クマ肉プロジェクト」が始まりました。
2020年には、村営でクマ専用の食肉加工施設を設立。青森県のガイドラインでは、クマを駆除したら45分以内に施設に運び、すぐに加工することになっています。佐藤さんはこう話します。
保管庫にはクマ肉がぎっしり並びます。
処理を監修するのはフランスのジビエ料理に詳しい元料理人で、柔らかく臭みのない処理を徹底しているといいます。
しかし、小さな村ならではの苦労もあります。
村役場で駆除を担当している職員3人で、クマの駆除から食肉加工までこなしているといいます。
一方、道の駅の調理場では、新メニューの「クマの串焼き」の仕込み中。クマ肉メニューの下ごしらえは、事務局長の角田さん自らが行うことが多いといいます。
クマ肉を新たな名物に打ち出す一方で、プロジェクト自体を拡大するつもりはないと話します。
桑田村長もこう話します。
(「グッド!モーニング」2025年11月24日放送分より)


















