現在、65歳以上の高齢者のうち8人に1人が認知症とされ、非常に身近な問題となっている。そんな中、“ある要素”を加えたバーチャルリアリティゲームに関する研究が進んでいる。
記者「何か花のようなラベンダーの香り。すごくいい香りがする」
東京科学大学で記者が体験したVR(バーチャルリアリティー・仮想現実)ゲームの特徴はなんと「香り」。ゴーグルをつけることで、仮想空間にいながら実際の香りを嗅ぐことができる。
「VRゲームを使うものは初めてだと思う」

この香りを用いたVRゲームを開発・研究しているのは、東京科学大学 中本高道教授をはじめとする4人の研究チームだ。
中本教授「嗅覚が認知機能に影響を与えるという論文は今までもあったが、VRゲームを使うものは初めてだと思う」
中本教授はVRを用いると仮想世界に没入した状態で嗅覚を刺激できるため、より大きい認知機能の変化を期待しているという。
VR空間に入った体験者はまず初めに3種類のうちランダムに選ばれた1種類の香りを嗅ぐ。今回はラベンダー、スペアミント、オレンジの香りがセットされていた。
記者「あ、香りが出てきた。ちょっとツーンとする刺激臭だ。VR空間にいて香りを感じるというのは不思議だ」
そのあと、ゲームに出てくる3色の雲の香りを嗅ぎ分けて、スタート地点で嗅いだ香りと同じものを当てるというゲームだ。
今回、このVRゲームを用いることで、高齢者の認知機能にはどのような変化があるのか、研究チームは実験を行った。
VRゲームでスコアが改善

VRゲームを用いた実験を担っているのは研究チームの1人、文京学院大学の小林剛史教授だ。
小林教授「私は嗅覚VRゲームを高齢者の方が体験することで認知機能が向上するのではという仮説に基づいて研究を行っている」
参加した女性(77歳)「顔はわかるがお名前が出てこないとか。買い物も最近はメモしていく」
参加した男性(74歳)「2つやると、1個は忘れる。なんだっけなって。明日から認知症になるかもしれないし、そこは心配する」
63歳から90歳の健康な男女30人に、日を空けて2度VRゲームを体験してもらった。
参加した女性(77歳)「(香りが)すごく残っていたみたいで、分からなくて間違えてしまった」
小林教授「最初の香りが印象的で脳の中でずっと残ってしまって、次の香りが出てきても、前の香りのような気がしてしまった。でもそれで全然いい。『こうかな? ああかな?』と嗅いで選んでいただくこと自体がとても頭にいいと思っている」
参加者はVRゲームを体験する前と後で、回転した文字の正誤判定など様々な認知テストに挑戦する。その結果、VRゲームを体験することで、空間的な記憶の課題では30人中28人のスコアが改善したという。
どうしてこの香りを使ったゲームをすることで認知機能に影響があるのか?
「VR香りゲームが簡単に体験できる社会を目指したい」

小林教授「におい分子は鼻から入ってくる。嗅覚の経路は記憶とか感情に関わる脳の部位にダイレクトに投射している。そのため、香りVRゲームによってそういった脳の部位がかなり直接的に刺激を受けて、特に認知機能の改善に役立っているのではないか」
現在は研究段階だが、小林教授は今後、嗅覚VRゲームが気軽に体験できる環境を整えていきたいと話す。
小林教授「VR香りゲームが、医療機関や福祉施設など様々なところで簡単に体験できるような形で実装される社会を目指したい」
(ニュース企画/ABEMA)
