社会

ABEMA NEWS

2025年11月29日 12:00

旧統一教会を追うジャーナリスト・鈴木エイト氏「山上被告をテロリストと言うのは待って欲しい。思考停止になりかねない」「洗脳された母親も被害者」裁判で見た家庭崩壊の実相“絶望と苦悩の果て”

旧統一教会を追うジャーナリスト・鈴木エイト氏「山上被告をテロリストと言うのは待って欲しい。思考停止になりかねない」「洗脳された母親も被害者」裁判で見た家庭崩壊の実相“絶望と苦悩の果て”
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 安倍晋三元総理を殺害した罪などに問われた山上徹也被告は、安倍氏が旧統一教会に送った動画を見た心境を問われ、「絶望と危機感」だと答えた。これまでの公判では、山上被告の母親や妹が出廷し、家庭内の混乱が明らかになっていた。

【映像】裁判を受ける山上被告の表情

 今回の公判で山上被告は、兄について語り、その死をきっかけに旧統一教会幹部を狙い、ターゲットが安倍氏へ移った経緯を明かした。次々と被告自身の口から明かされる実相について、『ABEMA Prime』では裁判を傍聴し、旧統一教会を長年取材しているジャーナリストの鈴木エイト氏と考えた。

■山上被告、裁判で明らかになる数々の苦悩

主な証言

 これまでの公判では、被告の母親や妹が出廷し、事件の背景に、母親の旧統一教会への入信や多額の献金、娘への度重なる金の無心などがあったと語られた。

 そして、2回目の被告人質問で山上被告は、脳腫瘍を患い視覚障害があった兄について語った。兄は母の献金に強く反対。暴力を振るうこともあったというが、2015年に自殺している。旧統一教会が兄の通夜を強引に教団の形式で行い、それが怒りにつながったという。

 2018年と2019年には、来日した旧統一教会の幹部をナイフや火炎瓶で襲撃しようとするが、厳しい警備などを理由に断念。その後、銃を作り始めた。

 安倍元総理に矛先が向かうきっかけとなったのが事件前年、旧統一教会関連イベントに、安倍氏がビデオメッセージを寄せているのを見たことだ。「どんどん社会的に認められてしまう」として、「被害を被った側からすると、非常に悔しい。受け入れられない気持ち」だったと、被告は振り返っている。

 鈴木エイト氏は、裁判傍聴を通して「統一教会に恨みを向けたのは、かなり後の方だと明らかになった。なぜそれが安倍元総理に向いたのかのヒントも見えてきた。彼自身も自殺未遂を繰り返し、厭世(えんせい)観が見える。兄の死が一番のきっかけだったこともわかった」と語る。

■洗脳された母親も“被害者”

兄の自殺については

 山上被告は「兄が亡くなった時の母の理解」が一番のポイントだと言っているという。「あれだけ反対していた兄の死が、教団ではハッピーエンドになっている。そうした母親の理解が許せず、『もっと強硬に反対すべきだった』とスイッチが入った。また『献金のせいで自分は大学に行けなかった』と兄が荒れて、徹也本人や妹との仲が良くなかった時期もあったなど、家庭内の実相が明らかになってきた。

 裁判で、山上被告の母が合計1億円献金していたとわかった。1991年夏、夫の自殺や長男の失明に心を痛め、入信直後に半年間で計5000万円を献金。夫の死後10年以上が経った後、供養を目的に1000万円を献金した。また1998年秋、祖父の死去を受けて、母は自宅を売却し、さらに4000万円を払っている。

 鈴木氏は「ポイントは『母親も被害者』であることだ」と指摘する。「母親は『一族を救うのは自分しかいない。そのためには献金しないといけない』と、マインドコントロールされてしまった。そうして起きた家庭崩壊の悲劇であり、『ひどい母親だ』で終わる話ではない」。

 献金した1億円のうち、家族が5000万円を取り返したが、それもまた「神にささげた献金を取り返すようなことをしたから、兄の死があった」と、母親の信仰心を強めてしまう結果となった。

 母親は裁判で「教会に尽くせば家が良くなると思った」などと証言したが、現在も脱会はしていない。「教団を責める言葉はあるが、最後はどこかかばっている。マインドコントロールされている母親の姿を見せることで、この問題の実態がわかるところが、弁護人の狙いでもある」。

 妹は「徹也(山上被告)の絶望と苦悩の果て」に事件が起きたと証言した。「妹は『母の顔をした信者だ』と言う一方で、『母親の姿形をしているから、突き放せなかった』とも言っていた。この1文にカルト問題の根深さや哀愁が表れている」。

■山上被告は“テロリスト”なのか?

母の献金

 山上被告は、何度も“未遂”行為をしていた。2006年頃には、来日中の教団幹部をナイフと催涙スプレーで襲撃しようと大阪に向かった。2018年には、さいたまスーパーアリーナでの教団行事を狙うも、会場が大規模だったことから直前でやめた。2019年には愛知県の空港で、来日中の教団幹部をターゲットにし、複数の火炎瓶を準備するも、見つけることができず、海に捨てている。そして事件直前の2022年7月7日、岡山の演説会場で、安倍元総理の銃撃を計画したが、近づけなかった。

 鈴木氏は、山上被告を“テロリスト”と表現することに注意を促す。「日本の法律では、テロ行為を『政治的な思想信条を実現するために、社会に不安や恐怖を与える目的・手段』と規定している。現時点でテロだと認定してしまうと、前提となる議論が進まなくなってしまう」。

 そして、「『一種のテロだ』と言ってしまうと、そこで思考停止になりかねない。また、テロと認定された瞬間、テロリストの言い分を流してはいけないよねという流れになってしまいかねないので、(テロであることを前提とした議論は)まだ待って欲しい」と求めた。

 実は、山上被告の机には、通信制大学の法学部の願書があり、「将来は法曹としてカルト教団被害者の一助となることが目標」と書かれていたという。2010年、当時30歳の頃に用意したものだ。事件を起こさずに、救われる道はなかったのだろうか。

 鈴木氏によると、「今回証人として出た神谷慎一弁護士(霊感商法対策弁護士連絡会)は、旧統一教会信者だったが、親の説得で脱会して、その後に弁護士として被害救済に向き合っている」として、「なぜ山上被告もそういう境遇になれなかったのか」と問う。「彼の頭の良さも見えている。もし法曹関係者になっていたら、優秀な弁護士になっていたと思うと、本当に惜しい。優秀な人材を、なぜ犯罪者にしてしまったかを考えないといけない」。

 山上被告は、事件を起こすことによって、旧統一教会問題が話題になると想定していたのか。これについて、鈴木氏は「核心部分は出ていないが、報道ベースでは『このような事態になるとは思わなかった』と言っている。被告人質問で重要なのは、元総理の動画を見た時のことについて、絶望に加えて『危機感』と発言した点だ」とした。

 事件前、メディアの報道は十分だったのだろうか。法廷で明らかになった山上被告が直面した”宗教虐待”の実態について、問題提起はあったのか。鈴木氏は、「僕は政治家と教団の関係を報じてきたが、それを山上被告は見ていたことが裁判で明らかになった。一方で、他のメディアは僕の報道を追わず、ニッチな話題で終わっていた。被害者に希望を与えられる報道ができていたら、変わっていたのではないか。解散命令や被害者救済法などが出たが、本来であれば事件が起こる前にやるべきだった」とした。 (『ABEMA Prime』より)

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