「ひき逃げ死亡事件は時効を撤廃してほしい」と訴える遺族がいる。事件は2009年9月30日、埼玉県熊谷市で起きた。当時小学4年生の小関孝徳さん(当時10歳)が、書道教室から自転車で帰宅途中、車にはねられ死亡した。
母の代里子さんは、現場で「1台目はこちらから来た車。2台目は逆から来て、2台目の時は後頭部をひかれてしまい即死状態」だったと説明する。
孝徳さんは2台の車にひかれた可能性がある。そのことを代里子さんが知ったのは、事件から13年目だった。2台目の車が、路上に転倒した孝徳さんをひいた可能性があり、頭蓋骨の一部が道路の反対側まで飛ばされるほどの損傷が激しく、即死だったという。現場にブレーキ痕はなく、はねた車はそのまま逃走。そして16年間、逃走した車はわかっていない。
孝徳さんは、事件の1年半前からサッカーを始めたばかりだった。親元から離れた合宿が楽しかったと、笑顔で話す姿を代里子さんは今も忘れられない。息子の死の真相を知り、逃げた運転手に罪を償って欲しいと、情報提供を呼びかけるビラを作り、懸命に活動してきた。ここにも苦しむ側が悲しみを癒す暇もなく、自分が歯を食いしばらねば現状を打破できない姿があった。
「やっぱり我が子なので、あの日何があったのか真実を知りたい。(真実が)わからないまま、(犯人が)逃走していて、逃げ続けていることも許せない」(母・代里子さん)
目撃情報もなく、捜査は難航した。代里子さんは事件直後、たった1人で息子が亡くなった現場に立ち、行き交う車を調べ始めた。事件が起きた時間帯に通る車の数や、運転手の性別を1台1台確認して記入。現場の道は生活道路のため、犯人は土地勘のある人物のはずだと推測し、もちろん再びこの道を通るはずはないと思いながらも、手がかりを集めた。
その後、偶然その姿を見たママ友たちが加わり、さらに克明に記録していった。車はどの方向から来て、どちらに曲がったのか。再び同じ車両が、この道を通る時間帯まで記した。調べた車の数は約10万台にのぼった。
すると、現場を通る車の多くは、熊谷市内ではなく、近隣の市や県に帰って行くという傾向に気付いた。その地域に出向いてビラを配り、特定の外国人が多く住む場所では、その国の言葉で作ったビラも配った。代里子さんは「本当にお母さんたち(ママ友)のおかげなんです」と語る。それでも有力な情報は得られなかった。
当初この事件は「ひき逃げ(道交法違反)」および「自動車運転過失致死罪」で捜査を開始したが、この罪名での公訴時効は10年だった。代里子さんは「逃げる行為がどういうことか。逃げた時点で次の車にひかれるかもしれない。(1台目の人が)助けてくれていたら(息子は)助かっていた事故だった」と憤る。
10年の時効が迫った2019年。埼玉県警は時効が20年の「危険運転致死罪」に罪名を切り替えた。これにより10年後の2029年9月30日まで時効が延長された。時効成立の12日前の判断だった。代里子さんは今、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を訴えている。「結果的に時効が成立したら無罪になる。息子をひいたことも無かったことになる」。
犯罪白書によると、死亡ひき逃げ事件の検挙率はほぼ100%だが、過去33年間に発生した死亡ひき逃げ事件では、未解決のまま公訴時効を迎えたケースが、全国で数百件に上るとみられる。
熊谷市議会や埼玉県議会では、時効撤廃を求める意見書が採択されたが、ハードルは高くそびえる。代里子さんは法務省に出向いた時のことを、今も鮮明に覚えている。「(ひき逃げは)97〜100%近く検挙されている。法務省からは『(捜査は)ちゃんとやっております。そこに時効撤廃は必要なのでしょうか?』」と。その100%に入らない被害者が目の前にいたのに。
さらに担当者から「『六法全書にも書いてありますけどわかりますか?疑わしきは罰せずなんです』と(言われた)」として「時効撤廃となると、殺人と同様に死刑制度の問題を取り上げられてしまう」と語った。
代里子さんが「教えてください。いま私は、希望の中にいますか?それとも絶望ですか?」と問うと、担当者は困った表情で「私たちでは動けないんです。世論が動けば、なんとかなるのですが」と答えたそうだ。
そんな中、希望の光となったのが、名古屋主婦殺害事件の容疑者逮捕だ。26年前にわからなかったことが、今の科学でわかるようになった進歩や、捜査員の熱意が伝えられた。
代里子さんは、警察は犯人特定に近づいているのではないかと感じている。「今16年目でわかったことがたくさんある。新しい担当警察官が動いてくれている。また1からもう一度調べ直してくれて、特に初動捜査の部分で16年目でわかったことがあり、1歩犯人に近づく手掛かりがつかめたと聞いている」。
情報提供者からは、不審な車両や、事件との関係を疑うような人物の情報が舞い込むようになった。しかしこの瞬間も、時効は続いている。「時効制度の壁にぶち当たれば、あと残り3年10カ月。時効制度は撤廃してもらいたい」。
取材後、代里子さんは、ほほ笑みながら「最近、自分の年齢を公表していないんです。だって、私だけ年をとって、孫の話をしているみたいになるでしょ」と語った。孝徳さんが生きていれば、26歳の青年だった。
代里子さんや警察は、情報提供を求めている。例えば「何年も車両を放置している車を知っている」「突然ハッキリした事情もなくいきなり引っ越しをした家を知っている」「運転していた車を突然廃車した人を知っている」「車を突然買い換えた」など。「犯人は秘密を抱えて生きていくのは難しいのではないか。きっと誰かに話をしていると思う」とのことだった。
熊谷警察署への情報提供は、048-526-0110で受け付けている。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
