厚生労働省の調査によると、2024年度、全国の病院の約7割が赤字となり、病院経営が危機的な状況になっていることがわかりました。
診療を休止する病院が、各地で相次いでいます。
経営を圧迫する『3つの原因』と解決策をみていきます。
■病院経営の危機 物価高 医師不足…医療現場の実態
今、一般病院の72. 7%が赤字です。
一般病院は、20床以上の病床を持つ医療機関です。
さらに一般病院の倒産や休廃業も増えています。
2024年の一般病院の倒産、休廃業は106件、前年比3割増です。
医療機関が苦境に立たされている状況が鮮明になり、地域医療の根幹に関わる事態が進行している、と指摘されています。
厚労省は、病院の赤字の原因について、
『物価や人件費の伸びが、費用面を押し上げているのが大きい』と分析しています。
物価や人件費などが高騰し支出が増えているのに対して、収入である診療報酬が追い付いていない状況です。
診療報酬は、診療や手術など医療サービスに対して、政府が決める公定価格で、2年に一度見直し、改定されます。
次回の改定は、2026年6月です。
2年に一度の見直しなので、急激な物価上昇に追いつかない状況です。
病院の中でも物価高の影響を受けやすいのが、大学病院や地域の中核病院など規模の大きな病院です。
原因です。
●高度な医療機器の購入や更新が必要で、物価高の影響を受けやすいです。
●各科の専門医など高度な医療人材を雇用する必要があり、人件費による経営圧迫を起こしやすいです。
「このままでは、地域にとってなくてはならない、核となる医療機関から倒れてしまう」ということです。
病院の赤字の原因は、物価高の他にもあります。
東海地方にある地域の中核病院です。
病床数は、約460床。地域医療を担う総合病院です。
こちらの病院は、物価高の影響もあり、2024年度は、約12億円の赤字でした。
物価高に続く2つ目の赤字の原因は、医師不足です。
外科の一部の科では、2025年3月に医師4人のうち3人が退職し、現在、手術の受け入れを停止しています。
そして、内科の一部の科では、2025年3月に医師が1人もいなくなり、診療を休止しています。
手術の停止と診療の休止によって、2024年度より、約6億5000万円の減収になります。
「最近の先生方は、自分の好きなところで働きたいという傾向が強い。東京から医師を派遣してもらっているが、首都圏から離れたくないという先生も多い」と話しています。
「首都圏の病院でスキルアップをしたいと考えている医師が多い。医師不足の地方の病院の方が、医師を確保するために待遇を良くせざるを得ず、人件費が上がり、経営を圧迫するケースも」
さらに赤字の3つ目の原因となっているのが、不採算部門です。
産婦人科や小児科、救命救急などが、少子化の影響もあり、収益が見込めない不採算部門となっています。
地域医療を支えるため、収益を見込めなくても、診療を縮小できないジレンマもあるということです。
■政府は医療機関などに補助金で支援 赤字経営解決は?
「報酬改定の時期を待たず、経営の改善及び従業者の処遇改善につながる補助金を措置して、効果を前倒しする」としています。
政府は、2025年度の補正予算案で、医療機関などの支援に約5300億円を計上しました。
医療機関の物価高対策支援、医療従事者への賃上げ支援を行うとしています。
「今のままだと、病院がどんどん倒産してしまうので、補助金は必要。ただし、赤字の根本的な解決には、医療機関側の構造改革が必要」
■地域医療の維持どうする?病院の再編・統合も
医療体制を維持するための病院の再編、結合についてです。
病院数・病床数は、9月末時点で、病院数は8001施設、病床数は145万322床です。
「日本は従来、医療の受けやすさを重視してきたため、多くの病院・診療所がつくられてきた」ということです。
日本の病院数と病床数を、他の国と比べます。
こちらは、OECD加盟国の病院数と病床数の比較です。
日本の人口100万人あたりの病院数は65施設で、コロンビア、韓国に次いで3位。
オーストラリアやフランスを上回っています。
人口1000人あたりの病床数は12床で、韓国に次いで2位となっていて、病院数、病床数ともに諸外国に比べて多いことがわかります。
厚労省は、『新たな地域医療構想』として、医療を効率的かつ効果的に提供できる医療提供体制を構築するため、医療機関の『連携』『再編』『集約化』が重要だという方針を示しています。
再編が実現した静岡の病院のケースです。
再編前は、『掛川市立総合病院』と『袋井市民病院』という、隣り合った市の2つの病院で医師不足が問題になっていました。
『袋井市民病院』では、産婦人科の常勤医が、『掛川市立総合病院』などに移った影響で、産婦人科の入院・出産の受け入れを休止していました。
それが、再編後には、2つの病院が、『中東遠総合医療センター』として1つになり、地域の中核病院として再編され、医師不足は改善されました。
「再編により、地域医療の崩壊を免れた。統合前に比べ、救急搬送先の選定にかかる時間が短縮され、受け入れ件数も増加し、扱う症例も増えたことで、若手医師の育成にも取り組めるようになった」と話しています。
「身近な医療は、身近な地域で引き続き行われなければならないが、専門医療や高度医療は、質を維持するために、医療資源の集約化が欠かせない」
■病院の老朽化ラッシュ 相次ぐ診療休止 深刻影響も
病院経営に追い打ちをかける問題があります。
『病院の老朽化』です。
医師にアンケートしたところ、老朽化を「非常に感じる」「ある程度感じる」と答えた人は、あわせて66. 4%でした。
「大学病院なのに築50年超え。患者が利用する通路の雨漏りがひどい」
「医局の空調が壊れたが、修理までに半年かかった」
という声も出ています。
東京の吉祥寺南病院です。
設立1970年、病床数125床、24時間体制の2次救急医療機関でしたが、老朽化により2024年10月1日から診療を休止しています。
「費用が、物価高や人件費高騰でなどで膨らみ、経営努力だけでは修繕・建て替えができるほどの余力は生まれなかった。結果、地域医療に空白が生じてしまった」ということです。
現在は、運営可能な医療法人に引継ぎ、2029年度の診療再開を目指しています。
兵庫県の近畿中央病院です。
老朽化で近隣病院との統合を目指していましたが、建設予定地の土壌汚染の判明や、建設費の上昇による入札不調で統合が延期になり、医療体制が継続困難になったことで、2026年3月をもって診療を休止します。
「老朽化したからと言って、無理に建て替える必要はなく、病床はやめて外来機能のみを残すなど、医療機関側が地域のニーズに合わせていくことも重要」
(「羽鳥慎一モーニングショー」2025年12月3日放送分より)
















