社会

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2025年12月6日 02:45

存続かけて“走る医師”都立病院の改革に密着 全国の病院“7割以上が赤字”

存続かけて“走る医師”都立病院の改革に密着 全国の病院“7割以上が赤字”
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厚生労働省の調査で、全国の病院の7割以上が赤字だったことが分かり、かつてない危機感が広がっています。東京都内の公立病院も例外ではありません。物価高、人件費などの上昇で経営が悪化、施設の老朽化も進んでいます。病院の存続をかけた取り組みを取材しました。

存続かけて“走る”医師

午後6時。診察を終えても帰るわけにはいきません。「もうひと仕事ある」と話し、都立墨東病院、呼吸器内科の部長・小林正芳医師がまたがったのは自転車です。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「いやぁ冷えてくるね」
(Q.真冬でも自転車)
「もちろんそうだよ」

病院スタッフを伴って訪れたのはある診療所。医師による営業です。早速切り出したのは、営業マンさながらの御用聞き。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「最近お困りとか(緊急の)電話のつながりにくさとか」
福井クリニック 福井光文院長
「最近は比較的スムーズに」

安心して患者を紹介してもらうため、連携がうまく取れているか確認します。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「いろいろ今後ともよろしくお願いします」

翌日は別の場所へ。こちらも関係強化が目的です。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「最近ちょっとチラシを作ってみたんですけど」
(Q.すごいですね量が)
「うちの外科は活性化してきているので。一声かけていただければ」

訪問先の受け止めは。

訪問を受けた 賛育会病院の医師
訪問を受けた 賛育会病院の医師
「本当に珍しいと思いますね。医師って非常に忙しい人が多いので、なかなか会えない。自分の患者を紹介する時に、顔が見えていると安心」

なぜここまでして、毎日“営業”しているのでしょうか。

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コロナ後に“追い打ち”

墨東病院

小林医師が勤める墨東病院は、墨田区を中心とする地域の基幹病院です。その名を全国に知らしめたのは新型コロナの時。ほとんどのスタッフをコロナ対応にあて、多くの重症患者を受け入れました。そして今、救急患者の受け入れも都内トップクラス。現場の最前線に立ち続けています。

病院経営は赤字

ところが、病院経営は深刻な赤字に陥っています。働き方改革に合わせて医師を増やしたことで人件費が上昇。さらに、急激な物価高で治療に欠かせない資材も軒並み値上がりしました。そして、追い打ちをかけているのが病院の老朽化。修繕費用もかさみます。

一方、収入の柱となる診療報酬はほとんど変わらないため、支出だけが増えていきました。3年前に独立法人化した後も東京都から補助金を受けていますが、それでも赤字額は18億円。2年連続の赤字です。

足立健介院長はこの日、経営会議に出席して詳細な報告を受けました。

東京都立墨東病院 足立健介院長
「8月9月が稼働が良くなかった。週末に向けて、もう一歩だね」

就任して4年。病院の常識を変える必要性を感じています。

東京都立墨東病院 足立健介院長
東京都立墨東病院 足立健介院長
「このままだったら潰れる。経営がしっかりしていないと病院が維持できない。病院が維持できなければ手術もできない。ぐるっと回ってどこに迷惑が行くか。患者さん本人が受けたい時に“受けるべき医療”が受けられない」

そして今、抜本的な改革に乗り出しています。

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DX導入で“一目瞭然”

入院医療費 75歳「肺炎」

入院患者に配られた1枚のお知らせ。強く打ち出したのは“早期退院・早期転院”です。入院日数は病院の収入に大きく影響しています。例えば75歳、肺炎の場合。入院から1週間までは定額3万3000円ほど。その期間を超えると段階的に収入が減り、病院の経営にはマイナスです。これは必要以上に長い入院を防ぐために国が決めたルールで、患者をどんどん受け入れ、適した期間に退院できるよう治療することが求められています。ただ、その期間は病気によって異なります。患者ごとに、状態を照らし合わせ、決められた日数を割り出す必要があります。

東京都立墨東病院 看護部長 上野真弓副院長
「“直腸がん”だけでも38種類。ここから探し出さなきゃいけなかった。でも忙しい中でそこまでできない」
大型モニター

そこで導入したのが、壁を覆いつくす大型モニター。患者の退院日が一目で分かります。今年からこのシステムを取り入れ、関係するスタッフ全員が共有できるようにしました。ただ、回復のスピードは人それぞれ。数字だけでは割り切れないのが医療です。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「僕ら1対1で、とにかく医療をやるので、いかに平均と平均でない人に1人ずつ向き合うか現場では大事。医者であると、ずっと最後までみていきたいところもある。落ち着いた患者さんは他の病院に任すということも大事なことなのかなと」
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求められる病院の“役割分担”

経営としても成り立つ仕組み

治療が難しい“重症患者”を受け入れる墨東病院。ここで容体を立て直し、再び地域の適した病院へ送り出します。この循環が生まれて初めて、医療としても経営としても成り立つ仕組みになっています。ただ、送り先がなければ続きません。小林医師は、こういった患者の受け入れ先も営業し、連携病院を増やしていました。

福井クリニック 福井光文院長
「墨東病院から送られて来た患者さんに関しては、なるべくスムーズに回していくという形も作っているので、お互いそこをやれば患者さんとウィンウィンな関係になると」

患者とも直接向き合う小林医師。求められる“数字”と“診療”のバランスについてどう感じているのでしょうか。

東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
東京都立墨東病院 呼吸器内科部長 小林正芳医師
「医療者側が、ここまではしっかりと医療の提供をしたいという信念みたいなものが必要なのかなと。その中でどこまで数字を合わせることができるのか。そこをしっかり僕らから提示できるような、医療の質を落とさずやっていくことが大事」
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